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結婚指輪?
しおりを挟むそれはともかく、無事にドレスを貸していただけることになった。
「流行のドレスじゃなくて恥ずかしいのだけど……」
夫人は謙遜していたけれど、そもそも王都での最新の流行を知らない私からすれば恥ずかしさなんてないし、陛下との謁見では流行を追いかけることよりも格式を守ることが重視されるので何の問題もない。
というか、未婚女子が婚約者を探して夜会に行くわけでもないのだから、むしろ悪目立ちしないドレスは願ったり叶ったりだったりする。ミアたちが普通に接してくれるから忘れがちだけど、私はまだまだ社交界では腫れ物扱いされているはずなのだ。
貸していただいたドレスのサイズ調整をしたあと、着こなしの確認を兼ねてその場で一回転。さすがは公爵夫人のドレス。見た目よりも軽くて動きやすい。若い女性用ドレスに比べてフリルも控えめなのが私好みだ。
「……ほぉほぉ、お姉様生来の上品さに、装飾の少ないドレスがよく似合っていますわね。特に肌色と髪色、生地の色合いが見事なまでに調和して……あとは髪型ですか。ここは既婚者だという点を最大限に活かして様々な編み込みを試してみるべきでは?」
なんかメッチャ早口で喋りまくるミアだった。なにこの子こわい。
「我ながら名案ですわね! 既婚者は髪を結い上げるのが常識ですし、ここで髪を編み込むことで余計な『虫』が近づかないようあらかじめ予防線を張っておくべきでしょう! ――爺! 爺! メイドを呼んでください! お姉様に一番似合う編み込みを探しましょう!」
なんかノリノリで話を進めるミアだった。この子こわい。
……言われてみれば、既婚者って髪を上げるのが貴族の常識だったわね。今の私みたいに髪を下ろしているのは本来なら未婚女性にだけ許されていることで……。
よくよく思い出してみれば、既婚者となった私が髪を上げようとしたときに止めたのはお父様だった。……もしかしたら「自分は保護者であり、結婚相手ではない」と内外に示しておきたかったのかしら? 不器用というか、分かりにくいというか……。
お父様の不器用な気遣いに、思わず頬を緩めてしまう私だった。
◇
翌日の午後。
私たちは早速王城へと向かうことになった。
朝、お仕事で登城したはずのミッツ様がお昼に帰ってきて、午後一での登城を要請された形だ。
…………。
いやいや、早すぎない? 陛下が希望された日時はまだ先のはず。それに陛下も予定が詰まっているはずなのに……。
「準備が終わったのですから、嫌なことはさっさと済ませてしまった方がいいでしょう?」
と、微笑みながら首をかしげたのは公爵夫人。もしかして国王陛下を急かしました? 他の予定を変更させました?
もはやあの穏やかな微笑みが黒いものにしか見えないわね……。
これは異を唱えずに大人しく従った方が良さそうな……。
そうと決まれば。慌てて準備に取りかかる私だった。
◇
話を聞いてから二時間ほど。
貴族令嬢が王城に向かうにしては奇跡的なまでの早さで準備は終了した。
ドレスは完璧。髪も一人では解けそうもないほど細やかに編み込まれている。
左手首のブレスレット、うたかたの恋が少し目立つけれど、伝統あるデザインなので問題はないはず。
≪あとは私を腰に佩けば完璧ですね!≫
聖剣アズがアホなことを言っていた。そんなことをしたら門で止められるわ。
≪フレイルが同行できるのに、私がお留守番というのは納得いかないです!≫
ならネックレスとか指輪とかに変身してみれば?
と、私としては冗談半分で提案してみたのだけど……。
≪その手がありましたか!≫
アズは名案とばかりに手のひらを打ち鳴らし、そのまま≪ぬ~ん、ぬ~ん、ぬ~ん……≫と念じ(?)はじめた。
≪――とう! 大・変・身っ!≫
まるでどこかの変身ヒーローのようなポーズを取りながら、メイド姿だったアズが消えた。……いや、よく見ればアズがいた床の上に指輪が落ちている。
装飾が一切ない、普段使いできそうな銀色の指輪。この銀色が聖剣アズベインの刀身を思わせる、かもしれない。
≪ふっふっふっ! どうですか! これで完璧でしょう!≫
自信満々に胸を張るアズだった。いや指輪姿で張る胸なんてないけれど。
なんだかアズを連れて行くと騒がしそうだなぁと思うけど、わざわざ指輪の姿にまでなったのに置いて行くというのも気が引ける。というわけで私はアズを右手で拾い上げ、指輪をしていてもおかしくはない左手中指に嵌め――
≪とう!≫
手中のアズが蠢き、中指の隣、左手薬指に嵌まってしまった。ちなみに転生者が教えたのか、あるいは元々の慣習か、この世界でも左手薬指には『結婚指輪』を嵌めるのがスタンダードとなる。
≪これで悪い虫も寄ってきませんね!≫
自信満々に胸を張るアズだった。いや指輪姿で張る胸もない以下略。
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