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翌日。
フレヤちゃんの体調も問題なさそうなので、私たちは甲冑の修理を依頼するため商都の大通りを歩いていた。この辺りにシンシアちゃんやフレヤちゃんがよく使う武器屋があるらしい。
ちなみに甲冑を持ち歩くのは大変なので、私の空間収納に収納しての移動となる。
「甲冑まで入るなんて凄い収納力ですねー」
「えぇ、さすがお姉様です」
『ふふふ、二人とも。エリカ様の力はまだまだこんなものではありませんよ?』
感心した様子のシンシアちゃんとフレヤちゃん、そしてなぜか自慢げなティナだった。
そんな雑談をしながらしばらく歩いていると、シンシアちゃんは大通りから脇道に入った。
薄暗く、掃除もされていない、いかにもやばそうな雰囲気が漂っている脇道。しかしシンシアちゃんは迷うことなく進んでいくので道を間違えたわけではなさそうだ。
「おっ」
路地裏の先に、なにやら怪しげなお店を発見。その名もずばり『装備屋』と看板に記されている。……まったく理解できない文字であるはずなのに読めてしまうのはやはり不思議な感覚だ。
看板がなければ廃墟と思っていたはずだ。窓には古ぼけた木の板が打ち付けてあるし、壁のレンガは経年劣化によって所々が欠けている。さらには店の前や周辺の道は掃除されることなく、空の木箱や古ぼけた布などのゴミが散乱しているからだ。
「親父さーん。こんにちはー!」
「失礼します」
元気いっぱいな挨拶をしながら装備屋さんに入っていくシンシアちゃんとフレヤちゃん。正直、こんな怪しげな店には入りたくないのだけど、二人が入店してしまったのだから回れ右するわけにもいかない。
「……おじゃましまーす」
『エリカ様。もっと堂々としてください。いつものように「ふはは! 我が覇道を邪魔するヤツは消し炭にしてくれる!」みたいな態度で』
「いつもそんな態度じゃありませんが!?」
『自覚無しですか。さすがでございます』
「ティナは私をなんだと思っているのか……」
ティナとそんなやり取りをしていると、
「――おうエルフ共。儂の店で騒ぐんじゃねぇ」
いかにも不機嫌そうな声が掛けられた。
視線を向けると、そこにいたのは髭面の男性だった。
身長は低い。
最初はカウンターの後ろで椅子に座っていると思ったのだけど、どうやら普通に立っているらしい。
ともすれば子供と思えるような身長だというのに、反比例するように筋肉は盛り上がっている。
低い身長。ガッシリとした身体。そしてなにより顔の下半分を追い隠すほどの髭。
――ドワーフ、だろうか?
ファンタジー世界によく出てくる種族で、多くの場合は鍛冶や物作りを得意としていて、酒を何よりも愛する種族だ。あと、これは物語にもよるけれど――
「なんだ間抜け面をしやがって。ったく、これだからエルフは嫌なんだ。自分のトロさを『余裕がある』だなんて言い訳して」
――エルフが嫌い、っと。
『あ゛? 今、エリカ様をトロいと言いました?』
なんかもうそのままぶん殴りそうな勢いでドワーフに近づいていくティナ。
「ストップストップストーップ! いいからいいから! ドワーフってこんな感じだから!」
ティナのエプロンの紐を掴んで止める私だった。ぬぉおお凄い力!? ズルズルと引きずられるんですけど!?
シンシアちゃんとフレヤちゃんも間に入ってくれ、やっと止まるティナ。そんな私たちを見て「ふっ」とわずかに目元を緩めるドワーフさん。髭に隠れてよく分からないけど、口元が見えればたぶん笑っているのだと思う。
「ドワーフとエルフのケンカを止めようとするとは、中々面白い嬢ちゃんじゃねぇか」
そのまま私の耳を見つめてくるドワーフさん。ハイエルフの耳ってエルフより長いからすぐ分かるんだっけ?
