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雷獣?
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「雷獣?」
聞き覚えがないのか首をかしげる瑾曦様だった。
「えぇ、雷獣です。見た目は色々とありますが……四足の獣だったり一本足の獣だったりですね。雷と共に空から落ちてきて、雷と共に空へと帰って行くとされています」
「空から……? そんな生き物、実在するのかい?」
「しますよ。逃げ足が速いので中々捕まりませんけど。ちなみに味は美味しいらしいです」
「食うんかい」
「皮で太鼓を作り、骨で桴を作るととても大きな音を出すことができるそうで」
「食ったあとに骨や皮まで有効活用かい」
一つ一つ指摘をしてくれる瑾曦様だった。
「あ、そうでした」
もう一つ。雷獣に関する情報を思いだした私。あまり前例がないし、たぶん文献にも残っていない口伝なのでそのうち忘れ去られるであろう知識だ。
「――雷獣が宮殿に落ちるのは瑞兆とされていまして」
「瑞兆? おめでたいと?」
「えぇ」
「火事になったのに?」
「なったんですけどねぇ」
「どこがおめでたいと?」
「どちらかというと、不幸を吉兆と言い張った系じゃないですかね? 特に宮殿が落雷で燃えるとか皇帝の資質が問われそうですし」
この国の皇帝は『天命思想』といって、天から人間界の統治を任せられているとされているのだ。欧羅だと……王権神授説だっけ? まぁとにかく、天に認められているから偉そうに権力を振るえるし、天から見放されると別の人間に天命が移るという考えなのだ。
で。天から落ちてきた雷で宮殿内の建物が燃えちゃうのは天命思想的にマズいから……逆に吉兆ということにしちゃったのだと思う。
「適当だなぁおい」
「伝統とか言い伝えなんてそんなものじゃないですか?」
「怪しげな神仙術士とは思えない口ぶりだ」
「神仙術も結構理論理屈で成り立っているんですけどね」
「服を一瞬で綺麗にするなんてどんな理論だよ?」
「えーっと、こう……服は綺麗な方が嬉しいよね? みたいな?」
「適当だなぁおい」
「適当ではないんですが……うーん、なかなか説明が難しい……」
どう説明したものかなぁ。そもそも神仙術の知識がない人に理解してもらうのって難しいなぁ。なぁんて悩んでいると、
「――やや! あなた様はもしや! 噂の凜風様っすか!?」
そんな、どこか陽気さを感じさせる声が背後から掛けられた。
南の方言。
私の家は商家なので、だいたいの方言は知識として有しているのだ。
そして後宮には国中から女性が集められるので、南の方言を喋る人がいても不思議ではない。……まぁ、女官であればちゃんとした敬語を使わないのは妙だし、妃であれば方言を恥ずかしがって修正してしまうものなのだけどね。
まぁつまり、後宮でもかなり珍しいと言えるはず。
そんなことを考えながら振り向くと、そこにいたのは……どこか、猫っぽい印象を与えてくる侍女だった。
「げっ、子猫」
嫌そーな顔をする瑾曦様。
子猫?
人の名前としてはかなり珍しいのでは? もしかして、あだ名?
まぁたしかに。子猫と呼ばれた年若い侍女は目が細いし、身体もしなやかなので『猫』というあだ名は似合っている気がする。それにしても人を猫呼ばわりは凄いと思うけど。後宮の文化、分からない……。
「どうも! 毎度お世話になっているっす、瑾曦様!」
へこへこと腰を曲げて媚びへつらう子猫(?)さんだった。
……なぁんか、気安そうな雰囲気を漂わせているのだけど、油断ならない感じがするというか……。これはもう最初から『敵』判定で心を読んでも許されるのでは?
そんな侍女さんは瑾曦様といくつかやり取りをしたあと、こちらに首を向けてきた。
「改めまして! はじめまして凜風様! お噂はかねがね!」
「あ、はぁ」
なんか元気いっぱいに挨拶されてちょっと気圧されてしまう私だった。ほら、私って小心者だから。そもそも神仙術士って秘境に引きこもって修行ばかりしている人種なのだ。
キラキラとした目を向けてくる、胡散臭い子猫。正直お近づきになりたくないので帰りたい私。そんな私の態度に呆れたのか瑾曦様が仲立ちしてくれた。
「凜風。こいつは『情報屋』だ」
「情報屋ぁ?」
暗部とはまた違うの?
