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親友
しおりを挟む「というわけで親友! どうしたらいいと思う!?」
放課後。校庭の端にある東屋で。私はお茶会に誘ったもう一人の『親友』に問いかけた。ちなみにお茶会だけれども私と『親友』二人きり。同じく親友であるメイも話し声が聞こえない距離で待機している。これはメイドとしての立場を考慮してくれた形だ。
「どうしたらいい、と言われてもね」
のんびりまったりとティーカップを傾けているのは金髪碧眼の超絶美少女――いや美人さん。落ち着いた雰囲気なので大人のお姉さん的なイメージがプンプン漂っているのだ。私と同い年のはずなのに。
彼女の名前はエリナ・サイライン。サイライン侯爵家のご令嬢だ。今学園に通っている生徒の中では私と家格が近いし、なにより『前世の記憶持ち同士』ということで良好な関係を築いている。
そんなエリナはやれやれといった様子でティーカップをソーサーに戻した。
「リリー。そもそもキミが何の話をしているか分からないのだけれども?」
「む、そこは親友としての超パワーで察して欲しいわね」
「そんな奇特なことができるのはキミだけだよ」
「私に対してどんなイメージを持っているのかしら? いくら私でも人の心を読んだりとかはできないのだけど?」
「自分にできないことを他人に要求するのは止めた方がいいね」
何という正論。ぐうの音も出ない。
「ぐう」
負け惜しみで唸っておく私。
いやしかし、そんなことを言うエリナ本人は心が読めるような気がするのだ。いつもナイスなタイミングでナイスな助言をしてくれたりするし。実はそういう魔法の使い手でしたー原作ゲームの隠し要素でしたーって展開はない?
「ないね」
「やっぱり読んでない!?」
「貴族のたしなみとして表情を読んでいるだけさ。あと単にキミが分かり易いだけだよ」
分かり易いと言われてしまうとぐうの音も出なくなってしまう私である。なにせ自覚があるもので。
「ぐぅ」
もはや意固地な唸り声を上げてから私は簡潔に詳細に面白おかしく王子殿下とのエンカウントを説明した。私の小話が素晴らしすぎたのかエリナは額に手をやって俯いている。少し震えているのは感動で泣いているに違いない。ふっ、これが職業・百合小説家の実力よ!
「キミという人間は……」
深々とため息をつくエリナだった。その瞳に浮かぶのは圧倒的な呆れ。あれおかしいな? ここは悲劇の運命に囚われかけている親友を心配して号泣する場面じゃないのかしら?
「とりあえず一言言わせてもらえば……チョロすぎないかい親友?」
「真顔でなんてこと言うの親友」
私はチョロくない! まだ落ちてない! まだ! ぎりっぎり!
「リリー。キミも知っての通りここは乙女ゲームの世界だ。いいや、すでに多くの点で原作ゲームとはかけ離れた展開になっているけれど……」
「うん、そうね。本来なら私はもう第二王子と婚約しているはずだし、エリナも騎士団長の息子と婚約しているはずだもの」
私はまだ誰とも婚約していないし、親から結婚を強要されることもないだろう。そしてエリナ。彼女は本当なら騎士団長の息子と婚約しているはずなのに、実際は宰相の息子と婚約している。『攻略対象と婚約』という点は共通しているけれど、それ以外は家格や政治的な派閥などまるで違うお相手だ。そう簡単に婚約者が変わるとは思えないのに……。
エリナの婚約相手が変わった理由は知らない。原作とは政治バランスが変わったのかもしれないし、親同士の仲が悪くなったのかもしれない。……私としては意外と腹黒なエリナが裏で『何か』したんじゃないかと疑っているのだけど、証拠があるわけではないので沈黙は金。下手なことを言うと報復が恐い。エリナって親友相手には容赦しないんだもの。
「逆に言えば、」
エリナが珍しく真剣な声を出した。彼女はどこか超然としているのが普通だからね。
「これだけ原作と運命(ルート)が変わっているのに、変わらないこともある。簡単に言えばヒロインが登場して以降。騎士団長の息子や宰相の息子の婚約者が変わり、それぞれの婚約者との仲も原作とは変化しているというのに……原作通り、攻略対象たちはヒロインに首ったけだ」
エリナが視線を横に向けたので私も追うと、少し離れた場所で作り物のように整った顔つきの人たち(いや乙女ゲームの世界なのだから正真正銘『作り物』なのかもしれないけれど)を見つけることができた。
王太子。宰相の息子。騎士団長の息子。魔導師団長の養子。いつも通りのメンバーがピンク髪の美少女(ヒロイン)を取り囲んで談笑している。
男四人に女一人。となれば男同士が牽制したりケンカになりそうなものなのだけど。不思議なことに野郎連中も仲よさそうに見える。
いやこの国の将来を担う重要人物たちなのだから表面上仲良くしているだけ……と考えたものの、そんな深謀遠慮ができるのなら人目も憚らず一般庶民の女に言い寄ったりしないか。
「ずいぶんと仲が良さそうね。あれは、あれかしら? 「ケンカをしたらヒロインに嫌われてしまう!」的な考えで仲良くやっているのかしらね?」
「女々しいことだが、そんなところだろうね。男なら殴り合いをしてでも好きな女を奪い取ってみせろと思うのだけど」
意外と血気盛ん(?)なエリナさまだった。あなたやはり宰相の息子ではなく騎士団長の息子(脳筋)の方が婚約者としてふさわしいのでは?
