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浄化
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酷い目に遭った。
瑾曦様、私のことを馬鹿力扱いするくせに、自分だって馬鹿力じゃないか……頭割れるかと思った。
「言っとくけど、この服は高いんだからね」
ふぅー、っと長く息を吐く瑾曦様。怒っているわけじゃなさそうだけど、困っているご様子。まぁ妃って常服(普段着)でもお高いものを着ているからねぇ。実家が用意したものか国が用意したものかは知らないけど、どっちにしろ泥まみれにしていいものではない。
いやまぁそのお高い服で火災現場に突入しかけたのはあなたでしょうという指摘をしたくもあるけれど……。故意ではないとはいえ、原因は私なので罪悪感はある。
「じゃあ、綺麗にしましょうか」
「綺麗にぃ?」
訝しげな顔をする瑾曦様に対して意味深に微笑みかけてから私は欧羅魔術・空間収納の中から小さな木片と筆を取り出した。
その木片に文字を三つ書いていく。■、■、乙、っと。あまりに難しく、細かい文字なので潰れないようにするのが大変だ。
「はい、瑾曦様。どうぞ」
書き上がったばかりの木片――呪符を手渡す私。
「なんだいこりゃあ? キ・シ・オツ……?」
瑾曦様が呪符を受け取り、書かれた漢字三文字を読み上げると――
――浄化された。
呪符に触れた指先から。腕を伝い、胴体から放射線状に『浄化』が広がっていった。泥を払い、水すら弾き、泥汚れにまみれていた常服がまるで新品のように塗り変わる。うーん、改めて見るとなんて便利な神仙術……。
「…………。……は?」
自らの服に起こった変化を信じられないのか目を丸くする瑾曦様。
「……凜風、何したんだい?」
「■■乙の呪文ですね」
「キシオツ?」
「元々は疫病退散の呪文というか、呪符ですね。極論すれば清浄な空間を維持することが感染症対策になりますので、そのための周辺浄化術です。ちょっと工夫をするとこのように服の汚れも綺麗になります。ここは神気が多いので効果が高めのようですが。欧羅で言うところの『浄化』聖文(呪文)ですね」
「……はぁ?」
まるで理解できていないご様子の瑾曦様だった。ちょっと早口で説明しすぎたかもしれない。
「まぁ簡単に説明すると、お風呂いらずの便利な神仙術です」
「簡単に説明しすぎじゃね?」
分かり易く端折ってあげたのに……我が儘さんめ。
◇
そんな感じのやり取りをしていると、位の高そうな服を着た宦官がやって来て、調べ物を始めた。『火事』になったので放火じゃないかどうか調査をしているのだ。
何でそんなことを知っているかというと、私たちも軽く取り調べを受けたからだ。まぁ上級妃・瑾曦様のおかげでそんなしつこつ尋ねられることはなかったけれど。ご丁寧に周りの人間たちから一人ずつ聞き取りをしている。
「明らかに雷だと思いますけどねー」
「ま、しょうがないさ。あの宦官たちは雷が落ちる場面は見ていないんだからな」
「それもそうですねー。……しかし、」
完全に火の消えた建物を見上げた私は小さく唸り声を上げた。
ただの雷。
ただの自然現象。
にしては、ずいぶんと『神気』が多い気がする。最初は宮殿、つまりはこの国最大級の龍穴があるから神気が溢れているのだと思っていたけれど……建物の屋根から立ち上る神気を見るに、どうやらあの雷自体に多くの神気が含まれていたみたいだ。
あるいは、私の力が増幅されたのもあの神気のおかげかもしれない。
雷は神の力だとされるし、外国ではいくつかの神話で最高神の『力』として扱われるという。
もちろんこの国でも神として扱われる例はあり、例えば雷公や雷母、雷沢などが思いつくけれど……本物の神格者が降りてきたにしては神気が少ないわね。というかそういう系が降臨したら宮廷丸ごと燃えてしまうのでは?
