勇者学校の指南役~私、魔王だけどいいのかしら?

九條葉月

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 公爵家の屋敷はこれまた豪勢だった。もう邸宅というよりお城と呼んだ方が相応しい感じ。

 すでに騎士団から連絡が行っていたのか、玄関前にはずらっと使用人たちが並び、一糸乱れぬ姿で頭を下げていた。貴族だ……。公爵令嬢だ……。すっげぇ……。

「お嬢様、ご無事で何よりでございます」

 シンシアちゃんが馬車から降りると、執事服を着た老齢の男性が柔らかく微笑んだ。深く刻まれた皺と、整えられた口ひげが何ともダンディだ。

「セバス。すでに使い魔で伝えたとおり、こちらはハイエルフのエリカフィアーネ様です。わたくしの命を三度も救っていただきました。それ相応のもてなしをするように」

「御意にございます」

 おぉ、シンシアちゃんがお嬢様だ。公爵令嬢をやっている。ギャップ萌え……。おっとあぶない。だらしない顔をするところだった。せっかくハイエルフになったんだからもっと『大人のおねーさん』を目指さないとね。

 そんなことを考えていたら、シンシアちゃんが手を差し出してきたのでエスコートされる形で馬車を降りる。

 にっこりと。上品に微笑みかけてくるシンシアちゃん。

「エリカ。まずは客室にご案内します。そのあとは湯浴みなどいかがでしょう?」

「え? あ、はい。よろしくお願いいたします?」

 まだお嬢様モードなシンシアちゃんに戸惑ってしまう私だった。

 シンシアちゃんは満足そうに頷いてから私を客室に案内してくれようとする。そんな彼女の様子を見て、執事であるというセバスさんが割り込んできた。

「お嬢様。ご案内は我々がいたしますので……」

 公爵令嬢が使用人みたいなことをするな、と言いたいらしい。

「――セバス。わたくしの命を救ってくださった恩人の案内を、使用人に任せろというのですか?」

「い、いえ……出過ぎた真似をいたしました」

 あっさりと引き下がるセバスさんだった。もしかしてお嬢様モードのシンシアちゃんっていつもこんな感じとか?

「では、まいりましょうエリカ様」

 柔らかく微笑んでからシンシアちゃんは私の手を取った。誰にも邪魔はさせないとばかりに。

 お嬢様モードであるせいか、その笑顔はどこか妖艶なものに感じられた。


                ◇


「おー」

 なんか商都に来てから「おー」とばかり口にしているなと思いつつ、実際「おー」という感想なのだからしょうがない。庶民のボキャブラリーを舐めないでいただきたい。

 シンシアちゃんが案内してくれた客室は、広かった。前世で言うところの学校の教室くらい? 内装としてはテレビで見たことがあるヨーロッパの宮殿って感じだった。

 シャンデリアは『そこまでデカくなくてもいいだろう』ってほどの大きさだし、もしかしたら金を使っているんじゃないかってほど煌びやかな装飾具の数々。レース編みのカーテンに、いかにも『貴族!』ってドレスを着た貴婦人を描いた肖像画……。

「……あれ? ベッドがないのね?」

 客室なのだからベッドもあるべきじゃないの?

「こちらです」

 シンシアちゃんが部屋を縦断し、左の壁に備え付けられたドアに向かう。そう、部屋の中にさらに扉があるのだ。装飾からしてクローゼットとかでもなさそうな。

 シンシアちゃんが扉を開けると、そこにはまた教室くらいの広さがある部屋があった。正面壁際には大人が5~6人横になれそうなほど巨大なベッドが鎮座している。

「え? 一人でこの部屋を使うの?」

「お寂しいようなら一緒に寝てもいいですよ?」

 と、少し冗談めかして口にするシンシアちゃん。

「ぜひ」

 と、シンシアちゃんの手を取りながら即答する私。そう、私は社交辞令など許さない女なのだ。

「え、エリカ様……」

 私の返事が予想外だったのか頬を赤く染めるシンシアちゃん。……これは、いけるのでは? いやどこにどれだけいけるのかは分からないけど、いけいけいけると魂が叫んでいるのだ。

 こういうときの雰囲気に相応しく、余裕たっぷりな大人のお姉さんっぽい笑みを浮かべる私。

「それと、いつまで私のことを『エリカ様』って呼んでいるのかしら?」

「す、すみません……。使用人の前では示しが付きませんので」

「でも、今は使用人なんていないわよね?」

「え、エリカさん……」

 熱っぽい目でお互いを見つめ合う私とシンシアちゃん。わー、美少女ー。まつげ長ーい。近くで凝視するとマジで綺麗ー。

 自然な流れで顔を近づけていく私とシンシアちゃん。そして――

『――私を「使用人」扱いしないのは喜ばしいですが。そろそろよろしいでしょうか?』

 わざとらしい咳払いをするティナだった。うん、屋敷に到着してから黙ってメイドプレイをしていたから目立たなかったけど、ずっと後ろにいたんだよね。

 てーい、と。私たちが握り合った手を手刀で剥がしてから、私を抱き寄せるようにしてシンシアちゃんから距離を取らせるティナ。……なんだか二人が睨み合っているような?

「シンシア様。エリカ様の添い寝役は私がおりますので大丈夫です。どうぞ自室で一人寂しい夜をお過ごしください」

 え? 添い寝してくれるの? あの辛辣なティナが? まさかのデレ? デレ期到来?

「……このベッドは三人くらい余裕で眠れますけど?」

 おっと、とんでもない発言をしてくるシンシアちゃんだった。これは――来たわね? 伝説に謳われる、モテ期というものが! ……まぁ男性相手じゃなくて女性というのが私らしいというか何というか。

 これは、いける! 具体的にどこまでいっていいかは分からないけど! いけるいけると魂が叫んでいるのだ!

「分かったわ――三人一緒に寝ましょう!」

 ジーニアスでサステナボーな解決方法を提案する私だった。鼻息をハァハァハスハスさせながら。

『…………』

「…………」

『……シンシア様。エリカ様は一人でお休みになるようなので』

「そうですか、残念ですが仕方ないですね」

 ささっと距離を取る二人だった。え、えぇー? こっちから押すと引いちゃうの? このゲーム、難しくない?

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