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太妃の噂
ぐぐぅ、っと呻いている梓宸は部屋からつまみ出し。
私、瑾曦様、雪花は改めてお茶会を再開したのだった。梓宸が割り込んできたから中断しちゃっていたのよね。
「しっかし、相変わらず容赦がないねぇ凜風は」
くくくっ、と楽しそうに喉を鳴らす瑾曦様だった。こっちは全然楽しくないですけど?
「事実を指摘しただけです」
「つまり、梓宸が好きなのは事実だと?」
「…………。結婚するのは無理だという意味ですね」
「やれやれ。やっと素直になったと思ったらもうこれだ。あんたは素直になると死ぬ病気なのかい?」
「そういう瑾曦様はお節介を焼かないと死ぬご病気なので?」
「割とそうかもしれないね」
「はた迷惑な」
なんなのだこの人は……と呆れていると、
「でも、素敵でしたわぁ」
うっとりとした顔をする雪花だった。私と梓宸、そんな乙女みたいな顔を向けられるようなことしていたっけ?
「なんてロマンチック……幼き日の約束……誓い合った将来……皇帝になるため故郷を捨てた男と、そんな彼を12年も待ち続けた少女……。二人はついに運命的な再会を……」
それ、もしかしなくても私と梓宸のこと? いや、ないない。幼き日ってほど幼くはなかったし、12年待っていたというか神仙術の修行をしていただけだし、運命的な再会(鳩尾に拳)だし、梓宸はズッコンバッコン子供を作っているし……。どこが情緒的で甘美だというのか。
前世の記憶があるくせに乙女なのねぇと呆れてしまう私だった。なんか今日は呆れてばかりいるわね。
◇
二人に散々からかわれたあと。
「しかし、凜風も後宮にいるなら、太妃様に気をつけないといけないね」
そんな助言をする瑾曦様と、同意するように頷く雪花だった。
「太妃というと……先帝の奥さんでしたっけ?」
「そうだね。まぁその辺は複雑なんだが……」
「複雑?」
「……凜風は梓宸の実母を知っているんだよね?」
「えぇ。まともにやり取りできる精神状態ではありませんでしたし、すでに亡くなられましたが」
美姫として称えられ。妃として華々しい生活を送り。先帝の子供を宿したまではいいのだけれど。その後貶められて――という可哀想なお人だ。
そういえば、そろそろお墓参りにいかないとね。
瑾曦様は後宮に入った時期的に会ったことはないはずだけど、それでも悲しそうな顔を浮かべてくれた。
「そうか……。なら詳しい説明は省くけど、梓宸は皇帝(先帝)の息子ではあるが、皇后(正妻)の息子ではないわけだ」
「そうなりますね」
元々皇太子(次の皇帝)として認められていたボンクラを排除して即位したのが側妃の息子・梓宸だからね。
「皇帝と皇后(正妻)の間にできた息子が順当に次の皇帝となれば、皇后は皇太后となり、そこそこの政治的権力を手にすることができる。『母は子を以て貴し』というやつだね」
「ほうほう」
「しかし側妃の息子である梓宸が皇帝になってしまったことで、皇后の扱いをどうするべきかという問題が出てきたわけだ。『嫡母』と『生母』が違う、というやつだね」
「はぁはぁ」
なんかもう興味が薄れてきている私だった。嫡母というのが先帝の正妻で、生母が梓宸の母親かな?
「さらにややこしいのが、貴族連中の後ろ盾が少なかった梓宸は、政治を行う上で皇后の助力を必要としたわけだ。で、皇后に養子入りし、形式上は親子となった。だが、ここで問題となるのは称号だ。皇后はこれから皇太后と呼ぶべきか、呼ばぬべきか。結構な議論になったらしい。先例から言えば皇太后でもいいんだが、まぁ色々あったらしい」
「へー」
もはや微塵も興味を抱けない私だった。そういう呼び方とかはもっと単純にしていただきたい。
「もしかしたら太妃様自身も梓宸を『息子』と認めたくなかったのかもね。で。まぁ丸く収めようとした結果が『太妃』という呼び方なんだよ」
「ほーん」
「……もうちょっと興味を抱いたらどうだい? 自分の義母になるお方だよ?」
「なりませんって。恋愛対象と結婚相手は違うんですって。まったく油断も隙もないですね。しかもまだ権力を握ってそうな人を……」
太妃から見た私は『皇帝が惚れている、幼なじみの庶民の女』となる。うん、絶対目の敵にされるやつよね。私は後宮小説を読んでいるのでそういうのに詳しいのだ。
「……直接会って『視る』ことができれば、心を読んで色々と弱みを握ることもできるんですけどね」
「さらっと怖いことを言い出したよこの子。やっぱりあんたが皇后になるべきじゃないかい? 能力的にも、腹黒さ的にも」
「意外と腹黒いところもある瑾曦様には言われたくありません。あと、私だって際限なく『視て』いる訳ではないですから。視るときはちゃんと相手の同意を得ますから。……まぁ、敵対者は除きますが」
「そういうところだよ」
こういうところらしい。解せぬ。
私、瑾曦様、雪花は改めてお茶会を再開したのだった。梓宸が割り込んできたから中断しちゃっていたのよね。
「しっかし、相変わらず容赦がないねぇ凜風は」
くくくっ、と楽しそうに喉を鳴らす瑾曦様だった。こっちは全然楽しくないですけど?
