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太妃の噂・2
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「――でも、太妃様には本当に気をつけてくださいね?」
と、雪花が真剣な顔で警告してくれた。
「そんなに危ないの?」
「えぇ。少し前まで『三代宰相』と共に我が国の政を取り仕切っていたお人ですし。張維さんが宰相になってからは表向き引退したことになっていますが、まだまだ影響力は強いお人です」
張維というと、三代宰相のお孫さんである維さんか。黙っていれば眼鏡の似合う美丈夫なんだけど、女性への態度が残念な人だ。
「そうそう。太妃様はかなりの豪腕だ」
どこか嬉しそうな様子で身を乗り出してくる瑾曦さん。意外と噂話とかお好きなので?
「なにせ宮廷きっての保守派で、欧羅文化嫌い。伝統保守派が『太妃派』と呼ばれるほどだ」
あー。なんか張さんがそんなことを言っていたような?
「たしか……上級妃である四夫人のうち、藍妃の海藍様と紅妃の春紅様が『太妃派』で、翠妃の瑾曦様と白妃の雪花が『革新派』でしたっけ?」
「その通り。よく覚えていたじゃないか」
「記憶力はいいので」
「……そういえば、昔梓宸が嘆いていたな……勉強教えられたとき苦労したって」
なんで梓宸が嘆くのか。我ながら未来の皇帝陛下のために根気よく教えてあげたというのに。まったく自分が一度読んだだけで覚えられないことを棚に上げて……。
と、そんな愚痴を口にすると、
「……可哀想」
「可哀想ですわ……」
私に同情してくれる二人であった。
私への同情心からかしばらく沈黙したあと、重苦しさを振り払うように雪花がこちらに首を向けた。
「……お姉様はもちろん革新派ですわよね? なにせ実家が欧羅と取引のある商家ですし。欧羅の魔術を習得しているんですもの」
にっこりとした笑みを向けてくる雪花だった。『絶対逃がさん』とその瞳が語っている気がする。油断したらすぐこれだ。妃こわい。
「お、いいな。凜風が革新派入りすれば力関係もこっちに傾くだろうからな」
そしてやる気満々の瑾曦様だった。こわい。
「権力抗争に巻き込まないでください」
「むしろこれからは凜風が中心になると思うけどね」
「えぇ、お姉様なら間違いなく」
妄言を口にする瑾曦様と、深く深く首肯する雪花だった。巻き込むなっての。
「えーっと……。太妃様って、他に何か逸話でもあるんですか?」
もはや強引に話題転換を図る私であった。断固拒否権力闘争。
「そうだねぇ……」
やはり噂話が好きなのか、瑾曦様があっさりと乗ってきた。
「さっきも言ったが伝統保守派だからね。大華国の伝統を大事にしようってお立場だ。先帝陛下がご存命だった頃は宮廷内の装飾に欧羅の品も多く使われていたんだが、それらを大華国式で統一したりしてな」
「あー」
先帝陛下の欧羅文化好きは庶民の間でも有名だったからね。
たしか都の各地に存在する噴水も、先帝陛下の欧羅趣味がもたらしたものだったはず。一体いくらつぎ込んだのやら……。まぁ、そのおかげで上水道は張り巡らされたので良かった面もあるのだけど。
「あとは政治に口を出しまくったりな。ま、これはいつの時代もそうだから珍しいことでもないな。外戚の力を借りずに個人で全部差配していたのは凄まじいが。一人でものすごい賄賂をもらっていたらしいぜ? どんだけ欲深いんだか」
「へー」
