12 / 26
第十一話 風早家
しおりを挟む
「お邪魔します」
「「どうぞ」」
冬美は綾人達が家に帰ってから十分くらい過ぎたあとに来た。距離的に大体予想していた時間帯とほぼ同じだ。
冬美は持ってきた荷物をリビングに置いて、一言断ってからソファーに座った。その膝上にまるで猫のようにあんずも座る。冬美もその腰に手を回し、飼い猫を扱うかのようにぎゅっと抱きしめる。
「飲み物はどうする?」
「あたしミラクルジュースっ」
「私はお茶がいいかな」
二人の注文を受け付けた綾人は、キッチンでそれぞれの飲み物を用意する。ミラクルジュースは何かと言うと、商店街にある店の一つが提供しているよくわからない味の飲み物だ。奇抜な味で万人受けではないがリピーターは意外と多いらしい。色は濃い紫色だ。
綾人は、自分用に紅茶を用意し、お盆に乗せてソファーへと運んだ。
「ありがとう」
「お兄ちゃんもこっちきたら~?」
「いや、遠慮しとくよ」
流石に男が女性の膝の上に乗るのは憚れる。一応思春期真っ只中だからね。
****
冬美が家に来てからずいぶん時間が経ったが、あんずと二人で話し込んでいて綾人は完全に蚊帳の外だ。それでも見たところ暇を持て余している様子はない。携帯水晶板でやっているゲームにすっかり虜になってしまっている。
「暗くなってきたね」
「お兄ちゃん、電気つけてっ」
そんなこんなで外はすっかり暗くなってしまった。綾人はあんずに頼み事をされたが聞こえないほど集中しているようで、ずっとゲームをしている。
あんずは、無視されたことに少しムッと気たらしく、ソファーの上においてあったクッションを取り、思いっきり投げつけた。クッションは綾人の顔面にクリーンヒットする。
「あ、負けた」
「無視しないでっ」
「ごめん今いいところだったからさ。 電気ね」
綾人は立ち上がって、大きく伸びをする。電気をつけ、再びソファに戻る。時計を見ると時間はすでに六時三十分になっていた。
「そろそろ食事にしないか?」
「もうそんな時間なんだ。 あんずちゃん、急いで作るよ!」
「ラジャーっ!」
冬美が夕飯を作るときはあんずも毎回手伝っている。普段夕食を作っている綾人だが、流石にキッチンに三人は狭すぎるので配膳係に徹する。料理ができるまでは暇なので再び携帯水晶板を手に取り、動画を見る。キッチンの二人は仲良く談笑しながら料理を進める。
「痛っ」
綾人はイヤホンをしていたが、あんずの声にすぐ反応した。どうやら話に夢中になって誤って指を包丁で切ってしまったらしい。傷はそこまで深くないようで出血量は少ない。綾人は、自分の部屋に行って、絆創膏を取ってくる。
綾人が戻ってくると、異様な光景が広がっていた。
「ちょっ、冬美さん…… おにぃ、助けて~」
あんずが壁により掛かる形で座っており、その顔は真っ赤で半泣きになっている。なぜそうなっているかと言うと冬美があんずの出血している指を咥えて吸っているからだ。吸われているあんずは、どういう感情なのかわからないけど人前でいつもの綾人への呼び方になるくらい変な感じになっているらしい。
まずいな、まだ昨日の余韻が残ってるのか。
「はい、これで血止まったね」
綾人の心配は杞憂だったようだ。冬美はただ、圧迫止血を行っていたらしい。変な気持ちにでもなったかと思った。
「冬美、他にやり方があったんじゃないか?」
「こっちのほうが慣れてるから」
「慣れてるって…… あんすが変なふうになっちゃったけど」
「くすぐったかったのかな?」
「そうなの?」
「…………」
あんずは、先程まで吸われていた指を擦りながら、顔を背けている。綾人は、全く意味がわからず、首をひねるばかりだが、とりあえずあんずはこれ以上料理に参加することはできなさそうと判断し、ひとまず座り込んでるあんずに絆創膏を渡してから冬美と二人で料理に取り掛かった。
綾人は、自分も吸ってもらったら気持ちがわかるかもとふと思ったが、冬美に提案することはなかった。そんな提案をしたら間違いなく綾人は変態扱いされて、家に帰れなくなるだろう。
冬美はというと、綾人と同様、首をひねりながら『そんなにくすぐったかったのかなぁ』と、独り言を言っている。
あんずは、料理ができあがった頃にようやく回復したらしく、少しぎこちない手つきで配膳を行った。いったいどうしたんだろう。
「「どうぞ」」
