船を建てた男 ~信長の鉄甲船 建造物語~

九條葉月

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弟子

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 信長たちの間でフランキ砲量産の方針が決定されていた頃。伊勢の鉄介の元には岡部が手配してくれた大工の棟梁が到着した。

 しかし、鉄介が驚いたのはその歳だ。

 ずいぶんと若い。まだ二十にもなっていないのではないだろうか?

 そして、人数もまた驚きに値する。

 岡部が派遣してくれた棟梁の他に、10人ほどの大工を引き連れてきたのだ。

 戸惑う岡部に対して、棟梁だという青年が軽く頭を下げた。

「鉄介殿。あっしは岡部又右衛門の孫で、宗光。若輩者でございやすが、精一杯やらせていただきやす」

「おお! 岡部殿の孫であったか!」

「へい。祖父は父を寄越すつもりだったようですが、どうにも安土の天主から手が離せないようでして、代わりにあっしが。経験が足りず申し訳ねぇことでございやすが」

「いやいや、若いというのはそれだけで頼りになる。城大工でありながら船大工の仕事を学ぶのなら頭は柔らかい方がいいからな」

「そう言っていただけやすと、こちらとしても助かりやす」

 口調はいかにも職人だが、態度は丁寧。さらには鉄介を尊敬している風にも見える。

(これは仕事がやりやすそうだ)

 胸をなで下ろす鉄介であった。


                  ◇


 木材の切り出しは終わったので、宗光たちにはさっそく一隻目を建造しながら船造りを学んでもらうことになった。

 ちなみにまだ木材の乾燥が終わっていないが、一隻目に関しては別の船に使う予定だった資材を流用するので、今すぐに作り始めることができるのだ。

「木材の加工だが、木には腐りやすいところがある。我らはそれをシラタと呼んでいるが、そこをあらかじめ取っておかねばならない」

 鉄介が丸太の断面を見せながら説明する。丸太の中心部は色が濃いのだが、周りの部分……つまりは、近年出来上がった部分は白に近い色をしている。これを捨てるのは惜しい気がするが、残しておいては腐ってしまうのだ。

「ほぅ、シラタでございやすか」

 紙を纏めて紙束にしたものに書き記していく宗光。正直、城大工でもシラタの部分は使わないと思うのだが……もしかしたら鉄介に気を遣い、知らないふりをしているのかもしれない。

「木材の乾燥は……城大工もやっておるか」

「へい。しかし柱状ではなく板状にするのは珍しいですので参考になります。城に使う板は薄いものばかりですし」

「ほぅ、そうか」

 そういうことならと木材を乾燥させている場所に宗光を案内する鉄介。

 乾燥。とはいえ室内で乾かすわけではない。むしろ適度に風雨にさらすことで『あく』が抜けるのだ。

 あとは板状であるので、柱よりも簡単に反ってしまう。ずっと同じ方向で置いておくと歪んでしまうので、適度に方向を変えるのが重要となるのだ。

「同じく木を使う仕事ですが、やはり城大工と船大工は違いますなぁ」

 どこか嬉しそうに目を輝かせる宗光だった。彼も大工として、未知の技を知ることができるのが嬉しいのだろう。鉄介も城造りの現場で学ばせてもらえば今の宗光のような反応をするに違いない。

「鉄介殿。これよりは『師匠』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「む? 構わぬが、宗光殿は岡部殿の孫。岡部殿か、その息子殿を師匠としているのではないか?」

「へい。その通りですが、やはり船について学ばせていただく以上、鉄介殿を師匠とお呼びしたく」

「うむむ」

 ここまで頼まれているのだから承認してやりたいが、しかし岡部殿の孫を勝手に弟子扱いするのも駄目であろう。

 悩む鉄介を宗光が丸め込もうとする。

「それに、ここで師匠とお呼びしなければ、あっしが祖父に叱られてしまいやす。お前は筋も通さず技だけ盗んできたのかと」

「むむ、そこまで言われると」

 承認するしかない鉄介だった。


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