「……ハイエルフか。エルフよりは話が分かりそうだな」
よっこいしょ、とばかりに椅子に腰掛けるドワーフさん。
「シンシアの嬢ちゃんが連れてきたなら、まぁ悪人じゃねぇだろう。――俺はハイドワーフのドワン。よろしくな、ハイエルフの嬢ちゃん」
「よろしく。エリカフィアーネよ。……ハイドワーフって、ドワーフの祖で上位種族の?」
夢幻のアレクサンドリアでは多くの種族・亜人が出てくるけど、その中でも始祖とか上位種と呼べる存在には『ハイ』がつくことがあるのよね。ハイエルフとかハイドワーフみたいな感じで。
まぁ吸血鬼だと『始祖』って呼ばれ方だし、そこら辺の使い分けはかなりテキトーなんだけどね。
「さすが、よく知っているじゃねぇか。説明が面倒だから普段はただのドワーフと名乗っているがな」
「それいいわね、私もそうしようかしら」
なーんか私が思っているより『ハイエルフ』ってとんでもない存在みたいだし。
ナイスアイデアだと思ったのだけど、ドワンさんは呆れたように鼻を鳴らしてから自らの耳へと手を伸ばし、横へ引っ張った。
「嬢ちゃんは耳が明らかに違うからな。それも難しいだろ。しかも普通のエルフが横にいるし」
「あー、それもそうねぇ。ティナが比較対象になっちゃうのか……」
「諦めるんだな。で? 今日はどんな用事だ? わざわざハイエルフが足を運ぶからには専用武器目当て――じゃ、なさそうだな。ずいぶんと良い武器を持っているようだし」
私の手を見ながらニヤリと笑うドワンさんだった。たぶん操糸手袋の性能を見抜いたのだと思う。この世界、いつバトル展開になるか分からないから常に嵌めているのよね。
「この武器の良さ、分かるの?」
「おいおい、誰に向かって口をきいてるんだ? ――古代神話級。これならあらゆるものを切り裂けるだろうが、ハイエルフでもなければとても扱えない武器だ。この俺でもレジェンド級を目にするのはいつ以来だか」
やっぱり『LR』とはレジェンドレアという意味だったらしい。と、私が今さらながらに納得していると、
「あらゆるものを切り裂く……ふへぇ、ブラッディベアを輪切りにしたのはこれでしたか」
「古代神話級……まさしく伝説の存在ですね」
キラキラした目で操糸手袋を見つめるシンシアちゃんとフレヤちゃんだった。なんか、ガチャで当てただけなのでちょっと罪悪感があるわね……。まだまだ扱いきれてないし……。
私とすれば操糸手袋があれば剣なんて要らないと思う。
でも、他の人はそう考えないみたいだった。
「凄い武器なのでしょうけど、おねーさんも剣くらい持っていた方がいいのでは?」
と、自分が腰に下げた剣に触れながら提案してくるシンシアちゃんだった。
続いてフレヤちゃんも首肯する。
「そうですね。面倒ごとを避ける意味でも、目に見える形で剣を佩いていたほうがいいかもしれません。武器を持っているかいないかでだいぶ違ってきますから」
この世界ではそういう感じが『常識』らしい。剣を持ってないと狙われるレベルの治安の悪さかぁ……。確かにケンカを売ってくる人間を次々に輪切りにするわけにもいかないし。
「じゃあドワンさん。安い剣でいいので見繕ってもらえないかしら?」
「おいおい、嬢ちゃんの基礎能力で安物の剣が耐えられるわけがないだろうが。一振りしただけでぶっ壊れるぜ」
「あー」
「あー」
フレヤちゃんへの一撃を思い出したのか、納得の声を上げるシンシアちゃんとフレヤちゃんだった。ゴリラ扱いされてちょっと泣きそう。
「で、でも実際に使うわけじゃないから普通の剣でいいんだけど? あくまで警告用だし」
「この儂に、客が使えない剣を売れと言うのか?」
「…………」
うわぁ、めんどくさ。という本音はギリギリの見込んだ私だった。おっとな~。
「では、なにかテキトーに見繕ってくれるかしら?」
「テキトーだぁ?」
「……適当に頑丈なものをですね」
「おう、任せろ。普通の人間じゃあ扱えないもんを作ってやるよ」
「わーい」
もはや棒読みの私であった。なんかメッチャお高くなりそう……。私、剣とか興味ないんだけど……。完全に無駄遣い……。武器なら操糸手袋があるのに……。
あ、そうだ。お高くなりそうと言えば。
「今日は鎧の修理をお願いに来たのよ」
「鎧だぁ? 嬢ちゃんには必要ないだろ」
「まぁ必要ないけど。実は模擬戦中にフレヤちゃんの鎧をヘコましちゃってねぇ」
「……マジかよ。あの鎧、物理防御力上昇効果があるんだが……ちょっと見せてみろ」
「はーい」
空間収納から取りだした鎧をカウンターの上に置くと、ドワンさんは頭が痛いのか額に手をやってしまった。風邪でも引きました?