欧羅にはそういう職業があると聞いたことがある、ような気がするけど……。
「情報屋って、何をするんですか?」
「そうだねぇ。基本的には後宮内外の噂を集めて、妃たちに聞かせる存在さ。妃なんて一日中部屋に篭もっているし、退屈しているからね。上手いこと楽しませれば高い茶や菓子などを恵んでもらえるのさ」
「へー」
欧羅の道化師みたいな?
……この前藍妃の海藍様からお菓子をもらったけど、あれは『いい道化だったわ』という意味だった可能性も……? なんかあの人って暇してそうだし。
妃と直接やり取りできるのだから、意外と位の高い侍女なのかもね。
「……あとは、それなりの銭を払えば貴重な情報を教えてもくれるな」
「ほー」
他の妃を出し抜いたり、貶めるための情報とか?
そういえば、雪花は妙に情報が早かったけど……もしかしたらこういう情報屋から色々と話を聞いているのかもね。
「そんな情報屋さんが、私に一体何の御用ですか?」
正直関わりたくないけれど、最低限の交流として問いかける私たっだ。ここで無視して変な噂を流されたら面倒くさいし。
「いえ! 特に御用などありませんが! 火災現場の様子を見に来たら噂の凜風様のお姿を見かけまして! これは仲良くなる好機だと思い、声を掛けさせていただきましたっす!」
「あぁ、そうでしたか」
噂ってどんな噂になっているのやら。性欲極大皇帝の手によって後宮に軟禁されてしまった可哀想な美少女とか?
「いやー! 宮廷での毒殺未遂事件を見事に解決し! 皇帝の危機を救い! 先ほどは大火になりそうだった火事を瞬時に鎮めたそうじゃないですか!」
毒殺未遂は铃ちゃんのやつだとして……。梓宸の危機? そんなの救ったっけ? 鳩尾に拳を叩き込んだり欧羅式ドロップキックをしたり、ころすためにゴキベキバキとしたり精神をポキッと折ったり……。あぁ、ドロップキックは『毒に触れようとした皇帝を止めた』と言えなくもないかも?
聞き覚えがないのか首をかしげる瑾曦様だった。
「えぇ、雷獣です。見た目は色々とありますが……四足の獣だったり一本足の獣だったりですね。雷と共に空から落ちてきて、雷と共に空へと帰って行くとされています」
「空から……? そんな生き物、実在するのかい?」
「しますよ。逃げ足が速いので中々捕まりませんけど。ちなみに味は美味しいらしいです」
「食うんかい」
「皮で太鼓を作り、骨で桴を作るととても大きな音を出すことができるそうで」
「食ったあとに骨や皮まで有効活用かい」
一つ一つ指摘をしてくれる瑾曦様だった。
「あ、そうでした」
もう一つ。雷獣に関する情報を思いだした私。あまり前例がないし、たぶん文献にも残っていない口伝なのでそのうち忘れ去られるであろう知識だ。
「――雷獣が宮殿に落ちるのは瑞兆とされていまして」
「瑞兆? おめでたいと?」
「えぇ」
「火事になったのに?」
「なったんですけどねぇ」
「どこがおめでたいと?」
「どちらかというと、不幸を吉兆と言い張った系じゃないですかね? 特に宮殿が落雷で燃えるとか皇帝の資質が問われそうですし」
この国の皇帝は『天命思想』といって、天から人間界の統治を任せられているとされているのだ。欧羅だと……王権神授説だっけ? まぁとにかく、天に認められているから偉そうに権力を振るえるし、天から見放されると別の人間に天命が移るという考えなのだ。
で。天から落ちてきた雷で宮殿内の建物が燃えちゃうのは天命思想的にマズいから……逆に吉兆ということにしちゃったのだと思う。
「適当だなぁおい」
「伝統とか言い伝えなんてそんなものじゃないですか?」
「怪しげな神仙術士とは思えない口ぶりだ」
「神仙術も結構理論理屈で成り立っているんですけどね」
「服を一瞬で綺麗にするなんてどんな理論だよ?」
「えーっと、こう……服は綺麗な方が嬉しいよね? みたいな?」
「適当だなぁおい」
「適当ではないんですが……うーん、なかなか説明が難しい……」
どう説明したものかなぁ。そもそも神仙術の知識がない人に理解してもらうのって難しいなぁ。なぁんて悩んでいると、
「――やや! あなた様はもしや! 噂の凜風様っすか!?」
そんな、どこか陽気さを感じさせる声が背後から掛けられた。
南の方言。
私の家は商家なので、だいたいの方言は知識として有しているのだ。
そして後宮には国中から女性が集められるので、南の方言を喋る人がいても不思議ではない。……まぁ、女官であればちゃんとした敬語を使わないのは妙だし、妃であれば方言を恥ずかしがって修正してしまうものなのだけどね。
まぁつまり、後宮でもかなり珍しいと言えるはず。
そんなことを考えながら振り向くと、そこにいたのは……どこか、猫っぽい印象を与えてくる侍女だった。
「げっ、子猫」
嫌そーな顔をする瑾曦様。
子猫?
人の名前としてはかなり珍しいのでは? もしかして、あだ名?
まぁたしかに。子猫と呼ばれた年若い侍女は目が細いし、身体もしなやかなので『猫』というあだ名は似合っている気がする。それにしても人を猫呼ばわりは凄いと思うけど。後宮の文化、分からない……。
「どうも! 毎度お世話になっているっす、瑾曦様!」
へこへこと腰を曲げて媚びへつらう子猫(?)さんだった。
……なぁんか、気安そうな雰囲気を漂わせているのだけど、油断ならない感じがするというか……。これはもう最初から『敵』判定で心を読んでも許されるのでは?
そんな侍女さんは瑾曦様といくつかやり取りをしたあと、こちらに首を向けてきた。
「改めまして! はじめまして凜風様! お噂はかねがね!」
「あ、はぁ」
なんか元気いっぱいに挨拶されてちょっと気圧されてしまう私だった。ほら、私って小心者だから。そもそも神仙術士って秘境に引きこもって修行ばかりしている人種なのだ。
キラキラとした目を向けてくる、胡散臭い子猫。正直お近づきになりたくないので帰りたい私。そんな私の態度に呆れたのか瑾曦様が仲立ちしてくれた。
「凜風。こいつは『情報屋』だ」
「情報屋ぁ?」
暗部とはまた違うの?
欧羅にはそういう職業があると聞いたことがある、ような気がするけど……。
「情報屋って、何をするんですか?」
「そうだねぇ。基本的には後宮内外の噂を集めて、妃たちに聞かせる存在さ。妃なんて一日中部屋に篭もっているし、退屈しているからね。上手いこと楽しませれば高い茶や菓子などを恵んでもらえるのさ」
「へー」
欧羅の道化師みたいな?
……この前藍妃の海藍様からお菓子をもらったけど、あれは『いい道化だったわ』という意味だった可能性も……? なんかあの人って暇してそうだし。
妃と直接やり取りできるのだから、意外と位の高い侍女なのかもね。
「……あとは、それなりの銭を払えば貴重な情報を教えてもくれるな」
「ほー」
他の妃を出し抜いたり、貶めるための情報とか?
そういえば、雪花は妙に情報が早かったけど……もしかしたらこういう情報屋から色々と話を聞いているのかもね。
「そんな情報屋さんが、私に一体何の御用ですか?」
正直関わりたくないけれど、最低限の交流として問いかける私たっだ。ここで無視して変な噂を流されたら面倒くさいし。
「いえ! 特に御用などありませんが! 火災現場の様子を見に来たら噂の凜風様のお姿を見かけまして! これは仲良くなる好機だと思い、声を掛けさせていただきましたっす!」
「あぁ、そうでしたか」
噂ってどんな噂になっているのやら。性欲極大皇帝の手によって後宮に軟禁されてしまった可哀想な美少女とか?
「いやー! 宮廷での毒殺未遂事件を見事に解決し! 皇帝の危機を救い! 先ほどは大火になりそうだった火事を瞬時に鎮めたそうじゃないですか!」
毒殺未遂は铃ちゃんのやつだとして……。梓宸の危機? そんなの救ったっけ? 鳩尾に拳を叩き込んだり欧羅式ドロップキックをしたり、ころすためにゴキベキバキとしたり精神をポキッと折ったり……。あぁ、ドロップキックは『毒に触れようとした皇帝を止めた』と言えなくもないかも?
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