となると、もうちょっと神格が少なくて、雷系統で、建物を火事にするくらいの存在となると――
「――雷獣、ですかね?」
※■■は漢字変換できないので暫定的に黒い四角表記です。
瑾曦様、私のことを馬鹿力扱いするくせに、自分だって馬鹿力じゃないか……頭割れるかと思った。
「言っとくけど、この服は高いんだからね」
ふぅー、っと長く息を吐く瑾曦様。怒っているわけじゃなさそうだけど、困っているご様子。まぁ妃って常服(普段着)でもお高いものを着ているからねぇ。実家が用意したものか国が用意したものかは知らないけど、どっちにしろ泥まみれにしていいものではない。
いやまぁそのお高い服で火災現場に突入しかけたのはあなたでしょうという指摘をしたくもあるけれど……。故意ではないとはいえ、原因は私なので罪悪感はある。
「じゃあ、綺麗にしましょうか」
「綺麗にぃ?」
訝しげな顔をする瑾曦様に対して意味深に微笑みかけてから私は欧羅魔術・空間収納の中から小さな木片と筆を取り出した。
その木片に文字を三つ書いていく。■、■、乙、っと。あまりに難しく、細かい文字なので潰れないようにするのが大変だ。
「はい、瑾曦様。どうぞ」
書き上がったばかりの木片――呪符を手渡す私。
「なんだいこりゃあ? キ・シ・オツ……?」
瑾曦様が呪符を受け取り、書かれた漢字三文字を読み上げると――
――浄化された。
呪符に触れた指先から。腕を伝い、胴体から放射線状に『浄化』が広がっていった。泥を払い、水すら弾き、泥汚れにまみれていた常服がまるで新品のように塗り変わる。うーん、改めて見るとなんて便利な神仙術……。
「…………。……は?」
自らの服に起こった変化を信じられないのか目を丸くする瑾曦様。
「……凜風、何したんだい?」
「■■乙の呪文ですね」
「キシオツ?」
「元々は疫病退散の呪文というか、呪符ですね。極論すれば清浄な空間を維持することが感染症対策になりますので、そのための周辺浄化術です。ちょっと工夫をするとこのように服の汚れも綺麗になります。ここは神気が多いので効果が高めのようですが。欧羅で言うところの『浄化』聖文(呪文)ですね」
「……はぁ?」
まるで理解できていないご様子の瑾曦様だった。ちょっと早口で説明しすぎたかもしれない。
「まぁ簡単に説明すると、お風呂いらずの便利な神仙術です」
「簡単に説明しすぎじゃね?」
分かり易く端折ってあげたのに……我が儘さんめ。
◇
そんな感じのやり取りをしていると、位の高そうな服を着た宦官がやって来て、調べ物を始めた。『火事』になったので放火じゃないかどうか調査をしているのだ。
何でそんなことを知っているかというと、私たちも軽く取り調べを受けたからだ。まぁ上級妃・瑾曦様のおかげでそんなしつこつ尋ねられることはなかったけれど。ご丁寧に周りの人間たちから一人ずつ聞き取りをしている。
「明らかに雷だと思いますけどねー」
「ま、しょうがないさ。あの宦官たちは雷が落ちる場面は見ていないんだからな」
「それもそうですねー。……しかし、」
完全に火の消えた建物を見上げた私は小さく唸り声を上げた。
ただの雷。
ただの自然現象。
にしては、ずいぶんと『神気』が多い気がする。最初は宮殿、つまりはこの国最大級の龍穴があるから神気が溢れているのだと思っていたけれど……建物の屋根から立ち上る神気を見るに、どうやらあの雷自体に多くの神気が含まれていたみたいだ。
あるいは、私の力が増幅されたのもあの神気のおかげかもしれない。
雷は神の力だとされるし、外国ではいくつかの神話で最高神の『力』として扱われるという。
もちろんこの国でも神として扱われる例はあり、例えば雷公や雷母、雷沢などが思いつくけれど……本物の神格者が降りてきたにしては神気が少ないわね。というかそういう系が降臨したら宮廷丸ごと燃えてしまうのでは?
となると、もうちょっと神格が少なくて、雷系統で、建物を火事にするくらいの存在となると――
「――雷獣、ですかね?」
※■■は漢字変換できないので暫定的に黒い四角表記です。
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