百合好き令嬢は王子殿下に愛される ~男に興味はないはずでした~

九條葉月

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第二王子

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 ひとしきり笑った殿下はなぜか片膝をつき、私の右手を取った。

「では、あなたを視界に収める許可をいただけますか、フロイライン?」

「…………」

 乙女ゲームなら赤面の一つでもする場面だろう。きゅんと胸を高まらせる場面だろう。なにせ最上級のイケメンがキラキラ光りながら私を見つめているのだ。

 だがしかしここは現実世界。プロポーズでもないのに殿下に膝を付かせるとか不敬すぎて腰が抜けるわ。たとえ殿下からやり始めたとしてもだ。

 もはやこれまで。
 膝を折り、背中を曲げ、頭は地面に。私は流れるような動作でジャパニーズ・ドゲザを行った。

「マジすみませんでした。不敬罪だけは勘弁してください」

「……ぷ、くくくくっ」

 殿下が必死で笑いをこらえている。土下座している女性を見て笑うなんてとんだサディストですね、とはさすがに口にしない。なんか今の私はどんどん失言を重ねそうだもの。

 頭を下げ続けていると殿下が立ち上がった気配がした。

「――頭を上げよ。この場は『学徒としての立場は平等』を掲げる学院の敷地内。多少の不敬に関しては目を閉じるとしよう」

 威厳たっぷりな声は万民に静寂をもたらすような色を持っていた。第二とはいえ王子であることは伊達じゃないってことか。
 よし、殿下のおかげでちょっと落ち着いてきた。……そもそも取り乱したのは殿下が原因だけれども。

 とりあえず仕切り直しといこうかな。

「ありがたき幸せに存じます」

 私は頭を上げ、立ち上がり、魔法でドレスの汚れを綺麗にしてから淑女らしいカーテンシーを行った。

「名乗りが遅れましたこと平に御容赦下さいませ。わたくし、ユリスト公爵家が一子、リリー・ユリストでございます。殿下におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます」

 決まった。我ながら完璧なカーテシー。『せっかく美少女に生まれたんだからそれにふさわしい所作ができるようにしないとねー。女子力アップ!』と頑張った過去の私、偉い。

 今までの努力が走馬燈のように蘇ってくる。何だかんだで『池に落ちたせいでお城がトラウマ』という言い訳が現在まで続いているから陛下をはじめとした王族の方々に挨拶する機会はほとんどなかったんだよね。フラグ回避のためにパーティも王族が出ないようなものばかりに参加していたし。
 つまり、今こそ努力の果てに習得した完璧な所作を殿下に見せつけるチャンスなのだ!

 ……だというのに。

「いや、そんな堅苦しい挨拶は不要だよリリー嬢。さっきも言ったがここは学院なのだからね。むしろ気軽に学友として接してくれた方が私としても嬉しいな」

 私の今までの努力全否定!?
 いやしかし、殿下からの申し出を断るわけにはいかないよね。ただでさえ不敬を積み上げているのだし超えてはいけない身分の差がある。

「しかし……、いえ、殿下が望まれるのでしたら、学友らしい対応ができるよう努力しますわ」

「うん、そうしてもらえると助かるよ。口調も楽にして欲しい。なにしろ私たちは学友なのだからね」

 過剰なまでに『学友』を強調して微笑んだ殿下は絵画のように美しく、口調も親しみがあふれるものに変化していて。そんな彼を見ていると胸の鼓動が高まり頬も少しばかり赤くなっていることが自分でも分かった。イケメンって凄い。私って男に興味がないのに。それすらもぶち抜いてきたわ……。

 私が普通の女性だったらこれだけで恋に落ちていたことだろう。

 しかし私は殿下から捨てられる未来を知っている。彼のせいで滅茶苦茶にされる運命を知っている。恋をしたらそれが最後。破滅の始まり。その知識のおかげで私はギリギリのところでトキメキ☆フォーリンラブを回避することができていた。

 ……できているよね? なんだか胸の鼓動が全然収まらないけど、恋に落ちてないわよね私?

 混乱する私の内心を知ってか知らずか、殿下はニコニコと笑顔を浮かべながらテーブルセットに腰を落ち着けた。どうやらすぐすぐ帰るつもりはないらしい。もちろんテーブルの上に置いてあった秘密のネタ帳は読まれる前に回収したともさ。

 ちなみにこの植物園はかつて屋上カフェテラスとして活用されていたらしく、テーブルセットはその名残だと思われる。
 ただ植物の手入れが放置されて鬱蒼としているのでかなり奥まで来ないとこのテーブルセットの存在には気がつかないはず。人が近づいてくれば植物をかき分ける音で気がつけるし。……さっきの私みたいに興奮していなければ。

 まぁつまり何が言いたいかというと、学院内で密会をするなら中々都合がいい場所なのだ。

 椅子に座った殿下が微笑みかけてくる。

「私だけが座っているのも何だね、リリー嬢もかけたらどうかな?」

「そんな、殿下と同席させていただくなど恐れ多いですわ」

「私たちは『学友』、つまりは友人だ。友人が同じテーブルを囲んで他愛もないおしゃべりをするのは普通のことじゃないのかな?」

「…………」

 あれ、これ嵌められたかな?
 不自然なまでに『学友』を強調していたのはこれが狙いか……と察しつつ断るわけにもいかないので渋々席に着いた私である。

 お昼休みが半ばを過ぎているのが不幸中の幸いか。そんなに長い時間相手をしなくてもいいだろうし……。眉間に寄った皺に気づかれないことを祈るばかり。いやむしろ気づいて欲しい。さっさと気づけ。そして帰れ。『お邪魔なようですね』と気遣いを見せろ。

 内心の願いはもちろん殿下に届くことはなく。そんな私の様子を何が楽しいのか殿下は笑顔で見つめていた。
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