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04.ひじり
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「大丈夫だったかい?」
社務所から出ると秀一が心配そうに近づいてきた。中に入って無事を確認しなかったのは、僕があの老人と話し込んでいるのを邪魔しないように、だろうか?
妙な老人はいたけれど、例の悪魔とやらは見つかりそうもない。そろそろ帰るかという雰囲気になってきたところで――
「――あ、ししょー。社務所の扉が開けっ放しじゃないですか」
伶桜が軽い足取りで社務所に向かう。あれ? 出るときに閉めなかったっけ? たぶん閉めたとは思うけど、空いているんだから閉め忘れたのかな?
「……あれー? あのお爺さんがいませんよ?」
社務所を覗き込んでキョロキョロする伶桜。
「もう帰ったんじゃない?」
「いや、帰ったのなら扉くらい閉めるはずだよ」
と、顎に手を当てて難しそうな顔をする秀一。あー、推理小説好きの血が騒いだかな?
まぁ、でも、せっかくだから秀一に付き合って推理物っぽいことをしてみようかな。
社務所の近くには僕たちがいたのだから、あの老人が出てくれば誰かが気づくはず。
そして、社務所の中には誰もいない。あの扉以外に出入り口もなし。
つまり、あの老人は忽然と姿を消してしまったのだ。
以上、推理終わり。
……やっぱり推理ものって難しいなぁ。一度くらい安楽椅子探偵とか叙述トリックとか書いてみたいのだけど。
「どこに行ったんですかねー? まさか、神隠しとか?」
小説家志望らしく、妄想力巧みな伶桜だった。
これは(小説家志望として)僕も負けてられないなとボケてみる。
「実は神様だったとか?」
「え~? 自分で『若い女性を生け贄に!』とか要求してくる神様なんて嫌――ひっ!?」
キョロキョロと辺りを見渡していた伶桜が、何かを見つけたのか動きを止め、小さく悲鳴を上げた。
彼女の視線を辿って行くと……真っ黒いローブを被った……男? がいた。ローブのせいで体格は分からないけど、背はそこまで高くはなさそうだ。
悪魔。
と、判断するのは性急かな。黒いローブは珍しいけど、個性的なファッションセンスという可能性も――
「――あ、悪魔ぁああああぁああっ!?」
明らかに混乱している伶桜が、僕と秀一の手を引いて駆け出した。
「ちょ、伶桜! 待って、」
元々運動神経がいい伶桜に引っ張られるというか引きずられるというか。僕は後ろを振り返る余裕すらなく神社の石段を駆け下り、そのままバス停に向かってしばらく走らされたのだった。
◇
伶桜をどうにか落ち着かせ、バスに乗って彼女がいつも使う停留所まで移動したあと。一旦全員で降りて、伶桜を家の前まで送っていこうという流れになった僕たちである。悪魔(?)と遭遇したせいか伶桜が青い顔をしていたからね。
バス停からの道を三人並んで歩く。
「あー、疲れた。まだ心臓がバクバク言っている……」
「悠はもう少し運動した方がいいかもね。健康のためにも」
「まさかこの年でそんなことを言われるとは……」
やれやれと肩をすくめようとした僕は、一気に冷や汗を吹き出した。
カバン、どこかで落としてきたらしい。定期はポケットに入れていたから気づかなかった。
財布代わりに使っているスマホもポケットの中に入っていたし、一瞬、「大したものは入っていないから別にいいか……」とも思ったけど、さすがにそういうわけにもいかないか。カバン自体がそれなりにお高いものだし。
それに、あのカバンの中には印刷した投稿予定作が入っている。他人に見られたら恥ずかしいし、万が一盗作されたら厄介だ。
いや僕程度の作品を盗作する利点なんてないだろうけど……。
「秀一、カバン落としたっぽい」
「え? あ、そういえば持ってないね。どこで落としたか心当たりはあるかい?」
「たぶんあの神社だと思うけど……。ちょっと戻って取ってくる」
「え? じゃ、じゃあ、私も一緒に行きますよ! 危ないですし!」
健気にそう提案してくる伶桜だけど、彼女の顔はまだ少し青い。そんな伶桜を、原因となった神社に連れて行くのは気が引ける。
「大丈夫、まずは近くの交番に届いてないか聞いてみるから」
「でも……」
まだ納得しきれていない様子の伶桜から視線を外し、秀一を見やる。
「……秀一。後は頼んだ」
それだけですべてを察した親友は、優しく伶桜の両肩に手を添えたのだった。
丁度いいタイミングで反対方向のバスとすれ違ったので、秀一に親指を立ててから僕はバス停に向かって走った。
何とかバスには間に合ったので、後部座席に腰を落ち着けてから呼吸を整える。今日は石段を登って、走って、走って……。このあとまた神社の石段を登るのか……。
明日は筋肉痛だろうなぁ、なんて考えながら窓の外を眺める。
がた、がたと。ずいぶんと古くさい車体が揺れる。
(……ん?)
