行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月

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 後宮まで送ろうとする梓宸を「仕事しろ」と一蹴し。せっかく外廷にまで来たので見物がてら歩いて後宮に戻ることにした私だった。

 そんな私の両隣には、なぜか維さんと孫武さんが。

 維さんは宰相なんだから梓宸と仕事をするべきだし、孫武さんなんて親衛隊長(護衛)なのだから梓宸に付いているべきなのだけど。

「えーっと、二人とも、どうしました?」

 私が問いかけると、維さんが小さく頭を下げてきた。

「はい。お見送りを――と言いたいところですが、実は相談がありまして」

「相談? 張さんの腰は中々治らないですよ?」

「いえ、お爺さまのことではなく――凜風様は、呪いなどに詳しいでしょうか?」

「呪い?」

「はい。実は宮廷の蔵書楼(図書館)に呪いの本がありまして」

「……なんでそんな胡散臭いものが宮廷に?」

「……先帝陛下が怪しげな本を各地から取り寄せましたので」

「あー……」

 不老不死研究の一環か。それでなぜ呪いの本なんだと思わないでもないけれど、まぁ不老不死を求める人間に常識的な判断を求めてもしょうがないか。

「そんな本、さっさと焚書燃やしてしまえばいいのでは?」

「我々としてもそうしたいのですが……事情があって廃棄できない本もありまして」

「はぁ、そのうちの一冊が呪いの本だと?」

「えぇ。触れるだけで謎の痣が浮かんだり、寝たきりになったりするそうです。かつては死者も出たとかで」

「うへぇ」

「そして、先日学者の一人がその本に触れ、謎の痣が浮かんできたのです」

「謎の痣とはいかにも呪いっぽいですね……。宮廷に学者がいるのですか?」

 学者ってあばら家に住んで晴耕雨読の生活をしている印象イメージがあるのだけど。

「えぇ。儒学者――頭のいい人間は宮廷に招かれて、皇帝に助言したり政治に参画したりするものなのです」

 なんだかずいぶんと噛み砕いた解説をされた気がする。分かり易くていいのだけど。

「そんな頭のいい学者が、なんで呪いの本なんかに触れたのですか?」

「学者ですから。呪いなど信じず、むしろ否定するために触れたとかで」

「…………」

 学者って馬鹿なのかな? という感想は飲み込んだ私だった。学者なのだから馬鹿ではないでしょう。

「と、学者本人は言い訳していましたが、実際のところは知的好奇心に負けたようでして」

「学者って馬鹿なんですか?」

 おっと、ついつい本音が。ポロッとね。
 宮廷で働くほどの学者を馬鹿呼ばわりしてしまった気まずさから咳払いでごまかす私。

「ごほん。とりあえず、診察してみましょうか。呪いであれば解呪。他の病気であれば治療。原因となった本は焼却処分でいいですか?」

「お願いできますでしょうか?」

「まずは診てみてからですね。呪いも私の手に負えないものだったら『師匠』の協力が必要ですし。病気であっても、欧羅の回復魔法で治療できないものもありますので」

 たとえばできたばかりの傷や、腫瘍、感染症の治療とかなら回復魔法が一番適している。傷口の時間を戻して治したり、原因を排除してしまえばいいからだ。

 しかし、栄養失調だった場合は足りない栄養を物理的に補充しなきゃいけないし、血を流しすぎたり脱水症状を起こしたりしたときなど『体内に足りない』場合も勝手に増えるわけではない。

 回復魔法の中には増血できるものもあるにはあるけれど、まずは増血が必要か見極めなければならない。中々使いどころが難しいのだ。

「そういうものですか。では、まず診察を。ご安心ください。医官が診ても原因は不明でしたから、回復しなかったところで罪に問われることはありません」

「…………」

 それ、わざわざ言及するってことは、場合によっては罪に問われる可能性があるので? 宮廷こわい。

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