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秘書監
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「な、何のおもてなしもできませんが!」
恐縮しつつ蔵書楼内の長案(長机)に案内してくれる琳玲さん。いやぁ、貴族(蔡家)の娘さんで偉い役人なのだからそんな怖がらなくてもいいのに。私なんてただの平民ですよ平民。
とりあえず琳玲さんと向かい合うように着席すると、
「――さすが嬢ちゃん。最初に恐れさせて身分の壁を越えた上下関係をすり込むとはなぁ」
孫武さんが盛大な勘違いをしていた。私がそんな考えて行動しているわけがないのに。
私が孫武さんにジトッとした目を向けている間にも、琳玲さんはあわあわしていた。
「ま、まさかこのようなカビ臭いところに、未来の皇后陛下をお迎えするとは!」
誰が未来の皇后か。という指摘をしようと思ったけど……。もしかして私じゃなく維さんか孫武さんが皇后に選ばれる可能性も? 男同士……。大華国はともかく、欧羅はそっちも進んでいると聞くし……。
「ないない」
べしん、と頭を叩かれてしまった。孫武さんに。
「……まさか私の心を読みましたか? 孫武さんにもそんな力があったとは」
「口に出てたぜ」
「なんと、私としたことが」
私がごまかすように後頭部を掻いていると、
「こ、皇后陛下も『分かる』お方でしたか!」
うん? 分かるってなに?
「だ、大華国にはあまりそういう趣味は広まっていませんでしたが! 欧羅との交易でそういう本も入ってくるようになりましたし! 噂では大華国内でも作られ始めているとか!? さすがに宮廷にはありませんが、街では裏で取引されているそうで!」
「……あー」
アレか。
うん、アレか。
明言はしないけど、アレか。
私の実家も出版をしているからね。需要を把握するために本屋で色々な本を確かめているのよね。で、『お得意様』になると『そういう本』もオススメされるようになると。
…………。
……とりあえず。
「その話はまたあとで」
「そ、そうでした! ここには男性もいますからね!」
いや男性がいなくてもお喋りするつもりは……まぁいいか。話が進まなくなりそうだし。
とりあえず、『未来の皇后』という世迷い言は否定しておかないと。
「誰から聞いたか知らないですけど、私は皇后にはなりません。ただの許凜風です」
「こ、これは失礼しました! まだ内密なのですね!」
なんだか「分かってますよ私には」みたいな感じで頷く琳玲さんだった。うーん、お偉いさんじゃなければ瑾曦様直伝の指弾きをしているところだわ。
◇
なんだか琳玲さんから『同士』として見られている気がする。私ってそういう趣味はないのだけど。……まぁ、今の大華国においては「嫌悪感を抱かずに認める」というだけで懐くには十分なのかもしれないのかもね。
この面子の中では私が一番会話が通用しそうなので、私から本題を切り出すことにした。
「学者さんが一人、病で倒れまして」
「……それはもしや、『呪いの本』を読んでいた?」
「えぇ。名前は知りませんが、その方でしょう。なので、原因究明のために呪いの本を調べたいのですが」
「……職責がありますから、本を求めるならばご案内いたしましょう」
すっ、と真剣な目つきになった琳玲さんが立ち上がり、迷いなき様子で歩き始めた。付いて来いということなのでしょう。
先ほどまで曲げられていた背中はぴしっと伸び、足取りもどこか優雅さを感じられる。これで髪をちゃんと結い上げていれば有力貴族の娘に見える。かもしれない。
「――どうぞ、こちらになります」
琳玲さんが案内してくれたのは、蔵書楼の最奥。鍵の付いた扉の先にある小さな部屋だった。
扉以外の全ての壁には棚が備え付けられ、隙間なく本が詰め込まれている。床の上に本棚はなく、大きめの長机が置いてあるだけだけど、壁を全て本棚として使っているので中々の蔵書量だ。
「うわぁ……」
思わずげんなりとした声を上げてしまう私。なんか……こう……禍々しい『気』があちこちから漏れ出ていたのだ。
「嬢ちゃん、どうしたよ?」
「……いえ、この部屋、たぶん『本物』があるなー、っとですね」
「ほんもの?」
「えぇ。――本物の、呪いの本です」
しかも一つや二つではなく、たくさん。
「ほぉ、嬢ちゃんが言うならそうなんだろうがなぁ。俺にはカビ臭い本にしか見えないが……」
興味深そうな顔をした孫武さんが部屋の中に入ろうとして、
「――お止まりください。命が惜しければ」
铃とした声で孫武さんを止めたのは、意外なことに琳玲さん。先ほどまでのどもり声は影も形もない。
ははぁ、これが『秘書監』としての琳玲さんの姿か。なるほど年若いけど威厳たっぷりね。あの孫武さんが思わず立ち止まってしまうほど。
「こちらの部屋にありますのは歴代の皇帝陛下や蔡家の人間が収集しました『いわくつき』の本ばかりですので。覚悟があれば閲覧を許可しますが、あらゆる保証は致しかねます」
琳玲さんの意外な『圧』に押し負けたのか、一歩下がる孫武さんだった。
恐縮しつつ蔵書楼内の長案(長机)に案内してくれる琳玲さん。いやぁ、貴族(蔡家)の娘さんで偉い役人なのだからそんな怖がらなくてもいいのに。私なんてただの平民ですよ平民。
とりあえず琳玲さんと向かい合うように着席すると、
「――さすが嬢ちゃん。最初に恐れさせて身分の壁を越えた上下関係をすり込むとはなぁ」
孫武さんが盛大な勘違いをしていた。私がそんな考えて行動しているわけがないのに。
私が孫武さんにジトッとした目を向けている間にも、琳玲さんはあわあわしていた。
「ま、まさかこのようなカビ臭いところに、未来の皇后陛下をお迎えするとは!」
誰が未来の皇后か。という指摘をしようと思ったけど……。もしかして私じゃなく維さんか孫武さんが皇后に選ばれる可能性も? 男同士……。大華国はともかく、欧羅はそっちも進んでいると聞くし……。
「ないない」
べしん、と頭を叩かれてしまった。孫武さんに。
「……まさか私の心を読みましたか? 孫武さんにもそんな力があったとは」
「口に出てたぜ」
「なんと、私としたことが」
私がごまかすように後頭部を掻いていると、
「こ、皇后陛下も『分かる』お方でしたか!」
うん? 分かるってなに?
