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族長
しおりを挟む何で嫁? なんでいきなり嫁? 一応プロポーズなんだろうけど、なんぞこれ?
自信満々な顔をしながら、私の手を離す気配のないガースさん。そのままじーっと私を見つめてくる。
何とも綺麗な、緑色の瞳だ。
人間族とはまだ少し違う、より清らかな感じのする緑。その清涼さはどこか南の島の海を思わせる。
う~ん、なんとも情熱的なプロポーズ。下手に貴族社会に戻るよりは、何のしがらみのない獣人族からのプロポーズを受け入れる方がいいのでは?
……いやいや、落ち着きなさい私。いつもいつも考え無しで流されて酷い目に遭わされるのだから私。そもそも直近リチャードさんからプロポーズされたのだから、そんな彼を放置してプロポーズを受けるわけにはいかないでしょう私。
ちなみに。
騒ぎを聞きつけたのかリチャードさん家の騎士団長・ライヒさんもこの場にいたのだけど……「マジかぁ、すげぇなリリーナ様……」と感心したような顔をしていた。
ヤバい、この状況をどう治めたものか。困り果てた私が頬をひくつかせていると、
「――この、痴れ者がぁっ!」
私の視界から、ガースさんが真横に吹っ飛んだ。
一瞬の混乱の後、それが女の子からドロップキックされたせいと理解する。
ドロップキックされたのは、ガースさん。
ドロップキックしたのは、誘拐されていた獣人の女の子。たぶん名前はセナちゃん。
「叔父上! 私とリッファの命の恩人に対して、何と不躾な求婚でありましょうか!」
セナちゃんが腕を組み、仁王立ちの状態でガースさんを一喝する。
……ガースさんって獣人族の族長だって名乗ってなかったっけ? 族長にドロップキックするのは不躾じゃないの?
身体が完全に吹っ飛び、近くの木に叩きつけられるほどの威力。だというのにノーダメージだったらしく、ガースさんはぬくっと立ち上がる。
「セナミラーファ様! よくぞご無事で!」
両膝と両拳を地面に突き、まるで武士のような格好で頭を下げるガースさん。
「……頭を上げよ」
と、10歳程度の少女でありながら威厳たっぷりな声を発するセナちゃん。あら? もしかして獣人族の偉い御方なのかしら?
私の考えを察したのか、ガースさんが大声で解説してくれる。
「その御方はセナミラーファ・ガルンド様! 我が兄の忘れ形見にして、正統なる嫡流! いずれは俺に代わって族長となり、我が一族を導いてくださる御方だ!」
わぁ、思ったより偉い子だったみたい。
そんなガースさんの解説を聞き、頭が痛いのかセナちゃんは自らの額を押さえつけているのだった。
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