行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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ほんね

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 雪花に嵌められ、後宮に留まることになった翌日。

 私と瑾曦ジンシー様は雪花の宮にお呼ばれして、お茶会をすることになった。

 四夫人の地位にいる人間が顔を見合わせてのお茶会をするというのはかなり珍しいらしい。けど、雪花も瑾曦様も付き合いやすい人間だから私としては違和感はなかった。腹の黒さはともかくとして。

 ちなみになぜ雪花の宮かというと、鍵を掛けることができて内緒話もしやすいから。いや私は内緒話なんかするつもりはないけど、やはりいつ誰が入ってくるか分からない状況でお茶を飲むのもねぇ。某変態皇帝とか声がけもせず乱入してきそうだし。

 当然の如く、雪花の侍女たちは部屋の外に閉め出されてしまっていた。まぁ、彼女たちは雪花の味方というよりは実家の味方なのでしょうがないか。

 あの様子だと盗み聞きだけじゃなく覗き見もしそうだなぁと思った私は、空間収納ストレージから二つの魔導具を取りだした。一つは昨日ここで使った盗み聞き防止の魔導具。そしてもう一つが、覗き見防止の魔導具だ。見た目としては蝋燭立てに立てられた蝋燭となる。

「へぇ? これでどうやって覗き見を防止するんだい?」

 少年のように目を輝かせる瑾曦様に苦笑しつつ説明する。

「これに火を付けますと……室内にいる人間以外は、眩しく感じられます」

「……うん? 眩しい? それだけ?」

「はい。しかし眩しいと言いましてもかなりのものでして――」

 私が神仙術で蝋燭に火を灯すと、部屋の外から「ぎゃああ!?」「眩しい!?」「目が! 目がぁ!?」といった絶叫が響いてきた。閉め出された侍女たちが覗き見していたみたい。職務に忠実なことで。

 叫び声と一緒に床を転げ回るような音や廊下から庭に落ちたような音まで響いてくる。

 部屋の外の惨状を察したのか瑾曦様も呆れ顔だ。

「……なんか尋常じゃない様子だけど……あれ、失明はしないのかい?」

「さすがにそこまでは。ただ、これから一日くらいは目を閉じても眩しいと思うので、今夜は眠れないかもしれませんね?」

「……容赦がないねぇ」

「覗き見などする方が悪いのです」

「違いない」

 瑾曦様も侍女の味方をするつもりはないのか手ずからお茶を淹れ始めた。侍女が閉め出されたから当たり前なんだけど、北狄の王女様で四夫人でもある瑾曦様がお茶を淹れているのって凄い光景ね。

「さて。今回の件であたしが気になっているのはあと一つだ。凜風は何を視て『それは、やめなさい』と言ったんだい? ここには雪花もいるんだから話してくれてもいいだろう?」

「それは……」

 ちらりと雪花を見ると、彼女は胸の内を語ることにしたらしい。まぁ瑾曦様の頭の良さだと誤魔化し続けるのも難しいし……同じような境遇として、理解してくれると思ったのかしらね?

 出産時のリスクと、ラズベリーリーフ。

 その話を最後まで聞いた瑾曦様は椅子から立ち上がり、雪花の側まで移動した。

 そして――

「――この、阿呆娘が!」

 雪花に容赦なく手刀を叩き込む瑾曦様であった。

「な、なにをしますの!?」

「こっちの科白セリフだよ! 一体何を考えているんだい!? ――赤ん坊が可哀想だろうが! 皇帝の子供なんて普通には生きられないのだから、せめて母親が愛してやらないと駄目だろう!?」

「…………」

 人として当然すぎるお説教を受けた雪花は目を丸くしていた。この後宮という場所で、こんなまともに叱ってもらえるとは思わなかったのかもね。

「……お、お母さん?」

 そんなことを口走る雪花様だった。

「誰がお母さんか!? こんなデカい子供を産んだ覚えはないよ!?」

 瑾曦様は即座に反論し。私は大爆笑であった。

「あっはっは! お母さん! あー、お母さん。なるほどね。瑾曦様はお母さんだわ。おかあさーん、おなかすいたー」

「凜風も悪乗りするんじゃないよ! まったく後宮には変な女ばかりが集まるね! 陛下の御子を宿したのに喜ばない女や、どこからどう見ても惚れ抜いているのに素直になれない女とか!」

 変な女・筆頭候補が何か言っていた。

 というか「どう見ても惚れ抜いている」って誰のことです?

