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よわよわ
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生まれたての子鹿のように震えながら維さんの案内で学者の部屋に向かう。
なんと、呪いを受けたとされる学者さんは、伝染病である可能性を恐れて医局での入院は許されなかったらしい。普通逆だと思うのだけど……まぁこの国の医療水準だとねぇ……こんなものかしら……。医官のほとんどが太妃派だというなら欧羅の医術も受け入れないだろうし……。
「ところで維さん、わざわざ帰り道に相談したってことは、梓宸には内緒の話だったのですか?」
「えぇ、そうなりますね」
「なんでまた? ……あ、そうか。皇帝にする話でもないですか」
ついつい忘れちゃうけど梓宸って皇帝なのよね。皇帝に呪いの話を上奏……うん、ないわ。
「それもありますが……あの男、『呪いの本』と聞いたら喜び勇んで確認しようとするかもしれませんので」
「あー」
納得するしかない幼なじみであった。そしてさらっと『あの男』扱いされる梓宸であった。
「あの男、もうちょっと威厳は出ないんですか?」
思わず苦言を呈してしまう私だった。改めて考えてみても、再会してから皇帝らしい姿を見たことがないのよねぇ。
「――はははっ、まぁ、そう言うな嬢ちゃん」
と、豪快に笑いながら私の背中をバンバンと叩いてくる孫武さん。だから兄妹で私の背中の耐久力を試すのはやめていただきたい。
「あの男はちゃんと『大華国九代皇帝・劉宸』をやっているさ。――ただ、嬢ちゃんに対して甘えているだけでな」
「甘えすぎだと思いますが?」
「それだけ普段気を張って仕事をしているってことさ」
「そういうものですか……ん?」
納得できないでいると、廊下の向こうから歩いてきた侍女が、私と視線が合ってから『ギョッ』とした顔をして頭を下げてきた。頭を下げるのはまぁ宰相と親衛隊長がいるから当然なのだけど……その前のギョッとした顔は私に対する反応よねぇ。
侍女の姿が見えなくなるまで歩いてから、自分の髪を一房とってみる。
「やっぱりこの銀色の髪は目立ちますかね?」
「だな。嬢ちゃんの場合はそれに加えて美人さんだからな。驚くのも無理はないだろう。まさか天女が降りてきたのかってな」
さらっと口説いてくる孫武さんだった。
「口が上手いことで」
「慣れているからな」
「でしょうね」
そんなやり取りをしているうちに患者さんの部屋に到着した。なんでも偉い学者は宮中に仕事部屋を用意してもらえるらしい。まぁ個室なら入院させるより感染が広がる心配はないかしら……?
患者さんは地位が高いのか、あるいは慕われているのか。部屋の外にはいかにも学者然とした男性たちが集まっていた。
学者たちは私の姿を見て驚いていたけれど、すぐに気を取り直して維さんに近づいて来た。
「張相公」
「師はどうなるでしょうか?」
「医官は何をしているのです?」
なんか、口調は丁寧なのだけど圧は強いわね。普通に怒り狂われるよりやりにくそう……。
「う、うむ。医官も呪いは専門外のようでな」
「なんと」
「しょせん医官共は太妃派か」
「早々に皇帝陛下に味方した我らをまだ恨んでいるのか」
なーんか、後宮の外でも派閥争いがあるみたい? むしろこっちが本場なのかしら。
「ゆえに、呪いの専門家である神仙術士殿にお越しいただいた」
と、なぜか胸を張る維さん。神仙術士は別に呪いの専門家じゃないですが? そういうのはどちらかというと呪術師の役割で……いや変な呪術師に頼むよりは私の方がマシですけど。
「…………」
「…………」
「…………」
胡散臭そうな目で私を見る学者たち。うん、分かるわ。私だって神仙術を学ぶ前だったら訝しんでいただろうし。この国には怪しげな道士やら医者やらが多すぎるのだ。
「……いいんですか?」
一応維さんに確認する私。
「逆にこちらが確認したいのですが。相談しておいて何ですが、凜風様に呪いが移る可能性もありますし」
「あ、その辺は大丈夫ですね。――心配してくれてありがとうございます」
維さんに微笑みかけてから私は患者がいるという部屋に入った。
「うぐぅ」
ん? 奇妙な声が? 部屋の中――ではなく私の背後から?
振り向くと、維さんが胸を押さえて下を向いていた。どうしました? 急病って感じじゃなさそうですけど? 診察します?