外戚ってのは皇后の親類のことだっけ? 妃になれるのはだいたい貴族の娘だから、実家に政治的な権力があったり、政務を任せられるほどの教養がある人材が多いので取り立てやすいと。まぁ能力がないくせに上手いこと立ち回って地位を手に入れる人もいるみたいだけど。
「んで。梓宸が前の皇太子を廃嫡し、次の皇帝になったとき……太妃様は実の息子を切り捨てて梓宸に取り入ったのさ。梓宸としても後ろ盾が乏しかったから受け入れるしかなかったと」
「ほーん」
ここでいう『切り捨て』とは物理的に斬って捨てたのではなく、見捨てたという意味のはずだ。物理的よりマシとはいえ、実の息子を切り捨てるとは壮絶ねぇ……。
「あとは凜風も知っての通り、皇帝の御子を宿した妃を排除したそうだ。しかも複数人」
「…………」
複数人かぁ、っとげんなりしてしまう私だった。後宮こわい。
と、今まで朗々と語っていた瑾曦様が急に声を絞った。まるで内緒話をするかのように。魔導具のおかげで誰にも漏れ聞こえないことは分かっているはずなのに……。
「――太妃様は、不死の妙薬を求めているらしい」
「……それは、なんともまぁ……」
神仙術士としては受け入れがたい内容である。仙人の才能を持っている人が何十年も厳しい修行をして仙人になるならとにかく、薬を飲んだだけで不老不死になれるはずがない。
欧羅には万能魔法薬があるし、仙薬にも似たようなものはあるけれど、効果には限界がある。死んだ人間は生き返らないし、失われた四肢が生えてくることもない。――不老不死の妙薬なんて、幻想だ。
不死の妙薬を求める太妃。その噂を聞いたのは初めてだったのか雪花も驚いた様子だ。
「つまり、水銀を飲んでいるのですか?」
「そこまでは分からんけどね。難しいんじゃないかい? 近年は水銀の材料になる辰砂の採掘は固く禁じられているからね。いくら太妃様でもその法は破れないはずだよ。法を変えればその限りじゃないけどね」
「水銀ですかぁ」
やはり権力を持った人は永遠の命を求めてしまうものなのかしらね?
やだやだと首を横に振っていると……瑾曦様が『にやり』とした笑みを浮かべた。嫌な予感。
「いやしかし、太妃様に興味を抱くとは……何だかんだで凜風もやる気満々じゃないか」
「なんでですか……」
話題転換にあっさりと乗ってきたのは太妃様情報を教えるためか……。やはりこの人、腹が黒い。
※いつもコメントありがとうございます
申し訳ありませんが、先の展開予想系のコメントは正誤にかかわらず未承認とさせていただきます。
・他の読者様に作者の想定しない期待や不満を抱かせないため。
・昔コメント欄が荒れたため。
上記二つの理由となります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
第9回キャラ文芸大賞、現在1位です!
まだまだ投票受付中ですのでよろしくお願いいたします!
と、雪花が真剣な顔で警告してくれた。
「そんなに危ないの?」
「えぇ。少し前まで『三代宰相』と共に我が国の政を取り仕切っていたお人ですし。張維さんが宰相になってからは表向き引退したことになっていますが、まだまだ影響力は強いお人です」
張維というと、三代宰相のお孫さんである維さんか。黙っていれば眼鏡の似合う美丈夫なんだけど、女性への態度が残念な人だ。
「そうそう。太妃様はかなりの豪腕だ」
どこか嬉しそうな様子で身を乗り出してくる瑾曦さん。意外と噂話とかお好きなので?
「なにせ宮廷きっての保守派で、欧羅文化嫌い。伝統保守派が『太妃派』と呼ばれるほどだ」
あー。なんか張さんがそんなことを言っていたような?