なにか、視界の端に映ったような? 小さな、まあるい、光る浮遊物が。
――蛍?
いや、まさか。時期はともかく、こんなバスの中に蛍がいるはずもない。
軽く頭を振った僕はぼんやりと車窓を眺め続けたのだった。
◇
あの神社近くの停留所へ無事到着。
スマホで場所を調べた交番を訪ねてみたけれど、どうやら落とし物は届いていないらしい。
となると、さきほどの『悪魔』が出た神社に戻らないといけないのだけど……。
「悪魔、ねぇ?」
見た目だけで他人を悪魔扱いするつもりはないけれど、まぁ、荒廃した神社で黒ずくめの人物と出会ったら怖がる気持ちも理解できる。
しかし、僕は不思議とあの黒ずくめの男性(?)から嫌な感じはしなかった。それはおそらく秀一も同じで、だからこそ僕が一人で神社に戻ることを許容したのだと思う。
……いや、もしかしたら伶桜と二人きりになりたかっただけかな? やはり僕はお邪魔だったのかな?
そんなネガティブなことを考えてしまったのは、たぶん目の前に神社の石段がそそり立っていたからだろう。お久しぶりですね強大なラスボス。もう二度とお会いしたくなかったです。
「……ひぃ、ひぃ、ひぃ……」
息も絶え絶えに石段を登り切る。途中でカバンを見つけられれば良かったのだけど、残念ながらそんなこともなく。僕は両膝に手をついてしばらく呼吸を整えなければならなかった。
さて、誰かに拾われていなければこの辺に落ちているはず――
――少女が、いた。
突如として視界に飛び込んできたので心臓が飛び跳ねた。
相も変わらず古びた神社。そんな神社の濡れ縁(縁側)に、ちょこんと座っている少女が一人。
先ほど出くわした、黒いローブの男。そのローブのフードを脱いでいたので中身が男ではなくて少女であることが知れた。……いくら何でもこんな少女を『男』と見間違うなんて、ローブで体格が分かりにくかったとはいえ、なんて観察眼のない……。
日本では珍しい銀髪は背中の辺りで切りそろえられ、僅かな木漏れ日を反射して煌めいていた。
紺碧の瞳は僕が現れたことにすら気づかないまま両膝の上に広げられた紙束を凝視している。
その紙束とは……誤字脱字を添削するために印刷した、僕の小説だ。
…………。
いや、ちょっと待って? 僕の小説を読んでいるの? あの、それはまだまだ荒削りで、そもそも才能のない人間が書いたもので、とても他人様の目に触れさせられるレベルのものじゃ……いやそれでも新人賞に応募しようとしたけれど、それだってもうちょっとクオリティを上げてから投稿しようとしたものであって――
「――、やー……」
恥ずかしさからか、無意識にそんな鳴き声(?)を上げてしまう僕だった。
「――――」
珍妙な鳴き声に気づいたのか、銀髪の少女が顔を上げる。
綺麗な子だった。
伶桜だって絶世と形容しても惜しくはない美少女だというのに、目の前の少女はそれに匹敵する美しさだった。
伶桜の魅力が燦々と降り注ぐ太陽のような活発さにあるとするならば、この少女は静かな冬の夜に浮かぶ月のような。動と静。活気と静穏。そんな、伶桜とは対照的な『美』を有する少女だった。
「…………」
しばらく僕をじっと見つめたあと、また視線を落として小説を読み始める少女。いやちょっと神経図太すぎない?