 喜ばない女ってのは雪花のことだとして――と考えていると、瑾曦様が自分の席に戻った。なぜかニヤニヤとした笑みを私に向けてくる。『お母さん』呼ばわりされた仕返しとばかりに。

「で? 凜風は諦めて後宮に骨をうずめることにしたのかい?」

「人聞きの悪い。雪花が出産して、体調が落ち着くまでの期間限定ですよ」

「そうやってずるずると引き延ばされていくうちに……、という光景が目に浮かぶようだよ」

「ははは、どうやら瑾曦様に未来視の才能はないみたいですね」

「そうかねぇ? しかし、まさか雪花がこの頑固者を後宮に留めるとはね。可愛い見た目をしているくせにやるじゃないか。あたしだってまだどうしたものかと悩んでいたってのに」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。ですが当然でしょう? この人外魔境の後宮において、自分の味方になってくださる人は何としても確保しませんと」

 人外魔境って。確保って。その物言いをする雪花が一番人外じゃない? 腹黒さという意味で。

「いやぁ、雪花と同じ『革新派』でよかったよぉあたしは」

 心強い味方ができて良かった、というよりは「さーて面白くなりそうだね」みたいな顔で瑾曦様が笑っていると、

「――ぎゃあぁああああ!?」

 なーんか、聞き慣れた悲鳴が聞こえてきた。部屋の外から。

「皇帝陛下の悲鳴を聞き慣れているってどうなんだい?」

「梓宸っていい声で悲鳴を上げてないてくれるんですよね」

「うわぁ……」

 なぜか引いてしまう瑾曦様だった。


                      ◇


 部屋の外に出てみると、やはり梓宸が目を押さえながらゴロゴロ転がっていた。侍女と同じように覗き見をしようとしていたみたい。

 さすがに皇帝陛下を放置するわけにはいかないので、部屋の中に入れて治癒。復活した梓宸は何事もなかったかのように私に詰め寄ってきた。

「聞いたぞ凜風! 後宮に残る決断をしてくれたみたいだな! とうとう俺の愛を受け入れてくれる気になった――かぁ!?」

 おっとしまった。ついつい拳を叩き込んでしまった。梓宸の頬に。もうみんな梓宸を殴ったり蹴ったりしてもさほど驚かなくなったから痕が残ってバレてもいいかぁという判断だ。

「いやいや、マズいって」

「さすがに皇帝陛下のご尊顔を殴るのはマズいですよ?」

 なぜか瑾曦様と雪花からツッコミされてしまった。こんなにも殴りやすい梓宸が悪いと思います。

 八つ当たりも兼ねて梓宸を睨み付ける。

「だいたい、女同士のお茶会に首を突っ込んでくるんじゃないわよ。しかも覗き見までして……」

「だ、だがなぁ、凜風が他の上級妃と仲良くやっているか心配で……」

「言い訳しない」

「……はい、すみません」

 しゅーんとする梓宸を、瑾曦様が煽る。

「おいおい、皇帝陛下。ずいぶんとデレデレしているじゃないか。ここにはお前さんが孕ませた女が二人もいるってのに」

 もはや敬語すら使ってもらえない梓宸であった。当然である。まぁ他の人に漏れ聞こえないからという理由もあるんだろうけど。

「い、いや、そのだな……お、俺は謝らんぞ! 皇帝として、後継ぎは必ず作らなくちゃいけなかったんだからな!」

「うわぁ」

 クズだ。

 クズがおる。

 このクズが世の中では『賢帝』扱いされているのは酷い冗句ジョークじゃない? あぁでも皇帝の中ではマシな部類とか?

 そんな梓宸に瑾曦様が呆れ顔を向ける。

「あんたねぇ、こういうときはまず『仕方なかったとはいえ、浮気してすまなかった凜風』と謝るものなんだよ」

 瑾曦様に注意された梓宸が私に向き直ってくる。

「浮気してすまなかった凜風!」

「うっさいクズ」

「なぜ!?」

「瑾曦様と雪花を前にしてよく『浮気』なんて口にできるわね? この駄目男が」

「……じ、瑾曦ジンシーー……」

「諦めるな駄目男! 『駄目男』とは言われても『嫌い』とは言われてないよ! まだ! 押せばいけるって! 凜風は意外と押しに弱いし!」

 瑾曦様はもう楽しんでません? 人の恋路を見世物にするのはやめていただきたい。あと誰が押しに弱いのか。

 なんかもう、なんだこれ?

 瑾曦様は「いいぞもっとやれ!」とばかりに囃し立てているし、雪花は「きゃあ素敵!」とばかりに目を輝かせている。いや二人はそれでいいの? ……いいのか別に。妃としての仕事というか使命で子作りしただけなのだから。

 そして、ある意味で可哀想な梓宸はというと――彼にしては珍しく、こちらが息を飲んでしまうような真剣な瞳で私を見つめてきた。

「凜風、俺の妃になってくれ!」

「え~?」

「結婚してくれ!」

「ん~?」

「好きだ!」

「そうねぇ……」

 何とか誤魔化そうとしているのに、梓宸は諦めるつもりはなさそうで。瑾曦様も雪花も期待の目を向けてきている。

 目を逸らすことなく、じっと見つめてくる梓宸。

 そんな顔をしないで欲しい。

 私は、昔から、その顔に弱いのだ。

 ため息。

 ため息。

 ため息。

 ほんとーに仕方ないなぁという感じに。かわいそーだからしょうがないといった風に。本心じゃなく同情心ですよーっていう態度で。

 私は、そんな建前ほんねを口にした。


「そうねぇ……私も好きよ、梓宸」















※ここまでお読みいただきありがとうございます!

第一章のエピローグを明日、明後日で二話投稿し、続けて第二章を連載予定です。よろしくお願いいたします

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