エリナが呆れたように肩をすくめる。
「ともかく、だ。原作とは婚約者も異なり、婚約者の女性との仲も変化しているというのに攻略対象たちはヒロインに『落とされて』しまった。これはゲーム補正みたいなものがあると考えた方が自然かもしれないね」
たしか原作における宰相の息子は、婚約者との仲がうまくいかずにその心の隙間を埋めるように――という感じでヒロインに引き寄せられたはずだ。
しかし、親友としての贔屓目があるとしても、婚約者となったエリナと宰相の息子との仲は良好だったはず。原作とは違って心のこもった贈り物をしているみたいだし、パーティーでも必ずエリナをエスコートして最初のダンスを踊っている。これはヒロインが登場してからも変わっていない。まぁ貴族が集まる夜会で婚約者以外をエスコートするようなバカは王太子だけで充分でしょう。
「ゲーム補正があるのなら、第二王子もヒロインに落とされるのかしらね?」
自分で言っておいて何だけど、それはちょっと嫌かもしれない。……うん、第二王子と少し話しただけでこれである。チョロすぎるぞ私。やはり恋愛経験絶無ガールにイケメン相手は荷が重いか……。
「それだけならいいけどね。下手をすればリリーと第二王子が婚約。直後に婚約破棄されてしまうなんて展開もあるかもしれないよ。『第二王子の婚約者である悪役令嬢』というつじつまを合わせるためにね」
「……私もそれを危惧していてね、こうして相談に来た次第なのですはい」
「といっても詰んでいないかな? 第二王子から婚約の打診が来れば断れないし、話を聞く限りでは第二王子はキミを『落とす気』満々じゃないか」
「そのやる気はヒロインちゃんに向けてくれませんかねー」
「それは直接第二王子に言った方がいいね」
「いやいや無理でしょ。なにその自意識過剰? 「あなた程度ではわたくしにふさわしくないわ! あの庶民の女がお似合いよ!」なぁんて口にしたら不敬罪不可避じゃないの」
思わずテーブルに上半身を投げ出してしまう私だった。いかんいかん、親友の前だとついつい気を抜いてしまう。
しかしこの体勢は思ったより楽だったのでこのままエリナとのやり取りを継続する私である。
「そもそもなんで殿下はあんなに積極的なのかしら? もうヒロインは登場しているじゃない。会話したのだって今日が初めてのはずなのに……」
「キミは外見だけならヒロインに匹敵する美少女だからね」
「いや『だけ』とは何よ『だけ』とは。私これでも女子力アップにいそしんだ結果、礼儀作法の先生から「仕草だけは完璧ですね。中身はとにかく」と褒められて――あ、なぜか泣きたくなってきたわ。しくしくしく」
ふむ、とエリナは悩むように小さく唸った。
「そうだね。他の可能性となると……まずは初めての出会いを思い出してみればいいんじゃないのかな?」
「はじめて?」
第二王子との初対面は……いつだろう? 挨拶もしたことはないし、会話も今日が初めてのはず。もしかして今日が『初対面』ということになるのでは?
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