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公爵夫人
しおりを挟む国王陛下が余計なことをする前に、王城に行って謝罪を受け入れましょう。
と、基本方針はそれで決まったのだけど、やはり問題はドレスか。
本来なら高級仕立て服の有名店に向かい、採寸。謁見に相応しいドレスをオーダーして、それが到着してから――というのが一般的な流れとなる。
ただでさえオートクチュールの服を作るのには時間が掛かるのに、今はデビュタントの直前。仕立屋はきっと予約品の作製で手一杯で、新規の受付を停止しているはず。
「どうしたものかしらねぇ」
「わたくしのドレスはお姉様には小さいでしょうし……」
悩みに悩む私とミアだった。
多少のサイズ違いなら調整もできるのだけど、私とミアではそもそも身長が違いすぎるのだ。ミアが小さい――というよりは、私がデカすぎるだけ。
実家のアイルセル公爵家に戻って、母親が残していったドレスを物色する? ……いや無理だ。あの人のドレスは無駄にキラキラしていて下品過ぎ。とてもではないけど謁見で使えるようなものではない。
私が使っていたドレスはどうせ父親か母親が売り払って金に換えているでしょうし。
「……あ、そうですわ! お母様のドレスならお姉様でも着られるはずですわ!」
「公爵夫人の? それなら確かに謁見の場でも大丈夫でしょうけど……でも、夫人からドレスを借りるのは申し訳ないというか……」
「お母様! ドレス! ドレスを貸してくださいませ!」
私の遠慮など最後まで聞かずに部屋を出ていくミアだった。
◇
「あらあら、それは大変ね」
と、穏やかに手のひらを頬に当てたのはアイルセル公爵夫人。ミアとミッツ様のお母様だ。
穏やかそうに垂れ下がった目。年頃の子供が二人もいるとは信じられない若々しさ。そしてなによりアイルセル公爵家の人間とは思えないほどの落ち着き。いや嫁入りしてきたのだからそれは変じゃないのか。
――アイルセル公爵家と交渉したくば、まず夫人に話を通せ。
それが貴族社会の共通認識というか、暗黙の了解であるらしい。
「申し訳ありません夫人。宿泊させていただいているだけではなく、このような――」
「あら、いいのよ。リリーナちゃんにはシャペロンとして娘がお世話になる予定だし。なにより……悪いのはあのバカ共なのだから」
「…………?」
あのバカ?
あのバカ共って言いました? え? もしかしなくても国王陛下とか、王太子殿下に向けたお言葉ですよね?
私が思わず凝視すると、公爵夫人は優しそうに微笑み返してくださった。私が子供の頃からよく知る夫人の顔。なぁんだやっぱりさっきのは幻聴か聞き間違い――
「――調子に乗りすぎだから、そろそろ痛い目に遭わせなきゃいけないかしらね?」
にっこりと。
菩薩のような微笑みでとんでもないことをのたまう夫人であった。あれ、これあれですか? 『夫人に話を通せ』というのは交渉できる穏やかな人間だからという意味ではなく、実質的なボスだからという意味ですか?
というか、代々騎士団長を務めるアイルセル公爵家が痛い目に遭わせるとか、ちょっと冗談にならないのでは? 下手をすれば革命なのでは?
「い、いえ、国王陛下からは直接謝罪していただく予定ですので……」
冷や汗をダラダラと流しながら、なぜか陛下をフォローする私であった。ほんとになぜ私が……。
「あら、さすがはリリーナちゃん。優しいのね。でもこの場合の慈悲の心は不必要よ? 自らが謝罪するべき人間をさらに困らせているのだから。相応の報復をして思い知らせないとまた繰り返すことになるわよ? 実際、四年前にあれだけのことをしでかしておきながら反省もしていないのだし」
「あ~、いや~、その~……」
正直、今の私に王家の味方をする義理はない。
でもなぁ、王家の力が弱まると、あのバカが神輿になった傍流王家の力が増してしまうからなぁ。それだけは回避しなければならないのだ。
まぁつまり、敵の敵は味方理論。
私の考えなど公爵夫人にはお見通しらしい。
「……では、いったんは保留しておきましょうか」
くすくすと笑う公爵夫人だった。からかわれていた気がしないでもない。
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