冬美は綾人達が家に帰ってから十分くらい過ぎたあとに来た。距離的に大体予想していた時間帯とほぼ同じだ。
冬美は持ってきた荷物をリビングに置いて、一言断ってからソファーに座った。その膝上にまるで猫のようにあんずも座る。冬美もその腰に手を回し、飼い猫を扱うかのようにぎゅっと抱きしめる。
「飲み物はどうする?」
「あたしミラクルジュースっ」
「私はお茶がいいかな」
二人の注文を受け付けた綾人は、キッチンでそれぞれの飲み物を用意する。ミラクルジュースは何かと言うと、商店街にある店の一つが提供しているよくわからない味の飲み物だ。奇抜な味で万人受けではないがリピーターは意外と多いらしい。色は濃い紫色だ。
綾人は、自分用に紅茶を用意し、お盆に乗せてソファーへと運んだ。
「ありがとう」
「お兄ちゃんもこっちきたら~?」
「いや、遠慮しとくよ」
流石に男が女性の膝の上に乗るのは憚れる。一応思春期真っ只中だからね。
****
冬美が家に来てからずいぶん時間が経ったが、あんずと二人で話し込んでいて綾人は完全に蚊帳の外だ。それでも見たところ暇を持て余している様子はない。携帯水晶板でやっているゲームにすっかり虜になってしまっている。
「暗くなってきたね」
「お兄ちゃん、電気つけてっ」
そんなこんなで外はすっかり暗くなってしまった。綾人はあんずに頼み事をされたが聞こえないほど集中しているようで、ずっとゲームをしている。
あんずは、無視されたことに少しムッと気たらしく、ソファーの上においてあったクッションを取り、思いっきり投げつけた。クッションは綾人の顔面にクリーンヒットする。
「あ、負けた」
「無視しないでっ」
「ごめん今いいところだったからさ。 電気ね」
綾人は立ち上がって、大きく伸びをする。電気をつけ、再びソファに戻る。時計を見ると時間はすでに六時三十分になっていた。
「そろそろ食事にしないか?」
「もうそんな時間なんだ。 あんずちゃん、急いで作るよ!」
「ラジャーっ!」
冬美が夕飯を作るときはあんずも毎回手伝っている。普段夕食を作っている綾人だが、流石にキッチンに三人は狭すぎるので配膳係に徹する。料理ができるまでは暇なので再び携帯水晶板を手に取り、動画を見る。キッチンの二人は仲良く談笑しながら料理を進める。
「痛っ」
綾人はイヤホンをしていたが、あんずの声にすぐ反応した。どうやら話に夢中になって誤って指を包丁で切ってしまったらしい。傷はそこまで深くないようで出血量は少ない。綾人は、自分の部屋に行って、絆創膏を取ってくる。
綾人が戻ってくると、異様な光景が広がっていた。
「ちょっ、冬美さん…… おにぃ、助けて~」
あんずが壁により掛かる形で座っており、その顔は真っ赤で半泣きになっている。なぜそうなっているかと言うと冬美があんずの出血している指を咥えて吸っているからだ。吸われているあんずは、どういう感情なのかわからないけど人前でいつもの綾人への呼び方になるくらい変な感じになっているらしい。
まずいな、まだ昨日の余韻が残ってるのか。
「はい、これで血止まったね」
綾人の心配は杞憂だったようだ。冬美はただ、圧迫止血を行っていたらしい。変な気持ちにでもなったかと思った。
「冬美、他にやり方があったんじゃないか?」
「こっちのほうが慣れてるから」
「慣れてるって…… あんすが変なふうになっちゃったけど」
「くすぐったかったのかな?」
「そうなの?」
「…………」
あんずは、先程まで吸われていた指を擦りながら、顔を背けている。綾人は、全く意味がわからず、首をひねるばかりだが、とりあえずあんずはこれ以上料理に参加することはできなさそうと判断し、ひとまず座り込んでるあんずに絆創膏を渡してから冬美と二人で料理に取り掛かった。
綾人は、自分も吸ってもらったら気持ちがわかるかもとふと思ったが、冬美に提案することはなかった。そんな提案をしたら間違いなく綾人は変態扱いされて、家に帰れなくなるだろう。
冬美はというと、綾人と同様、首をひねりながら『そんなにくすぐったかったのかなぁ』と、独り言を言っている。
あんずは、料理ができあがった頃にようやく回復したらしく、少しぎこちない手つきで配膳を行った。いったいどうしたんだろう。
0
あなたにおすすめの小説
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる