行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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 実家から本が送られてくる前に、梓宸に話を通しておきましょうか。怪しいものとして廃棄されても大変だし。

 ふっ、こういうとき、権力者が幼なじみだと話が早くて助かるわ。生まれて初めて梓宸に感謝するかもしれない私だった。まだ感謝するとは限らないけどね。

 ……まぁ正直、許可なんて取らなくても空間収納ストレージに詰め込んでから縮地で移動すればいいだけなのだけど……納品のたびに移動するのは面倒くさいからね。他の人が使える販路を確保しておくのも重要でしょう。

「――とーう!」

 神仙術で梓宸のいる場所を探知し、神仙術の縮地で移動。そう私は神仙術士なのだ!

「――ぐっふぅ!?」

 おや? 足元から梓宸を踏みつぶしたような鳴き声が? しかしたとえ踏みつぶしたところで女好きが一人苦しむだけなので別にいいか。

「……凜風様。そういうことはなるべく控えていただきたい」

 と、現在の宰相であり梓宸の親友でもあるというウェイさんが僾逮(眼鏡)を押し上げた。

「いや維……もっと厳しく止めてくれ……」

 私の足元から珍獣の鳴き声が聞こえたけれど、維さんはそんな珍獣に向けてため息をついた。

「お前が凜風様にやったことを知るにつれ、私はどちらかと言えば凜風様の味方になった。結婚適齢期を無為に過ごさせたのだから踏まれるくらい我慢しろ」

「ぐっ、それはそうだが……」

 おぉ、いつのまにか維さんからの好感度が上昇? こういうのを欧羅では『フラグが立つ』というのだっけ?

 維さんは初めて会ったときにかなーり失礼な物言いをされたけど……ふふふ、私の味方をするというのなら許そうじゃないの! なぜなら私は心優しく器が大きいからね!

 と、私が自画自賛していると、

「り、凜風……。そろそろ退いてくれ……かなり重い――うぐぅ!?」

 心優しく器が大きい私は梓宸の上で足踏みしてから床に降り立ったのだった。

「――はははっ、嬢ちゃん、相変わらずだな!」

 私の背後から豪快な笑い声が。振り向くと、そこにいたのは親衛隊長の孫武さん。瑾曦様のお兄さんだ。維さんは正面にいたからすぐに分かったけど、後ろにいた孫武さんには気づけなかったみたい。

 ……いや、まったく気配がしなかったから気づけなかったというのもあるのだけどね。

 そんな『怖い』孫武さんはニヤリという顔を私――ではなく維さんに向けた。

「しかしお前、『凜風様にやったことを知るにつれ』とは妙な物言いだな? 事前に調べたのだからそのくらい知っていただろう?」

「…………」

 おお? なんか知らないけど孫武さんが鋭い指摘をしたっぽい? よく分からないけど維さんにとって痛いところを突かれたみたい。さすが瑾曦様のお兄さん、推理力も高いらしい。

 えーっと、つまり、私の味方になりたかったけど初対面の時に辛辣なことを言った手前、素直になれなかった感じ? ふふふ、可愛いところがあるじゃないですか維さん。

「……浮気の香りがするぞぉう?」

 疾風怒濤の浮気野郎が何か言っていた。宦官にしてやろうかしら? 物理的に。

 ちなみに。維さんの心を読めば『正解』が分かるのだけど、そんなことはしない私だった。だって維さんは味方になってくれるみたいだし。なにより正解を視ちゃったらつまらない・・・・・――じゃなくて、失礼だもの。

「そうだ、今日来た理由だけど」

 私がさっそく本題に入ろうとすると、

「ふっ、分かっているぞ凜風。この俺に会いに来たんだろう!?」

「――ちょっと後宮で本を売ろうと思いまして。事前に許可を取っておこうかと」

 阿呆アホを完全に無視スルーして、維さんとやり取りする私だった。阿呆の子が何か騒いでいたけれど、私も維さんも完全無視だ。

「本ですか?」

「えぇ。後宮には娯楽が少ないので。本の販売はどうかなぁと思いまして。実は我が家って小説の販売もしているのですよ」

「……たしかに妃たちの娯楽が少ないとは聞きますが……うーむ、しかし、小説などという低俗なものは……」

 難しい顔をする維さんだった。味方をすると言っても何でも許してくれるわけではないらしい。きちんと仕事をしているので好感度上昇である。どっかの阿呆は仕事時間中も後宮に入り浸っているからね。

 ちなみに本には『大説』と『小説』があって、大説とは君子(徳の高い人)が国家や社会に対する志を述べたもので、そうではない低俗な読み物は小説と呼ばれているのだ。

 まぁ、庶民は小説にしか興味がないのだけどね。

 それはともかく。やはり宰相である維さんからすれば、『国母』となるかもしれない女性が低俗な小説を読むことが許せないのかもしれないわね。うーん、ここはやはり実際の小説を読んでもらって面白さに目覚めてもらうしかないか……。

 私がそんなことを考えていると、

「――はっ! そうか、そういうことでしたか!」

 何かに気づいたように目を見開く維さんだった。どうしました?

「なるほど、何と恐ろしい神算鬼謀……さすがは凜風様ですね……」

 え? なにが? 最近は金儲けの算段を『神算鬼謀』って言うんですか? んなわけあるか。

 えーっと? うーんと? あーっと?

「…………。……ふ、理解していただけましたか。さすがは維さんです」

「えぇ、頭ごなしに否定した自分が恥ずかしくなります。――娯楽の一括管理。後宮に流れる小説の供給を凜風様が独占すれば、多くの妃は凜風様の味方となりましょう。これで改革派に多くの小説を流すようにすれば……。よもやそのような手段で妃たちの統制をしようとするとは! この張維、思いつきもしませんでした!」

「…………。……ふっ、説明する手間が省けましたね。さすがは維さんです」

 と、まるで計算通りみたいな顔をする私だった。こういうときは乗っておけばいいのだ。なんか順調スムーズに本の販売が認められそうだし。妃の統制は……瑾曦様あたりに丸投げすればいいんじゃない? 雪花でも可。

「…………」

 私が嘘をついているか見抜ける梓宸が白けた顔を向けてきたけど、気のせいに決まっているので気にしないことにする。



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