「……嬢ちゃんよぉ、これはヘコましたじゃなくて、ぶっ壊したと言うんだ」
「えー? それほどじゃないでしょう? 原形留めてるし」
「こんなヘコみ方は原形留めてるって言わねぇんだよ。しかも鎧を固定する魔錠まで壊されてるし……ったく、これは高く付くぜ?」
「まじょー?」
「なんだ知らねぇのか? ……あぁ、エルフたちは鍵の代わりに空間を固定しちまうって話だものな。鍵なんて要らねぇのか」
「そうねぇ」
え? エルフってそんなことができるの? と驚きつつも表面上は平然と頷いておく私だった。これが処世術ってものである。
(ただ単に腹が黒くて平気で嘘をついて人を騙すことに罪悪感がないだけでは?)
わざわざ念話でツッコミしてきてくれるティナだった。いやこれツッコミか? ただの誹謗中傷では? まぁ可愛いから許すけど。
それはとにかく、こっちの世界の鎧は敵に外されないよう固定具に魔法の鍵を使うのが普通だそうだ。私があのとき壊した金具、ただの蝶番じゃなくて魔錠だったらしい。
「そんなに高いものなの?」
「そうだなぁ。鎧に使う形状は特殊だから儂が手作りせんと……1つ5万、全部で30万ってことか」
「わぁ」
あのオオカミとクマの素材を売ったお金が吹き飛ぶでござる。
「それで? 鎧本来の修理費は?」
「50万ってところだな」
「……高くない?」
「高くねぇ。ここまで大きくヘコんでいると板金で少しずつ直さねぇといけねぇし」
板金、というのはヘコんだ鉄板を金槌で後ろから叩いて元に戻す手法だっけ? 昔は車をぶつけてヘコませたときに板金で直していたのだとか。
「鎧の裏側には物理防御力上昇の魔法陣が描かれているから、これを消さないように金槌を振るわなきゃいけねぇ。しかも鎧の表面には彫刻も施されていて、これも直さなきゃだからな。儂以外に任せたら数倍は請求されるぞ?」
「ふへぇ」
すごいせかいだ。私が乾いた笑みを浮かべていると、遠慮がちに服の裾が引っ張られた。鎧の持ち主、フレヤちゃんだ。
「あの、お姉様。さすがにそんな修理費を出していただくわけには……」
「ふっ、大丈夫よ私はお金持ちなのだから。それに私が壊しちゃったのだからね」
「でも……」
まだ納得し切れていない彼女の頬にそっと手を添える。
「それに、私がフレヤちゃんのためにしてあげたいの。それじゃダメかしら?」
「お姉様……」
どこか熱っぽい目で私を見つめてくるフレヤちゃん。うーん美少女。私が見上げる形だけど、美少女から見下ろされるのもこれはこれで。
「けっ」
「へっ」
美少女らしからぬ悪態(?)をつくティナとシンシアちゃんだった。今私の推しが『けっ』とか言いました?
