33 / 34
椿と
しおりを挟む鉄板作りの話は予想以上にすんなりと纏まった。これはおそらく鉄之介が『親心』を見せたからだろう。もしもこれが鉄介ではなく赤の他人からの話だったら「本当に織田信長関連の依頼なのか? 騙そうとしていないか?」という疑問を払拭することから始めなければならなかったはずだ。
銭を受け取れるかも分からない。
そもそも材料である鉄が本当に来るのかすら分からない。
それを、息子を信じたからこそ鉄之介も受けたのだ。
(これが、親子というものか……)
天涯孤独の椿からすればよく分からない感覚だ。子供とはいえしょせんは別の人間。そう簡単に信じていいものなのだろうか? そもそも鉄介は家を継がずに飛び出してしまった親不孝者であるはずで――
そんなことを考えているうちに宴の準備は終わり、椿も鉄介と共に会場へと案内された。
(しまった。何か手伝うべきだったか)
料理などまるでできない椿だが、こういうときに手伝わない人間がどういう目で見られるかは知っている。『なるべく目立たず、角を立てず』というのが忍びとしてのあるべき姿なのだ。
恐縮しつつ、案内されるまま床に座る椿。
だが、その場所がまた問題だった。
入り口から一番遠い、いわゆる上座。
そんな上座に椿と鉄介が並んで座らされていたのだ。
(……これでは、まるで祝言をあげるみたいではないか?)
周りにいる人間も、企みをしている顔というか悪戯を成功させた子供というか、なんとも椿にとっては面白くない顔をしている。
何か言うべきか。
いやしかし、ここでことを荒げるのも……。
椿が悩んでいるうちに次々と料理が運ばれてくる。……信長の元にいた椿でも滅多に見たことがないほどの豪勢さ。無論椿が食べたわけではなく、影ながらの護衛の最中に見たことがあるというだけだ。
有名な鍛冶師集団とはいえ、民草であることには変わらない。これほど豪勢な料理など、一生のうちでも何度食べられるかどうか……それこそ祝言をあげるときのような……。
「ほぉ! これはまた見事な! やはり信長様は銭払いがいいのだろうか?」
暢気な声を上げる鉄介。ここまで鈍いとわざとやっているのではないかと疑いたくなるが、彼がそんな人間ではないことは短い付き合いながらも理解している椿だ。
(まったく、この男は……)
もはや呆れることしかできない椿であった。
◇
酒宴のあと。
椿と鉄介は当然のように泊まっていくよう促された。それは当然の流れだろう。鉄介はずいぶんと酒を飲んでいたし……久しぶりに帰って来た息子がすぐに帰るというのもおかしいということは椿も理解していたからだ。
そう。それは理解できる。
理解の埒外にあるのは、椿と鉄介が同じ部屋に通されたことだ。
なるほど、これから夫婦になる男女であれば、同じ部屋で寝るのが当然だろう。
問題は、椿と鉄介はそんな関係ではないことだ。
「ははは、なに、布団は離しておくので安心されよ」
酒のせいで判断力が鈍っているのか、あるいは微塵も妙な気を起こすつもりがないのか、ヘラヘラと笑う鉄介だった。ここまで来るとかつての目標を果たしてやろうかと思う椿だが、しかしさすがに鉄介の実家でそれをやる勇気はない。
「――ぐがーっ」
椿が少し目を離した隙に熟睡してしまう鉄介だった。
「この、男は……」
足蹴にしても許されるのではないか、と考えてしまう椿だった。
「――む?」
部屋の外から気配を感じた椿は、用心しつつも勢いよく襖を開け放った。
「気づかれた!」
「ははっ! 嫁殿はずいぶんと鋭い!」
「ここは退散するか!」
悪びれた様子もなく逃げ出す鉄之介、他数名であった。どうやら椿と鉄介が『いいこと』をするのを覗き見するつもりだったらしい。
「…………」
なんなのだこの親子は、とため息をついてしまう椿であった。
0
あなたにおすすめの小説
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!
【アラウコの叫び 】第2巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日07:20投稿】 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
秀頼に迫られた選択〜トヨトミ・プリンスの究極生存戦略〜
中野八郎
歴史・時代
慶長十六年、二条城。
老獪な家康との会見に臨んだ豊臣秀頼は、時代の風が冷たく、そして残酷に吹き抜けるのを感じていた。
誰もが「豊臣の落日」を避けられぬ宿命と予感する中、若き当主だけは、滅びへと続く血塗られた轍(わだち)を拒絶する「別の道」を模索し始める。
母・淀殿の執念、徳川の冷徹な圧迫、そして家臣たちの焦燥。
逃れられぬ包囲網の中で、秀頼が選ぶのは誇り高き死か、それとも――。
守るべき命のため、繋ぐべき未来のため。
一人の青年が「理」を武器に、底知れぬ激動の時代へと足を踏み出す。
米国戦艦大和 太平洋の天使となれ
みにみ
歴史・時代
1945年4月 天一号作戦は作戦の成功見込みが零に等しいとして中止
大和はそのまま柱島沖に係留され8月の終戦を迎える
米国は大和を研究対象として本土に移動
そこで大和の性能に感心するもスクラップ処分することとなる
しかし、朝鮮戦争が勃発
大和は合衆国海軍戦艦大和として運用されることとなる
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
輿乗(よじょう)の敵 ~ 新史 桶狭間 ~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
美濃の戦国大名、斎藤道三の娘・帰蝶(きちょう)は、隣国尾張の織田信長に嫁ぐことになった。信長の父・信秀、信長の傅役(もりやく)・平手政秀など、さまざまな人々と出会い、別れ……やがて信長と帰蝶は尾張の国盗りに成功する。しかし、道三は嫡男の義龍に殺され、義龍は「一色」と称して、織田の敵に回る。一方、三河の方からは、駿河の国主・今川義元が、大軍を率いて尾張へと向かって来ていた……。
【登場人物】
帰蝶(きちょう):美濃の戦国大名、斎藤道三の娘。通称、濃姫(のうひめ)。
織田信長:尾張の戦国大名。父・信秀の跡を継いで、尾張を制した。通称、三郎(さぶろう)。
斎藤道三:下剋上(げこくじょう)により美濃の国主にのし上がった男。俗名、利政。
一色義龍:道三の息子。帰蝶の兄。道三を倒して、美濃の国主になる。幕府から、名門「一色家」を名乗る許しを得る。
今川義元:駿河の戦国大名。名門「今川家」の当主であるが、国盗りによって駿河の国主となり、「海道一の弓取り」の異名を持つ。
斯波義銀(しばよしかね):尾張の国主の家系、名門「斯波家」の当主。ただし、実力はなく、形だけの国主として、信長が「臣従」している。
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田 牛一 (著) 中川太古 (翻訳) KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
【表紙画像】
歌川豊宣, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
【アラウコの叫び 】第3巻/16世紀の南米史
ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎週月曜07:20投稿】
3巻からは戦争編になります。
戦物語に関心のある方は、ここから読み始めるのも良いかもしれません。
※1、2巻は序章的な物語、伝承、風土や生活等事を扱っています。
1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。
マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、
スペイン勢力内部での覇権争い、
そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。
※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、
フィクションも混在しています。
動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。
HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。
公式HP:アラウコの叫び
youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス
insta:herohero_agency
tiktok:herohero_agency
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる