勇者学校の指南役~私、魔王だけどいいのかしら?

九條葉月

文字の大きさ
35 / 38

35

しおりを挟む

「――あれ? 私は確か……」

 ベッドの上で意識を取り戻したシンシアはまず今の状況を再確認した。エリカの特訓によって散々酷い目に遭ったあと、おそらくは意識を失ったのだろうと。

 周囲を見渡すシンシア。どうやら訓練場の治療室のようだが、エリカの姿はなかった。

「えーっと」

 こういうときはメイドが一人くらい控えているはずなのだが、どうやらいないようだ。

 というわけで、まず隣のベッドに寝かされているフレヤの元に歩み寄るシンシア。

「フレヤちゃん、無事ですか?」

「……う、ここは……?」

 シンシアの声かけで目覚めたらしいフレヤが治療室を見渡す。

「私は確か、お姉様の特訓で……お姉様は?」

「いないみたいですね」

「……私たちが弱すぎたせいで失望させてしまったでしょうか?」

「いやぁ、たぶん大丈夫じゃないですか?」

 不安そうなフレヤに対して、さほど心配していないシンシアだ。上手く言えないが、おねーさんなら見捨てないという確信があるからこそ。

 フレヤが大丈夫そうならエリカを探しに行こうかとシンシアが考えていると、治療室のドアが開けられた。

「――お嬢様。お目覚めになりましたか」

 部屋に入ってきたのは公爵家のメイド。お湯の入ったタライとタオルを手にしているので、シンシアたちが目覚めそうだから顔を拭くためのお湯を持ちにいったのだろう。

「メイさん。おねーさん――いえ、エリカフィアーネ様はどちらへ?」

 シンシアが問いかけると、メイと呼ばれたメイドは深刻そうな表情を作り、深々と頭を下げた。

「エリカフィアーネ様は森へと向かわれました」

「森へ? なんでまた?」

「なんでも、緊急事態だそうでして」

「緊急事態!? じゃあ私たちも――」

「いえ、お待ちください。エリカフィアーネ様より御二方へ伝言がございます」

「伝言?」

「はい。――後は任せた、と」

「あとは、まかせた……? いったいどういうことでしょう?」

「自分程度にエリカフィアーネ様の深遠なるお考えを理解できるはずがありません。ですが、エリカフィアーネ様が後を任されたのですから、この場、あるいはこの街で『何か』があるのかと」

 そんな推測をするメイであるが、もちろんエリカがそこまで考えているはずもない。ただ訓練場の穴ぼこや壁の焼け焦げた後を何とかして欲しいと頼んだだけだ。

 しかしメイも、そしてシンシアもエリカの言葉を重く受け止めた。

「……とりあえず、装備の確認を。そのあとは騎士団長に相談ですね」

「すでに公爵閣下と騎士団長には報告を上げてあります」

「さすがの手際ですね。では――」

 シンシアが部屋の隅に置かれていた愛用の剣を手にしたところで、建物内に破壊音が響いてきた。

 エリカの言葉と、破壊音が一つに繋がるシンシア。

「フレアちゃん!」

「はい!」

 まずはシンシアが部屋から飛び出し、フレヤもエリカから譲り受けた専用装備『大剣フレアグス』を握って後を追う。

 破壊音は建物の地下から聞こえた。
 騎士団本部の地下には取調室や牢獄があり――現在は、シンシアたちを襲った冒険者たちが収容され、取り調べを受けているはずだ。

 まさか、とシンシアは思い至る。急に訓練をはじめると言い出したエリカ。それはこの展開を予測していたからではないのかと。騎士団本部に隣接した訓練場と、本部地下に収容された冒険者たち。そしてエリカの『後は任せた』という意味深な発言……。すべて、すべてエリカの思惑通りなのではないかと。

 もちろんそんなはずはない。あのエリカがそこまで考えているわけがないし、そもそも騎士団の訓練場を使おうと提案したのはシンシアなのだから。

 しかし、もはやエリカに対して一種の信仰心すら抱いているシンシアは疑うことなくその仮説を事実として受け入れたのだった。

 もはやことあるごとに『おねーさん凄い!』という想いを強めていくシンシアはフレヤと共に地下への階段を目指すが、その足は途中で止まる。騎士たちが剣を抜いて警戒態勢を取っていたからだ。破壊音は途絶えているので緊迫した状況ではなさそうだが……。

 と、足を止めたシンシアたちにヒゲ面の男が気づいた。公爵家の騎士団長を勤める男だ。

「お嬢様! 危険です! お下がりください!」

「構いません。エリカフィアーネ様案件です」

 駆け寄ってきた騎士団長にシンシアが断言すると、騎士団長は驚きで目を見開いた。

「エリカフィアーネ様の!? では、もしや」

「えぇ、エリカフィアーネ様はこの状況を見越して私とフレヤちゃんを騎士団本部に連れてきたのでしょう。……地下で一体何が?」

「はっ、捕らえた男たちにウロボ――いえ、組織に関する尋問をしていたのですが……」

「組織? 一体何のことです?」

「それは……エリカフィアーネ様案件でして」

「またしてもおねーさんが……」

「はい。しかし賊の一人がケガを原因とした熱を出してしまいまして。競技の結果足を繋げてやることにしたのです」

 いくら回復魔法がある世界とはいえ、時間が経ってしまっては足を繋げるのは難しくなるはずだ。が、それを実現できるのだから公爵家の回復術士は優秀なのだろう。

 騎士団長の返答にシンシアが僅かに眉を動かした。

「いくら熱を出したからと言って、賊の足を繋げてやるとはずいぶんと優しいではないですか。治癒術士の負担も大きいでしょう?」

「それもそうなのですが……傷口は驚くほど綺麗に切断されておりまして。これは治癒術士にとっても足を繋げるいい訓練になると思ったのです」

「なるほど。賊の足を繋げて、その後はどうなったのです? 拘束はしたままだったのでしょう?」

「はい。物理的にも魔術的にも拘束をしていたのですが……なんと申しましょうか。賊の肉体が急激に盛り上がり・・・・・まして。繋げたばかりの足を中心に、一回りも二回りも巨大化したのです」

「巨大化?」

 魔法を使えば大抵のことは実現できそうなイメージがあるが、それはあくまで魔法のことをよく知らない一般庶民の認識だ。魔法のことを知れば知るほど、できることとできないことの差は明確に認識できるようになる。

 そして、人の身体を一回りも二回りも大きくすることなど、魔法を使ってもできるはずが――

『――おぉおおぉおおおおっ!』

 人のものとは思えない。
 だが、人のものとしか思えない。そんな絶叫が建物内に響き渡った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!

naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。 そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。 シオンの受難は続く。 ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。 あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。

処理中です...