「イチャイチャしている暇があったら支払いをしてくれんか」
げんなりとした顔をするガルスさんだった。こんな美少女&美少女がイチャイチャしているというのに何がご不満だというのか。
ま、ここはフレヤちゃんにさらなる反対をされる前に支払ってしまいましょう。というわけで空間収納から30万+50万をカウンターの上に落とす私だった。
よく考えるとこれで無一文になったわけだけど……まぁいいか。シンシアちゃんの家に泊まるから宿泊代と食事代はタダだし。もし請求されるにしても、それまでに何かクエストをクリアするかブラッディベアでも狩ればいいだけだもの。
フレヤちゃんの体調も問題なさそうなので、私たちは甲冑の修理を依頼するため商都の大通りを歩いていた。この辺りにシンシアちゃんやフレヤちゃんがよく使う武器屋があるらしい。
ちなみに甲冑を持ち歩くのは大変なので、私の空間収納に収納しての移動となる。
「甲冑まで入るなんて凄い収納力ですねー」
「えぇ、さすがお姉様です」
『ふふふ、二人とも。エリカ様の力はまだまだこんなものではありませんよ?』
感心した様子のシンシアちゃんとフレヤちゃん、そしてなぜか自慢げなティナだった。
そんな雑談をしながらしばらく歩いていると、シンシアちゃんは大通りから脇道に入った。
薄暗く、掃除もされていない、いかにもやばそうな雰囲気が漂っている脇道。しかしシンシアちゃんは迷うことなく進んでいくので道を間違えたわけではなさそうだ。
「おっ」
路地裏の先に、なにやら怪しげなお店を発見。その名もずばり『装備屋』と看板に記されている。……まったく理解できない文字であるはずなのに読めてしまうのはやはり不思議な感覚だ。
看板がなければ廃墟と思っていたはずだ。窓には古ぼけた木の板が打ち付けてあるし、壁のレンガは経年劣化によって所々が欠けている。さらには店の前や周辺の道は掃除されることなく、空の木箱や古ぼけた布などのゴミが散乱しているからだ。
「親父さーん。こんにちはー!」
「失礼します」
元気いっぱいな挨拶をしながら装備屋さんに入っていくシンシアちゃんとフレヤちゃん。正直、こんな怪しげな店には入りたくないのだけど、二人が入店してしまったのだから回れ右するわけにもいかない。
「……おじゃましまーす」
『エリカ様。もっと堂々としてください。いつものように「ふはは! 我が覇道を邪魔するヤツは消し炭にしてくれる!」みたいな態度で』
「いつもそんな態度じゃありませんが!?」
『自覚無しですか。さすがでございます』
「ティナは私をなんだと思っているのか……」
ティナとそんなやり取りをしていると、
「――おうエルフ共。儂の店で騒ぐんじゃねぇ」
いかにも不機嫌そうな声が掛けられた。
視線を向けると、そこにいたのは髭面の男性だった。
身長は低い。
最初はカウンターの後ろで椅子に座っていると思ったのだけど、どうやら普通に立っているらしい。
ともすれば子供と思えるような身長だというのに、反比例するように筋肉は盛り上がっている。
低い身長。ガッシリとした身体。そしてなにより顔の下半分を追い隠すほどの髭。
――ドワーフ、だろうか?
ファンタジー世界によく出てくる種族で、多くの場合は鍛冶や物作りを得意としていて、酒を何よりも愛する種族だ。あと、これは物語にもよるけれど――
「なんだ間抜け面をしやがって。ったく、これだからエルフは嫌なんだ。自分のトロさを『余裕がある』だなんて言い訳して」
――エルフが嫌い、っと。
『あ゛? 今、エリカ様をトロいと言いました?』
なんかもうそのままぶん殴りそうな勢いでドワーフに近づいていくティナ。
「ストップストップストーップ! いいからいいから! ドワーフってこんな感じだから!」
ティナのエプロンの紐を掴んで止める私だった。ぬぉおお凄い力!? ズルズルと引きずられるんですけど!?
シンシアちゃんとフレヤちゃんも間に入ってくれ、やっと止まるティナ。そんな私たちを見て「ふっ」とわずかに目元を緩めるドワーフさん。髭に隠れてよく分からないけど、口元が見えればたぶん笑っているのだと思う。
「ドワーフとエルフのケンカを止めようとするとは、中々面白い嬢ちゃんじゃねぇか」
そのまま私の耳を見つめてくるドワーフさん。ハイエルフの耳ってエルフより長いからすぐ分かるんだっけ?
「……ハイエルフか。エルフよりは話が分かりそうだな」
よっこいしょ、とばかりに椅子に腰掛けるドワーフさん。
「シンシアの嬢ちゃんが連れてきたなら、まぁ悪人じゃねぇだろう。――俺はハイドワーフのドワン。よろしくな、ハイエルフの嬢ちゃん」
「よろしく。エリカフィアーネよ。……ハイドワーフって、ドワーフの祖で上位種族の?」
夢幻のアレクサンドリアでは多くの種族・亜人が出てくるけど、その中でも始祖とか上位種と呼べる存在には『ハイ』がつくことがあるのよね。ハイエルフとかハイドワーフみたいな感じで。
まぁ吸血鬼だと『始祖』って呼ばれ方だし、そこら辺の使い分けはかなりテキトーなんだけどね。
「さすが、よく知っているじゃねぇか。説明が面倒だから普段はただのドワーフと名乗っているがな」
「それいいわね、私もそうしようかしら」
なーんか私が思っているより『ハイエルフ』ってとんでもない存在みたいだし。
ナイスアイデアだと思ったのだけど、ドワンさんは呆れたように鼻を鳴らしてから自らの耳へと手を伸ばし、横へ引っ張った。
「嬢ちゃんは耳が明らかに違うからな。それも難しいだろ。しかも普通のエルフが横にいるし」
「あー、それもそうねぇ。ティナが比較対象になっちゃうのか……」
「諦めるんだな。で? 今日はどんな用事だ? わざわざハイエルフが足を運ぶからには専用武器目当て――じゃ、なさそうだな。ずいぶんと良い武器を持っているようだし」
私の手を見ながらニヤリと笑うドワンさんだった。たぶん操糸手袋の性能を見抜いたのだと思う。この世界、いつバトル展開になるか分からないから常に嵌めているのよね。
「この武器の良さ、分かるの?」
「おいおい、誰に向かって口をきいてるんだ? ――古代神話級。これならあらゆるものを切り裂けるだろうが、ハイエルフでもなければとても扱えない武器だ。この俺でもレジェンド級を目にするのはいつ以来だか」
やっぱり『LR』とはレジェンドレアという意味だったらしい。と、私が今さらながらに納得していると、
「あらゆるものを切り裂く……ふへぇ、ブラッディベアを輪切りにしたのはこれでしたか」
「古代神話級……まさしく伝説の存在ですね」
キラキラした目で操糸手袋を見つめるシンシアちゃんとフレヤちゃんだった。なんか、ガチャで当てただけなのでちょっと罪悪感があるわね……。まだまだ扱いきれてないし……。
私とすれば操糸手袋があれば剣なんて要らないと思う。
でも、他の人はそう考えないみたいだった。
「凄い武器なのでしょうけど、おねーさんも剣くらい持っていた方がいいのでは?」
と、自分が腰に下げた剣に触れながら提案してくるシンシアちゃんだった。
続いてフレヤちゃんも首肯する。
「そうですね。面倒ごとを避ける意味でも、目に見える形で剣を佩いていたほうがいいかもしれません。武器を持っているかいないかでだいぶ違ってきますから」
この世界ではそういう感じが『常識』らしい。剣を持ってないと狙われるレベルの治安の悪さかぁ……。確かにケンカを売ってくる人間を次々に輪切りにするわけにもいかないし。
「じゃあドワンさん。安い剣でいいので見繕ってもらえないかしら?」
「おいおい、嬢ちゃんの基礎能力で安物の剣が耐えられるわけがないだろうが。一振りしただけでぶっ壊れるぜ」
「あー」
「あー」
フレヤちゃんへの一撃を思い出したのか、納得の声を上げるシンシアちゃんとフレヤちゃんだった。ゴリラ扱いされてちょっと泣きそう。
「で、でも実際に使うわけじゃないから普通の剣でいいんだけど? あくまで警告用だし」
「この儂に、客が使えない剣を売れと言うのか?」
「…………」
うわぁ、めんどくさ。という本音はギリギリの見込んだ私だった。おっとな~。
「では、なにかテキトーに見繕ってくれるかしら?」
「テキトーだぁ?」
「……適当に頑丈なものをですね」
「おう、任せろ。普通の人間じゃあ扱えないもんを作ってやるよ」
「わーい」
もはや棒読みの私であった。なんかメッチャお高くなりそう……。私、剣とか興味ないんだけど……。完全に無駄遣い……。武器なら操糸手袋があるのに……。
あ、そうだ。お高くなりそうと言えば。
「今日は鎧の修理をお願いに来たのよ」
「鎧だぁ? 嬢ちゃんには必要ないだろ」
「まぁ必要ないけど。実は模擬戦中にフレヤちゃんの鎧をヘコましちゃってねぇ」
「……マジかよ。あの鎧、物理防御力上昇効果があるんだが……ちょっと見せてみろ」
「はーい」
空間収納から取りだした鎧をカウンターの上に置くと、ドワンさんは頭が痛いのか額に手をやってしまった。風邪でも引きました?