「事実を指摘しただけです」
「つまり、梓宸が好きなのは事実だと?」
「…………。結婚するのは無理だという意味ですね」
「やれやれ。やっと素直になったと思ったらもうこれだ。あんたは素直になると死ぬ病気なのかい?」
「そういう瑾曦様はお節介を焼かないと死ぬご病気なので?」
「割とそうかもしれないね」
「はた迷惑な」
なんなのだこの人は……と呆れていると、
「でも、素敵でしたわぁ」
うっとりとした顔をする雪花だった。私と梓宸、そんな乙女みたいな顔を向けられるようなことしていたっけ?
「なんてロマンチック……幼き日の約束……誓い合った将来……皇帝になるため故郷を捨てた男と、そんな彼を12年も待ち続けた少女……。二人はついに運命的な再会を……」
それ、もしかしなくても私と梓宸のこと? いや、ないない。幼き日ってほど幼くはなかったし、12年待っていたというか神仙術の修行をしていただけだし、運命的な再会(鳩尾に拳)だし、梓宸はズッコンバッコン子供を作っているし……。どこが情緒的で甘美だというのか。
前世の記憶があるくせに乙女なのねぇと呆れてしまう私だった。なんか今日は呆れてばかりいるわね。
◇
二人に散々からかわれたあと。
「しかし、凜風も後宮にいるなら、太妃様に気をつけないといけないね」
そんな助言をする瑾曦様と、同意するように頷く雪花だった。
「太妃というと……先帝の奥さんでしたっけ?」
「そうだね。まぁその辺は複雑なんだが……」
「複雑?」
「……凜風は梓宸の実母を知っているんだよね?」
「えぇ。まともにやり取りできる精神状態ではありませんでしたし、すでに亡くなられましたが」
美姫として称えられ。妃として華々しい生活を送り。先帝の子供を宿したまではいいのだけれど。その後貶められて――という可哀想なお人だ。
そういえば、そろそろお墓参りにいかないとね。
瑾曦様は後宮に入った時期的に会ったことはないはずだけど、それでも悲しそうな顔を浮かべてくれた。
「そうか……。なら詳しい説明は省くけど、梓宸は皇帝(先帝)の息子ではあるが、皇后(正妻)の息子ではないわけだ」
「そうなりますね」
元々皇太子(次の皇帝)として認められていたボンクラを排除して即位したのが側妃の息子・梓宸だからね。
「皇帝と皇后(正妻)の間にできた息子が順当に次の皇帝となれば、皇后は皇太后となり、そこそこの政治的権力を手にすることができる。『母は子を以て貴し』というやつだね」
「ほうほう」
「しかし側妃の息子である梓宸が皇帝になってしまったことで、皇后の扱いをどうするべきかという問題が出てきたわけだ。『嫡母』と『生母』が違う、というやつだね」
「はぁはぁ」
なんかもう興味が薄れてきている私だった。嫡母というのが先帝の正妻で、生母が梓宸の母親かな?
「さらにややこしいのが、貴族連中の後ろ盾が少なかった梓宸は、政治を行う上で皇后の助力を必要としたわけだ。で、皇后に養子入りし、形式上は親子となった。だが、ここで問題となるのは称号だ。皇后はこれから皇太后と呼ぶべきか、呼ばぬべきか。結構な議論になったらしい。先例から言えば皇太后でもいいんだが、まぁ色々あったらしい」
「へー」
もはや微塵も興味を抱けない私だった。そういう呼び方とかはもっと単純にしていただきたい。
「もしかしたら太妃様自身も梓宸を『息子』と認めたくなかったのかもね。で。まぁ丸く収めようとした結果が『太妃』という呼び方なんだよ」
「ほーん」
「……もうちょっと興味を抱いたらどうだい? 自分の義母になるお方だよ?」
「なりませんって。恋愛対象と結婚相手は違うんですって。まったく油断も隙もないですね。しかもまだ権力を握ってそうな人を……」
太妃から見た私は『皇帝が惚れている、幼なじみの庶民の女』となる。うん、絶対目の敵にされるやつよね。私は後宮小説を読んでいるのでそういうのに詳しいのだ。
「……直接会って『視る』ことができれば、心を読んで色々と弱みを握ることもできるんですけどね」
「さらっと怖いことを言い出したよこの子。やっぱりあんたが皇后になるべきじゃないかい? 能力的にも、腹黒さ的にも」
「意外と腹黒いところもある瑾曦様には言われたくありません。あと、私だって際限なく『視て』いる訳ではないですから。視るときはちゃんと相手の同意を得ますから。……まぁ、敵対者は除きますが」
「そういうところだよ」
こういうところらしい。解せぬ。
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