僕はコミュ症なので、初対面の人間に話しかけるのは苦手だ。
でも、このまま放置はできないし――意を決した僕は少女に声を掛けた。
「あの、その小説、僕のものでして?」
「…………」
「そんなに読まれると恥ずかしいと言いますか……」
「…………」
「そもそも、勝手に人のカバンを開けるのは止めてほしかったと言いますか……」
「…………」
「ぐぅっ」
あまりにも集中しているので、これ以上強くは出られない僕だった。
どうしたものか、と悩んでいるうちに時間は過ぎていく。
ヒグラシが鳴いている。
気温もずいぶんと下がってきた。
先ほどまでの木漏れ日も、徐々に弱くなっていく。
手持ち無沙汰に辺りを眺めてみれば、すでに周囲はあかね色に染められ始めていた。
つまりは、逢魔が時。
人が、人以外の存在と出会う刻限。
そんな、いかにも物書きっぽいことを考えていると――
「――続きは?」
少女が顔を上げ、じっと僕の顔を覗き込んできた。
続き。
僕の小説の続きか。僕の小説の続きが、望まれているのか。
「……続きは家に置いてきましたね」
予想外の嬉しさに、特に考えもせず答えてしまう僕。投稿小説は印刷すると軽く100ページを超えるので、半分程度しか持ってきていないのだ。全部持ってきたら重いし、どうせ読み切れないのだから。
「分かった」
何を分かったのか、少女が濡れ縁から立ち上がり、僕の前に立った。
どことなく猫を思わせる動き。
紺碧の瞳が瞬きすらせずに僕を見上げてくる。綺麗な、宝石を思わせるような、引き込まれかねない美しさ。
「じゃあ、行こう」
どこまでも平坦な声で、少女が踵を返して神社の石段を降りていく。
「い、行くって、どこへです?」
「悠の家」
「へ?」
家って、どういうこと?
そもそも僕は名乗っていないはず?
「小説。続きを読みたい」
「…………」
そこまで僕の小説の続きを望まれていることに喜びつつ、いやいや駄目でしょうと頭の中で冷静な僕がツッコミを入れる。いくら何でも見ず知らずの少女(とても怪しい)を家に連れて行くなんて。
「ちょっと、キミはこの近くの子ですか?」
「…………」
僕の質問に答えることなく少女は石段を降りていく。
「お母さんとか、家族の人は?」
「…………」
無視かい。
仕方なく僕も後を追って石段を降りていく。
「今から小説の続きを読んでいたら、帰りが夜になっちゃいますし」
「…………」
そもそも僕の話を聞いているのかどうか。
「バスも使わなきゃいけないんですよ?」
「…………」
僕の声など意にも介さず、まるで僕の家がどこにあるか知っているかのように歩を進める少女。
何とか止めようとするけれど、はたと気づく。そもそも少女の名前すら知らないやと。
「あなたの名前は?」
「…………」
その質問の何が違ったのか。今まで無視し続けた僕の発言が届いたのか、少女が不意に立ち止まり、僕を見上げながら答えた。
「聖」
「ひ、聖……というと……?」
先ほど謎のお爺さんが語ってくれた、この神社に祀られている神様。
天照大神の子孫で、暦と農業を司る神。
何をバカな、とは思う。
子供のいたずらに違いないと思う。
ただ、逢魔が時に、沈みゆく夕日を背負いながら僕を見上げる彼女の姿は――この世のものとは思えなくて。
まさか、ほんとうに――?