「……嬢ちゃんよぉ、これはヘコましたじゃなくて、ぶっ壊したと言うんだ」
「えー? それほどじゃないでしょう? 原形留めてるし」
「こんなヘコみ方は原形留めてるって言わねぇんだよ。しかも鎧を固定する魔錠まで壊されてるし……ったく、これは高く付くぜ?」
「まじょー?」
「なんだ知らねぇのか? ……あぁ、エルフたちは鍵の代わりに空間を固定しちまうって話だものな。鍵なんて要らねぇのか」
「そうねぇ」
え? エルフってそんなことができるの? と驚きつつも表面上は平然と頷いておく私だった。これが処世術ってものである。
(ただ単に腹が黒くて平気で嘘をついて人を騙すことに罪悪感がないだけでは?)
わざわざ念話でツッコミしてきてくれるティナだった。いやこれツッコミか? ただの誹謗中傷では? まぁ可愛いから許すけど。
それはとにかく、こっちの世界の鎧は敵に外されないよう固定具に魔法の鍵を使うのが普通だそうだ。私があのとき壊した金具、ただの蝶番じゃなくて魔錠だったらしい。
「そんなに高いものなの?」
「そうだなぁ。鎧に使う形状は特殊だから儂が手作りせんと……1つ5万、全部で30万ってことか」
「わぁ」
あのオオカミとクマの素材を売ったお金が吹き飛ぶでござる。
「それで? 鎧本来の修理費は?」
「50万ってところだな」
「……高くない?」
「高くねぇ。ここまで大きくヘコんでいると板金で少しずつ直さねぇといけねぇし」
板金、というのはヘコんだ鉄板を金槌で後ろから叩いて元に戻す手法だっけ? 昔は車をぶつけてヘコませたときに板金で直していたのだとか。
「鎧の裏側には物理防御力上昇の魔法陣が描かれているから、これを消さないように金槌を振るわなきゃいけねぇ。しかも鎧の表面には彫刻も施されていて、これも直さなきゃだからな。儂以外に任せたら数倍は請求されるぞ?」
「ふへぇ」
すごいせかいだ。私が乾いた笑みを浮かべていると、遠慮がちに服の裾が引っ張られた。鎧の持ち主、フレヤちゃんだ。
「あの、お姉様。さすがにそんな修理費を出していただくわけには……」
「ふっ、大丈夫よ私はお金持ちなのだから。それに私が壊しちゃったのだからね」
「でも……」
まだ納得し切れていない彼女の頬にそっと手を添える。
「それに、私がフレヤちゃんのためにしてあげたいの。それじゃダメかしら?」
「お姉様……」
どこか熱っぽい目で私を見つめてくるフレヤちゃん。うーん美少女。私が見上げる形だけど、美少女から見下ろされるのもこれはこれで。
「けっ」
「へっ」
美少女らしからぬ悪態(?)をつくティナとシンシアちゃんだった。今私の推しが『けっ』とか言いました?
「イチャイチャしている暇があったら支払いをしてくれんか」
げんなりとした顔をするガルスさんだった。こんな美少女&美少女がイチャイチャしているというのに何がご不満だというのか。
ま、ここはフレヤちゃんにさらなる反対をされる前に支払ってしまいましょう。というわけで空間収納から30万+50万をカウンターの上に落とす私だった。
よく考えるとこれで無一文になったわけだけど……まぁいいか。シンシアちゃんの家に泊まるから宿泊代と食事代はタダだし。もし請求されるにしても、それまでに何かクエストをクリアするかブラッディベアでも狩ればいいだけだもの。
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