「だ、大華国にはあまりそういう趣味は広まっていませんでしたが! 欧羅との交易でそういう本も入ってくるようになりましたし! 噂では大華国内でも作られ始めているとか!? さすがに宮廷にはありませんが、街では裏で取引されているそうで!」
「……あー」
アレか。
うん、アレか。
明言はしないけど、アレか。
私の実家も出版をしているからね。需要を把握するために本屋で色々な本を確かめているのよね。で、『お得意様』になると『そういう本』もオススメされるようになると。
…………。
……とりあえず。
「その話はまたあとで」
「そ、そうでした! ここには男性もいますからね!」
いや男性がいなくてもお喋りするつもりは……まぁいいか。話が進まなくなりそうだし。
とりあえず、『未来の皇后』という世迷い言は否定しておかないと。
「誰から聞いたか知らないですけど、私は皇后にはなりません。ただの許凜風です」
「こ、これは失礼しました! まだ内密なのですね!」
なんだか「分かってますよ私には」みたいな感じで頷く琳玲さんだった。うーん、お偉いさんじゃなければ瑾曦様直伝の指弾きをしているところだわ。
◇
なんだか琳玲さんから『同士』として見られている気がする。私ってそういう趣味はないのだけど。……まぁ、今の大華国においては「嫌悪感を抱かずに認める」というだけで懐くには十分なのかもしれないのかもね。
この面子の中では私が一番会話が通用しそうなので、私から本題を切り出すことにした。
「学者さんが一人、病で倒れまして」
「……それはもしや、『呪いの本』を読んでいた?」
「えぇ。名前は知りませんが、その方でしょう。なので、原因究明のために呪いの本を調べたいのですが」
「……職責がありますから、本を求めるならばご案内いたしましょう」
すっ、と真剣な目つきになった琳玲さんが立ち上がり、迷いなき様子で歩き始めた。付いて来いということなのでしょう。
先ほどまで曲げられていた背中はぴしっと伸び、足取りもどこか優雅さを感じられる。これで髪をちゃんと結い上げていれば有力貴族の娘に見える。かもしれない。
「――どうぞ、こちらになります」
琳玲さんが案内してくれたのは、蔵書楼の最奥。鍵の付いた扉の先にある小さな部屋だった。
扉以外の全ての壁には棚が備え付けられ、隙間なく本が詰め込まれている。床の上に本棚はなく、大きめの長机が置いてあるだけだけど、壁を全て本棚として使っているので中々の蔵書量だ。
「うわぁ……」
思わずげんなりとした声を上げてしまう私。なんか……こう……禍々しい『気』があちこちから漏れ出ていたのだ。
「嬢ちゃん、どうしたよ?」
「……いえ、この部屋、たぶん『本物』があるなー、っとですね」
「ほんもの?」
「えぇ。――本物の、呪いの本です」
しかも一つや二つではなく、たくさん。
「ほぉ、嬢ちゃんが言うならそうなんだろうがなぁ。俺にはカビ臭い本にしか見えないが……」
興味深そうな顔をした孫武さんが部屋の中に入ろうとして、
「――お止まりください。命が惜しければ」
铃とした声で孫武さんを止めたのは、意外なことに琳玲さん。先ほどまでのどもり声は影も形もない。
ははぁ、これが『秘書監』としての琳玲さんの姿か。なるほど年若いけど威厳たっぷりね。あの孫武さんが思わず立ち止まってしまうほど。
「こちらの部屋にありますのは歴代の皇帝陛下や蔡家の人間が収集しました『いわくつき』の本ばかりですので。覚悟があれば閲覧を許可しますが、あらゆる保証は致しかねます」
琳玲さんの意外な『圧』に押し負けたのか、一歩下がる孫武さんだった。
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