「たしか……上級妃である四夫人のうち、藍妃の海藍様と紅妃の春紅様が『太妃派』で、翠妃の瑾曦様と白妃の雪花が『革新派』でしたっけ?」
「その通り。よく覚えていたじゃないか」
「記憶力はいいので」
「……そういえば、昔梓宸が嘆いていたな……勉強教えられたとき苦労したって」
なんで梓宸が嘆くのか。我ながら未来の皇帝陛下のために根気よく教えてあげたというのに。まったく自分が一度読んだだけで覚えられないことを棚に上げて……。
と、そんな愚痴を口にすると、
「……可哀想」
「可哀想ですわ……」
私に同情してくれる二人であった。
私への同情心からかしばらく沈黙したあと、重苦しさを振り払うように雪花がこちらに首を向けた。
「……お姉様はもちろん革新派ですわよね? なにせ実家が欧羅と取引のある商家ですし。欧羅の魔術を習得しているんですもの」
にっこりとした笑みを向けてくる雪花だった。『絶対逃がさん』とその瞳が語っている気がする。油断したらすぐこれだ。妃こわい。
「お、いいな。凜風が革新派入りすれば力関係もこっちに傾くだろうからな」
そしてやる気満々の瑾曦様だった。こわい。
「権力抗争に巻き込まないでください」
「むしろこれからは凜風が中心になると思うけどね」
「えぇ、お姉様なら間違いなく」
妄言を口にする瑾曦様と、深く深く首肯する雪花だった。巻き込むなっての。
「えーっと……。太妃様って、他に何か逸話でもあるんですか?」
もはや強引に話題転換を図る私であった。断固拒否権力闘争。
「そうだねぇ……」
やはり噂話が好きなのか、瑾曦様があっさりと乗ってきた。
「さっきも言ったが伝統保守派だからね。大華国の伝統を大事にしようってお立場だ。先帝陛下がご存命だった頃は宮廷内の装飾に欧羅の品も多く使われていたんだが、それらを大華国式で統一したりしてな」
「あー」
先帝陛下の欧羅文化好きは庶民の間でも有名だったからね。
たしか都の各地に存在する噴水も、先帝陛下の欧羅趣味がもたらしたものだったはず。一体いくらつぎ込んだのやら……。まぁ、そのおかげで上水道は張り巡らされたので良かった面もあるのだけど。
「あとは政治に口を出しまくったりな。ま、これはいつの時代もそうだから珍しいことでもないな。外戚の力を借りずに個人で全部差配していたのは凄まじいが。一人でものすごい賄賂をもらっていたらしいぜ? どんだけ欲深いんだか」
「へー」
外戚ってのは皇后の親類のことだっけ? 妃になれるのはだいたい貴族の娘だから、実家に政治的な権力があったり、政務を任せられるほどの教養がある人材が多いので取り立てやすいと。まぁ能力がないくせに上手いこと立ち回って地位を手に入れる人もいるみたいだけど。
「んで。梓宸が前の皇太子を廃嫡し、次の皇帝になったとき……太妃様は実の息子を切り捨てて梓宸に取り入ったのさ。梓宸としても後ろ盾が乏しかったから受け入れるしかなかったと」
「ほーん」
ここでいう『切り捨て』とは物理的に斬って捨てたのではなく、見捨てたという意味のはずだ。物理的よりマシとはいえ、実の息子を切り捨てるとは壮絶ねぇ……。
「あとは凜風も知っての通り、皇帝の御子を宿した妃を排除したそうだ。しかも複数人」
「…………」
複数人かぁ、っとげんなりしてしまう私だった。後宮こわい。
と、今まで朗々と語っていた瑾曦様が急に声を絞った。まるで内緒話をするかのように。魔導具のおかげで誰にも漏れ聞こえないことは分かっているはずなのに……。
「――太妃様は、不死の妙薬を求めているらしい」
「……それは、なんともまぁ……」
神仙術士としては受け入れがたい内容である。仙人の才能を持っている人が何十年も厳しい修行をして仙人になるならとにかく、薬を飲んだだけで不老不死になれるはずがない。
欧羅には万能魔法薬があるし、仙薬にも似たようなものはあるけれど、効果には限界がある。死んだ人間は生き返らないし、失われた四肢が生えてくることもない。――不老不死の妙薬なんて、幻想だ。
不死の妙薬を求める太妃。その噂を聞いたのは初めてだったのか雪花も驚いた様子だ。
「つまり、水銀を飲んでいるのですか?」
「そこまでは分からんけどね。難しいんじゃないかい? 近年は水銀の材料になる辰砂の採掘は固く禁じられているからね。いくら太妃様でもその法は破れないはずだよ。法を変えればその限りじゃないけどね」
「水銀ですかぁ」
やはり権力を持った人は永遠の命を求めてしまうものなのかしらね?
やだやだと首を横に振っていると……瑾曦様が『にやり』とした笑みを浮かべた。嫌な予感。
「いやしかし、太妃様に興味を抱くとは……何だかんだで凜風もやる気満々じゃないか」
「なんでですか……」
話題転換にあっさりと乗ってきたのは太妃様情報を教えるためか……。やはりこの人、腹が黒い。
※いつもコメントありがとうございます
申し訳ありませんが、先の展開予想系のコメントは正誤にかかわらず未承認とさせていただきます。
・他の読者様に作者の想定しない期待や不満を抱かせないため。
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