そんな維さんの隣でなぜか孫武さんは呆れ顔だ。
「弱っ。耐性なさ過ぎだろ……。あー、嬢ちゃん、コイツは平気だから、さっさと診てやってくれ」
「? はーい」
よく分からないけど、急病じゃないならいいか。
なんと、呪いを受けたとされる学者さんは、伝染病である可能性を恐れて医局での入院は許されなかったらしい。普通逆だと思うのだけど……まぁこの国の医療水準だとねぇ……こんなものかしら……。医官のほとんどが太妃派だというなら欧羅の医術も受け入れないだろうし……。
「ところで維さん、わざわざ帰り道に相談したってことは、梓宸には内緒の話だったのですか?」
「えぇ、そうなりますね」
「なんでまた? ……あ、そうか。皇帝にする話でもないですか」
ついつい忘れちゃうけど梓宸って皇帝なのよね。皇帝に呪いの話を上奏……うん、ないわ。
「それもありますが……あの男、『呪いの本』と聞いたら喜び勇んで確認しようとするかもしれませんので」
「あー」
納得するしかない幼なじみであった。そしてさらっと『あの男』扱いされる梓宸であった。
「あの男、もうちょっと威厳は出ないんですか?」
思わず苦言を呈してしまう私だった。改めて考えてみても、再会してから皇帝らしい姿を見たことがないのよねぇ。
「――はははっ、まぁ、そう言うな嬢ちゃん」
と、豪快に笑いながら私の背中をバンバンと叩いてくる孫武さん。だから兄妹で私の背中の耐久力を試すのはやめていただきたい。
「あの男はちゃんと『大華国九代皇帝・劉宸』をやっているさ。――ただ、嬢ちゃんに対して甘えているだけでな」
「甘えすぎだと思いますが?」
「それだけ普段気を張って仕事をしているってことさ」
「そういうものですか……ん?」
納得できないでいると、廊下の向こうから歩いてきた侍女が、私と視線が合ってから『ギョッ』とした顔をして頭を下げてきた。頭を下げるのはまぁ宰相と親衛隊長がいるから当然なのだけど……その前のギョッとした顔は私に対する反応よねぇ。
侍女の姿が見えなくなるまで歩いてから、自分の髪を一房とってみる。
「やっぱりこの銀色の髪は目立ちますかね?」
「だな。嬢ちゃんの場合はそれに加えて美人さんだからな。驚くのも無理はないだろう。まさか天女が降りてきたのかってな」
さらっと口説いてくる孫武さんだった。
「口が上手いことで」
「慣れているからな」
「でしょうね」
そんなやり取りをしているうちに患者さんの部屋に到着した。なんでも偉い学者は宮中に仕事部屋を用意してもらえるらしい。まぁ個室なら入院させるより感染が広がる心配はないかしら……?
患者さんは地位が高いのか、あるいは慕われているのか。部屋の外にはいかにも学者然とした男性たちが集まっていた。
学者たちは私の姿を見て驚いていたけれど、すぐに気を取り直して維さんに近づいて来た。
「張相公」
「師はどうなるでしょうか?」
「医官は何をしているのです?」
なんか、口調は丁寧なのだけど圧は強いわね。普通に怒り狂われるよりやりにくそう……。
「う、うむ。医官も呪いは専門外のようでな」
「なんと」
「しょせん医官共は太妃派か」
「早々に皇帝陛下に味方した我らをまだ恨んでいるのか」
なーんか、後宮の外でも派閥争いがあるみたい? むしろこっちが本場なのかしら。
「ゆえに、呪いの専門家である神仙術士殿にお越しいただいた」
と、なぜか胸を張る維さん。神仙術士は別に呪いの専門家じゃないですが? そういうのはどちらかというと呪術師の役割で……いや変な呪術師に頼むよりは私の方がマシですけど。
「…………」
「…………」
「…………」
胡散臭そうな目で私を見る学者たち。うん、分かるわ。私だって神仙術を学ぶ前だったら訝しんでいただろうし。この国には怪しげな道士やら医者やらが多すぎるのだ。
「……いいんですか?」
一応維さんに確認する私。
「逆にこちらが確認したいのですが。相談しておいて何ですが、凜風様に呪いが移る可能性もありますし」
「あ、その辺は大丈夫ですね。――心配してくれてありがとうございます」
維さんに微笑みかけてから私は患者がいるという部屋に入った。
「うぐぅ」
ん? 奇妙な声が? 部屋の中――ではなく私の背後から?
振り向くと、維さんが胸を押さえて下を向いていた。どうしました? 急病って感じじゃなさそうですけど? 診察します?
そんな維さんの隣でなぜか孫武さんは呆れ顔だ。
「弱っ。耐性なさ過ぎだろ……。あー、嬢ちゃん、コイツは平気だから、さっさと診てやってくれ」
「? はーい」
よく分からないけど、急病じゃないならいいか。
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