「――あ! 先輩! 遅いから心配しましたよ!」
聞き慣れた声が掛けられる。
逢魔が時を吹き飛ばす、太陽の明るさ。
何かと可愛い後輩、伶桜が手をブンブンと振りながらこちらに近づいてきた。どうやら先ほど別れたバス停からここまで迎えに来てくれたらしい。
さっきまでの青い顔はずいぶんと良くなり、まるで別人のよう。『悪魔』に対する恐怖心も和らいだようだ。
そんな伶桜の隣にいるのは、彼女を家まで送り届かせたはずの秀一。「ごめんね、伶桜ちゃんは止められなくて」という言い訳が聞こえてくるかのよう。そうやって女に甘いから勘違いされるんだぞー?
石段の下までたどり着いた秀一と伶桜。
まずは秀一が僕の方を見た。
「悠。カバンは見つかったかい?」
「あ、あぁ、うん。おかげさまで」
「そう、よかった。――聖ちゃんも、ありがとう。悠に付き合ってくれて」
え?
秀一、今、なんて言った?
「ししょーはどこか『ぽやぽや』していますからね! 聖ちゃんがいれば安心ですよ!」
伶桜も、それが当然のことであるかのようにお礼を言う。
「ん」
満足そうに頷いてみせてから、聖は僕に対して右手を差し出してきた。
「行こう、悠」
「…………」
冷や汗が止まらない。
心臓の鼓動が乱れている。
喉は奇妙なほど渇いているし、視界もなんだか揺らいでいる気がする。
聖なんていう少女は記憶にない。
そもそも、銀髪なんていう珍しい少女を、忘れるはずがない。
でも僕は覚えていなくて。
会ったことはないはずなのに。
初対面のはずなのに。
秀一も、伶桜も、ごくごく自然に『聖』という存在を受け入れている。
おかしい。
何かがおかしい。
おかしいと理解しているはずなのに……、僕は、まるで導かれるかのように聖という少女の手を取った。
社務所から出ると秀一が心配そうに近づいてきた。中に入って無事を確認しなかったのは、僕があの老人と話し込んでいるのを邪魔しないように、だろうか?
妙な老人はいたけれど、例の悪魔とやらは見つかりそうもない。そろそろ帰るかという雰囲気になってきたところで――
「――あ、ししょー。社務所の扉が開けっ放しじゃないですか」
伶桜が軽い足取りで社務所に向かう。あれ? 出るときに閉めなかったっけ? たぶん閉めたとは思うけど、空いているんだから閉め忘れたのかな?
「……あれー? あのお爺さんがいませんよ?」
社務所を覗き込んでキョロキョロする伶桜。
「もう帰ったんじゃない?」
「いや、帰ったのなら扉くらい閉めるはずだよ」
と、顎に手を当てて難しそうな顔をする秀一。あー、推理小説好きの血が騒いだかな?
