魔王の溺愛

あおい 千隼

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二十三話

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 小さな手を運び木の実を食べさせてくれた人の子の優しさに触れ、それ以来バルバトスは度々人間界にきてはジュリオの様子を見守った。あるときは軒先に山と食糧を置いていき、母子の手助けをしてやったりもした。

 朝になると籐籠いっぱいの肉や果物それに白パンなどが置かれていて不思議に思うも、親子を案じる近隣の心づくしの配慮かと感謝をして受け取っていたジュリオ。

 過去のひとつひとつが明らかになるたび、バルバトスの優しさが心に沁み得も言われぬ感情がジュリオの胸に生まれる。甘く痺れるような心の温もりは、けれどもそれが何なのかジュリオには分かっていた。

「バルバトス様……」

「なんだ」

「僕はバルバトス様のことが好きです。はじめは怖かったけど今は怖くない。ずっとバルバトス様のおそばにいたい。ですが母さんをひとりにはしておけない」

 潤む瞳からいくつもの涙がこぼれ落ち、「伴侶にはなれません」と震える声で断わった。

 ジュリオから想いと別れを告げられたバルバトスの表情は苦しさに歪み、愛しき者を抱きしめる腕は少しずつ力が緩んでいく。このまま永遠にとじ込めておきたい、けれどそうするとジュリオから笑顔は失われるだろう。

 ジュリオを手放したバルバトスはひと言「分かった」と口にすると、その途端ジュリオはまぶたが重くなり意識が保てなくなっていく。消えゆく意識のなか最後に訊いた彼の言葉は「悪かった」──淋しそうな表情がジュリオの胸に焼きついた。
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