行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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真実・1

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 さて。前々から誘われていた雪花とのお茶会をすることになったのだけど……。

 冤罪回避のためとはいえ、雪花の侍女である铃ちゃんを張さんに引き渡す形となってしまった。ここは説明と謝罪をしなきゃいけないかと決意して雪花の宮に到着すると――

「――お気になさらず。铃も自分のやったことの責任を取らなければなりませんし」

 あっけらかんとした雪花の反応だった。え? それでいいの?

「これで処刑や追放などとなりましたらさすがに悲しいですが……。今回の一件、皇帝陛下の判断により『侍女は毒を食べたのではなく、食中毒だったのだ』ということになりましたし」

「え? そんな風になったの?」

「はい。宰相様も頭を抱えていたそうですが……お姉様の作った毒検知の指輪が本物であると証明されたため、もう類似の事件は起こらないからいいかとなったみたいですわね。それに、宰相様としては『宴で毒殺未遂事件が発生』するより『毒殺未遂かと思い調べてみたら、ただの食中毒だった』方が助かるのでしょう」

「……昨日の今日でしょう? いくら何でも情報が早すぎない?」

 いや、そういえば雪花は情報入手が早かったけど……。

「そうでしょうか? むしろお姉様が遅すぎるだけでは? 今の後宮では『冤罪を着せられそうになった侍女! しかし凜風が皇帝を一喝し侍女を救ったのだ!』系の噂になっておりますわよ?」

「どういうこと……?」

「お姉様が宴の席で陛下を蹴り飛ばしたり、海藍様をたしなめたことが変な風に伝わってしまったのでは?」

 海藍様を窘めたって……? あぁ、『妃であるなら、皇帝が危険に近づく前に止めてみせなさい。それこそ命を賭けて。梓宸は阿呆ですが、我が国で一番偉い人なんですよ?』って煽ったことか。なんかまた海藍様が不機嫌になりそうな。

「とにかく、铃はただの食中毒ということで表向きは罰則なし。ただしやり過ぎたので反省部屋で五日間の謹慎となりました。統括侍女頭による再教育付きで」

「後宮って反省部屋とかあるの……?」

 あと統括侍女頭って何? なんだかいかにも厳しそうなんだけど……。

「これだけの人数が働いていますと、どうしても素行の悪い人間は混じってしまうものです。そういう人間を反省させる部屋は必要ですし、そういう人間を再教育するなら統括侍女頭は適任ですわ」

 平然と答える雪花だった。やっぱり後宮怖い。

「铃についてはお姉様が気にすることは何もありませんわ。というわけで、予定通りお茶会といたしましょう」

 雪花が手を叩いて侍女頭を呼んだ。彼女の手には事前に準備していたらしい欧羅式のティーセットが。

「お姉様のご実家は欧羅とも取引があると聞きました。なので今日は『ハーブティー』を楽しもうかと」

「へー」

 この国でハーブティーを好んで飲む人間は珍しい。独特の臭いや味が嫌われてしまうからだ。それに効能についても正確な情報が伝わっていないみたいだし。

 だからこそ欧羅商人との交流がある私となら一緒に楽しめるかもと期待しているのかしらね?

 毒殺未遂というか服毒事件があったばかりということもあり、私は侍女頭が持ってきたティーセットを『鑑定』して――

「――だから・・・、それはやめなさい」

 あのときと同じように警告した。

「お姉様、どういうことでしょう?」

 雪花に慌てた様子はない。まるですでに知っていた・・・・・・・・かのように。

 雪花の実家は欧羅と取引があるし、書物も手に入りやすいから『勉強』したのでしょうけど……。

 知っているはずなのに、とぼけられた。
 どういうつもりかは知らないけど、尋ねられたからには解説しましょうか。

「欧羅木苺――ラズベリーリーフから作られるお茶。それは妊婦が飲んではいけないわ。正確を期するなら、雪花のように妊娠初期の人間は」

 私の言葉に、ティーセットを持ってきた侍女頭が反発する。

「何を偉そうに! これは欧羅において『安産祈願のお茶』として親しまれているお茶よ! 大奥様もこのお茶を飲んで雪花様を無事に――」

 はぁ、と私はため息をつく。ラズベリーリーフを愛飲する海藍様ですら知らなかったのだから、この人に知識があるはずがないのは分かっているけれど……。

「……にわか知識で語るのはやめなさい。確かにそのお茶には子宮収縮を促す効果があるから分娩時間が短くなるでしょう。でも、妊娠初期から中期にかけて飲み続ければ、それが逆効果となり早産や流産に繋がる。――皇帝陛下の御子を産ませたい・・・・・のならば、それを飲ませるのは妊娠八ヶ月後からにしなさい」

「な、な……!」

 困惑した顔で私と雪花を交互に見る侍女頭。そんな彼女に対して、雪花はどこか冷たい目を向ける。

「お姉様と二人きりで話したいことがあります。下がりなさい」

「雪花様!? こんな怪しい方術士と二人きりだなんて――っ!」

「聞こえなかったの? 下がりなさい」

「……しょ、承知いたしました」

 すごすごと出口に向かう侍女頭。他の侍女たちも戸惑いつつ後に続く。まぁ主人である雪花の命令には逆らえないのでしょうね。いくら本質は実家の犬だとしても。

 私と雪花だけになった室内で、まずは私が問いかける。

「二人きりで話したいとは、いわゆる内緒話?」

「はい。そうなります」

 先ほどより幾分大人びたような感じがする。あるいはこちらが『素』かしらね? この子、中身というか精神年齢は私より年上みたいだし。

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