まぁ、でも、せっかくだから秀一に付き合って推理物っぽいことをしてみようかな。
社務所の近くには僕たちがいたのだから、あの老人が出てくれば誰かが気づくはず。
そして、社務所の中には誰もいない。あの扉以外に出入り口もなし。
つまり、あの老人は忽然と姿を消してしまったのだ。
以上、推理終わり。
……やっぱり推理ものって難しいなぁ。一度くらい安楽椅子探偵とか叙述トリックとか書いてみたいのだけど。
「どこに行ったんですかねー? まさか、神隠しとか?」
小説家志望らしく、妄想力巧みな伶桜だった。
これは(小説家志望として)僕も負けてられないなとボケてみる。
「実は神様だったとか?」
「え~? 自分で『若い女性を生け贄に!』とか要求してくる神様なんて嫌――ひっ!?」
キョロキョロと辺りを見渡していた伶桜が、何かを見つけたのか動きを止め、小さく悲鳴を上げた。
彼女の視線を辿って行くと……真っ黒いローブを被った……男? がいた。ローブのせいで体格は分からないけど、背はそこまで高くはなさそうだ。
悪魔。
と、判断するのは性急かな。黒いローブは珍しいけど、個性的なファッションセンスという可能性も――
「――あ、悪魔ぁああああぁああっ!?」
明らかに混乱している伶桜が、僕と秀一の手を引いて駆け出した。
「ちょ、伶桜! 待って、」
元々運動神経がいい伶桜に引っ張られるというか引きずられるというか。僕は後ろを振り返る余裕すらなく神社の石段を駆け下り、そのままバス停に向かってしばらく走らされたのだった。
◇
伶桜をどうにか落ち着かせ、バスに乗って彼女がいつも使う停留所まで移動したあと。一旦全員で降りて、伶桜を家の前まで送っていこうという流れになった僕たちである。悪魔(?)と遭遇したせいか伶桜が青い顔をしていたからね。
バス停からの道を三人並んで歩く。
「あー、疲れた。まだ心臓がバクバク言っている……」
「悠はもう少し運動した方がいいかもね。健康のためにも」
「まさかこの年でそんなことを言われるとは……」
やれやれと肩をすくめようとした僕は、一気に冷や汗を吹き出した。
カバン、どこかで落としてきたらしい。定期はポケットに入れていたから気づかなかった。
財布代わりに使っているスマホもポケットの中に入っていたし、一瞬、「大したものは入っていないから別にいいか……」とも思ったけど、さすがにそういうわけにもいかないか。カバン自体がそれなりにお高いものだし。
それに、あのカバンの中には印刷した投稿予定作が入っている。他人に見られたら恥ずかしいし、万が一盗作されたら厄介だ。
いや僕程度の作品を盗作する利点なんてないだろうけど……。
「秀一、カバン落としたっぽい」
「え? あ、そういえば持ってないね。どこで落としたか心当たりはあるかい?」
「たぶんあの神社だと思うけど……。ちょっと戻って取ってくる」
「え? じゃ、じゃあ、私も一緒に行きますよ! 危ないですし!」
健気にそう提案してくる伶桜だけど、彼女の顔はまだ少し青い。そんな伶桜を、原因となった神社に連れて行くのは気が引ける。
「大丈夫、まずは近くの交番に届いてないか聞いてみるから」
「でも……」
まだ納得しきれていない様子の伶桜から視線を外し、秀一を見やる。
「……秀一。後は頼んだ」
それだけですべてを察した親友は、優しく伶桜の両肩に手を添えたのだった。
丁度いいタイミングで反対方向のバスとすれ違ったので、秀一に親指を立ててから僕はバス停に向かって走った。
何とかバスには間に合ったので、後部座席に腰を落ち着けてから呼吸を整える。今日は石段を登って、走って、走って……。このあとまた神社の石段を登るのか……。
明日は筋肉痛だろうなぁ、なんて考えながら窓の外を眺める。
がた、がたと。ずいぶんと古くさい車体が揺れる。
(……ん?)
なにか、視界の端に映ったような? 小さな、まあるい、光る浮遊物が。
――蛍?
いや、まさか。時期はともかく、こんなバスの中に蛍がいるはずもない。
軽く頭を振った僕はぼんやりと車窓を眺め続けたのだった。
◇
あの神社近くの停留所へ無事到着。
スマホで場所を調べた交番を訪ねてみたけれど、どうやら落とし物は届いていないらしい。
となると、さきほどの『悪魔』が出た神社に戻らないといけないのだけど……。
「悪魔、ねぇ?」
見た目だけで他人を悪魔扱いするつもりはないけれど、まぁ、荒廃した神社で黒ずくめの人物と出会ったら怖がる気持ちも理解できる。
しかし、僕は不思議とあの黒ずくめの男性(?)から嫌な感じはしなかった。それはおそらく秀一も同じで、だからこそ僕が一人で神社に戻ることを許容したのだと思う。
……いや、もしかしたら伶桜と二人きりになりたかっただけかな? やはり僕はお邪魔だったのかな?
