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安土へ
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翌日。
せっかく琵琶湖近くまで来たのだし、安土に寄ってから戻ろうという話になった。
「――鉄介。それに椿殿。仕事が落ち着いたらまた泊まりに来い」
別れの際、そう念を押す鉄之介であった。今度こそ本当に祝言をあげられてしまいそうだなと警戒する椿。
「……では、鉄介様。参りましょう」
これ以上余計なことを言われる前に退散することにした椿であった。
◇
さすがに安土周辺の道は整備されており、鉄介たちはさして苦労することなく安土城に到着することができた。
もちろん、関係者以外が築城中の城付近をうろついていれば怪しまれてしまうし、下手をすれば斬られてしまうかもしれない。が、そこは椿が話を通してくれたので特に問題になることはなかった。
「ほぉ! 安土の櫓(天主)、柱が立ったではないか!」
鉄介は船大工なので陸の建築には明るくないが、やはり大きなものだなぁと感心してしまう。
さすがにあれだけの櫓を支える大黒柱は存在しないのか、何本かの柱を組み合わせているようだ。
鉄介としては柱のすぐ上に別の柱を継ぎ足せばいいのではないかと思ってしまうのだが、どうやらそういうことはせず、柱と柱の間に交わした梁の上に柱を立てているようだ。
それがどういう効果があるのか鉄介には分からないが、城大工がやるのだから何か意味があるのだろう。
「――おお! 鉄介! 鉄介ではないか!」
親しげな声を掛けてきたのは今まさに安土の櫓を建てているはずの城大工・岡部又右衛門であった。
「これは岡部殿。お久しゅうございます」
「うむうむ、そちらも元気そうで何よりだ。……して、孫(宗光)は上手くやっておるか?」
「はい。それはもちろん。さすが大工経験があるだけあって飲み込みが早く、助かっております。これは二隻目の建造を丸ごと任せてもいいかもしれません」
「ははは、お世辞――ではないか。鉄介はそんな世辞など言うまい。仕事であれば尚更よ」
「いや、よくご存じで」
どうやら作るものは違っても大工というものの本質は変わらないらしい。なにやらおかしくなって笑ってしまう鉄介と岡部であった。
「そうだ、鉄介。船の上に立てる櫓はどうするつもりなのだ?」
「へい。宗光殿に経験がありそうですので、お任せしようかと」
「……それなのだがな、一つ提案があるのだが」
「へい? なんでございましょう?」
「うむ。船の上の櫓だがなぁ、堺で作るつもりはないか?」
「堺で? なぜまたそのようなことを?」
「なに、堺であれば儂も手伝えるからな」
「……ははぁ」
日の本一の大船。孫に任せたはいいが、自分でも気になってきたのだろうと鉄介は察する。鉄介だって安土城で城大工の腕を発揮できる機会があれば全力で関わろうとするはずだからだ。
それに、納期から考えても悪い話ではない。
堺で岡部が作ってくれるなら、伊勢では作る必要がない。つまり、その分の時間を船体建造に当てることができるのだ。ただでさえ時間がない中、これは非常に助かる提案だ。
「では、ぜひお願いいたしたく」
「うむ、任されよ」
自信満々に胸を叩く岡部であった。
※第11回歴史・時代小説大賞におきまして奨励賞をいただきました! ありがとうございます!
翌日。
せっかく琵琶湖近くまで来たのだし、安土に寄ってから戻ろうという話になった。
「――鉄介。それに椿殿。仕事が落ち着いたらまた泊まりに来い」
別れの際、そう念を押す鉄之介であった。今度こそ本当に祝言をあげられてしまいそうだなと警戒する椿。
「……では、鉄介様。参りましょう」
これ以上余計なことを言われる前に退散することにした椿であった。
◇
さすがに安土周辺の道は整備されており、鉄介たちはさして苦労することなく安土城に到着することができた。
もちろん、関係者以外が築城中の城付近をうろついていれば怪しまれてしまうし、下手をすれば斬られてしまうかもしれない。が、そこは椿が話を通してくれたので特に問題になることはなかった。
「ほぉ! 安土の櫓(天主)、柱が立ったではないか!」
鉄介は船大工なので陸の建築には明るくないが、やはり大きなものだなぁと感心してしまう。
さすがにあれだけの櫓を支える大黒柱は存在しないのか、何本かの柱を組み合わせているようだ。
鉄介としては柱のすぐ上に別の柱を継ぎ足せばいいのではないかと思ってしまうのだが、どうやらそういうことはせず、柱と柱の間に交わした梁の上に柱を立てているようだ。
それがどういう効果があるのか鉄介には分からないが、城大工がやるのだから何か意味があるのだろう。
「――おお! 鉄介! 鉄介ではないか!」
親しげな声を掛けてきたのは今まさに安土の櫓を建てているはずの城大工・岡部又右衛門であった。
「これは岡部殿。お久しゅうございます」
「うむうむ、そちらも元気そうで何よりだ。……して、孫(宗光)は上手くやっておるか?」
「はい。それはもちろん。さすが大工経験があるだけあって飲み込みが早く、助かっております。これは二隻目の建造を丸ごと任せてもいいかもしれません」
「ははは、お世辞――ではないか。鉄介はそんな世辞など言うまい。仕事であれば尚更よ」
「いや、よくご存じで」
どうやら作るものは違っても大工というものの本質は変わらないらしい。なにやらおかしくなって笑ってしまう鉄介と岡部であった。
「そうだ、鉄介。船の上に立てる櫓はどうするつもりなのだ?」
「へい。宗光殿に経験がありそうですので、お任せしようかと」
「……それなのだがな、一つ提案があるのだが」
「へい? なんでございましょう?」
「うむ。船の上の櫓だがなぁ、堺で作るつもりはないか?」
「堺で? なぜまたそのようなことを?」
「なに、堺であれば儂も手伝えるからな」
「……ははぁ」
日の本一の大船。孫に任せたはいいが、自分でも気になってきたのだろうと鉄介は察する。鉄介だって安土城で城大工の腕を発揮できる機会があれば全力で関わろうとするはずだからだ。
それに、納期から考えても悪い話ではない。
堺で岡部が作ってくれるなら、伊勢では作る必要がない。つまり、その分の時間を船体建造に当てることができるのだ。ただでさえ時間がない中、これは非常に助かる提案だ。
「では、ぜひお願いいたしたく」
「うむ、任されよ」
自信満々に胸を叩く岡部であった。
※第11回歴史・時代小説大賞におきまして奨励賞をいただきました! ありがとうございます!
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