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義理の息子(少し年上)
しおりを挟む――食事を取れなくなれば、あとは衰弱して死ぬだけだ。
本来なら無理をしてでも、それこそ吐いてしまうことを分かっていても食べるべきだ。この世界には点滴なんてものはないのだから。
しかし、お父様はもう吐くことすら大きな負担になってしまっている。――長くはない。自分のことは、自分でよく分かっているのでしょう。
この世界には回復魔法があるし、私も使うことができる。もちろん毎日のようにお父様にかけ続けてきた。
しかし回復魔法にも限界がある。致命傷を治すのは難しいし、何度も何度もかけていては効きが鈍っていき、いずれは効果がなくなってしまう。
そして。
この四年間の治療の結果、お父様にはもう治癒魔法が効かなくなってしまった。
治しても治しても再発する病気。前世の知識からすればガンなのだろうけど。私には専門的な医学知識がないので『腹を切って腫瘍を摘出しましょう』なぁんてことができるはずもない。
もはや私にできるのは魔法で痛覚を鈍らせ、少しでも安らかに最期の時まで過ごせるようにすることだけ。
希望があるとすれば、少し前に大陸の東にある国で開発されたという万能魔法薬か。話からして胡散臭いけど、昔の伝手を使って藁にもすがる思いで注文した。でも、他国への輸出は厳しく制限されているようなので……。はたして間に合ってくれるかどうか。
「……あら」
間に合わなかったら返金してくれるかしらなんて考えながら歩いていると、男性とかち合った。やせ衰えたお父様とどことなく似た顔つき。お父様の実の息子で、私の義息。ケイタス・ギュラフ公爵令息だ。
顔はいい。金髪も相まっていかにもな『王子様』だ。
ただ、今はその顔を嫌そうにゆがめてしまっているのだけど。
仲が良くないとはいえ、義理の息子。顔を合わせて無言というのも気が引ける。
「ケイタス。これから授業の時間だけど……」
「はっ、貴様のような女から教わることなど何もない!」
何もないわけないでしょうが。領地経営の基本から、貴族の力関係まで色々と覚えなきゃいけないのに……。なにせこの子は元々後継者じゃなかったのでその辺を勉強してこなかったのだ。
いや、嫡男だったお兄さんが亡くなってから10年くらい経っているそうなのだから、普通ならそれなりに勉強も終わっているはずなんだけどね。
「それとも、授業にかこつけて私との時間を作り、私に取り入るつもりか? あの男だけでは飽き足らず……」
実の父を『あの男』呼びはどうかと思うけど。いやまぁ、私も実の父を『あの男』と呼びたいので強くは言えないけど。
蔑んだ目で私を見下しながら、隣の女性を抱き寄せるケイタス。いかにも線が細い、守ってあげたくなる系の美少女だ。
名前は……なんだっけ?
まぁとにかく平民の少女で、ケイタスが次期公爵夫人にしようとしている子だ。
平民が貴族社会に飛び込んでくるのはおすすめしないというか、そもそも前の王太子のせいで『平民の女との結婚』に警戒感を抱いている王家が許可を出すかどうか……。この国では貴族の結婚には王家の許可が必要なのだ。
もちろん普通なら簡単な書類を提出するだけでほぼ許可は下りるのだけど。なにせうちは公爵家。とてもとても偉くて影響力のある家。しかも相手が平民ともなれば王家としても『はいそうですか』と許可を出してはくれないでしょう。
一番の問題は、その辺のことをまったく理解してなさそうなケイタスと美少女ちゃんか。次期公爵閣下とその妻(予定)がこれなのだから……うん、お父様の予想通り、次代で潰れるかもねギュラフ公爵家。
「その子も、次の公爵夫人になるなら色々と勉強しないといけないわよ? 特に公爵家主催のパーティは夫人が取り仕切るのだから。招待状を出すべき相手や席順などを今からでも――」
「勉強と称して、アイラを虐めるつもりだろう! 私には分かっているぞ!」
あーそうだアイラって名前だった。ケイタスがいつもこんな感じだからまともに会話もできていないのよね。
「ふん、まぁいい! 私たちはこれから旅行に行ってくるのでな! あの男にもそう伝えておけ!」
はぁはぁご旅行ですか。実の父が危ない状況で旅行とかバカなのかな?
と、いう本音は必死で飲み込んだ私である。えらいぞ私。かしこいぞ私。私の聡明さをちょっとくらい分けてやりたいくらいだ。
呆れ果てた私の視線に気づくことなく(気づけるほど敏感ならとっくに生き様を見直しているだろう)恋人とイチャイチャしながらどこかへ行ってしまうケイタスだった。お父様の寿命が縮んだ原因の何割かはあの子じゃないかしら?
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