そんなネガティブなことを考えてしまったのは、たぶん目の前に神社の石段がそそり立っていたからだろう。お久しぶりですね強大なラスボス。もう二度とお会いしたくなかったです。
「……ひぃ、ひぃ、ひぃ……」
息も絶え絶えに石段を登り切る。途中でカバンを見つけられれば良かったのだけど、残念ながらそんなこともなく。僕は両膝に手をついてしばらく呼吸を整えなければならなかった。
さて、誰かに拾われていなければこの辺に落ちているはず――
――少女が、いた。
突如として視界に飛び込んできたので心臓が飛び跳ねた。
相も変わらず古びた神社。そんな神社の濡れ縁(縁側)に、ちょこんと座っている少女が一人。
先ほど出くわした、黒いローブの男。そのローブのフードを脱いでいたので中身が男ではなくて少女であることが知れた。……いくら何でもこんな少女を『男』と見間違うなんて、ローブで体格が分かりにくかったとはいえ、なんて観察眼のない……。
日本では珍しい銀髪は背中の辺りで切りそろえられ、僅かな木漏れ日を反射して煌めいていた。
紺碧の瞳は僕が現れたことにすら気づかないまま両膝の上に広げられた紙束を凝視している。
その紙束とは……誤字脱字を添削するために印刷した、僕の小説だ。
…………。
いや、ちょっと待って? 僕の小説を読んでいるの? あの、それはまだまだ荒削りで、そもそも才能のない人間が書いたもので、とても他人様の目に触れさせられるレベルのものじゃ……いやそれでも新人賞に応募しようとしたけれど、それだってもうちょっとクオリティを上げてから投稿しようとしたものであって――
「――、やー……」
恥ずかしさからか、無意識にそんな鳴き声(?)を上げてしまう僕だった。
「――――」
珍妙な鳴き声に気づいたのか、銀髪の少女が顔を上げる。
綺麗な子だった。
伶桜だって絶世と形容しても惜しくはない美少女だというのに、目の前の少女はそれに匹敵する美しさだった。
伶桜の魅力が燦々と降り注ぐ太陽のような活発さにあるとするならば、この少女は静かな冬の夜に浮かぶ月のような。動と静。活気と静穏。そんな、伶桜とは対照的な『美』を有する少女だった。
「…………」
しばらく僕をじっと見つめたあと、また視線を落として小説を読み始める少女。いやちょっと神経図太すぎない?
僕はコミュ症なので、初対面の人間に話しかけるのは苦手だ。
でも、このまま放置はできないし――意を決した僕は少女に声を掛けた。
「あの、その小説、僕のものでして?」
「…………」
「そんなに読まれると恥ずかしいと言いますか……」
「…………」
「そもそも、勝手に人のカバンを開けるのは止めてほしかったと言いますか……」
「…………」
「ぐぅっ」
あまりにも集中しているので、これ以上強くは出られない僕だった。
どうしたものか、と悩んでいるうちに時間は過ぎていく。
ヒグラシが鳴いている。
気温もずいぶんと下がってきた。
先ほどまでの木漏れ日も、徐々に弱くなっていく。
手持ち無沙汰に辺りを眺めてみれば、すでに周囲はあかね色に染められ始めていた。
つまりは、逢魔が時。
人が、人以外の存在と出会う刻限。
そんな、いかにも物書きっぽいことを考えていると――
「――続きは?」
少女が顔を上げ、じっと僕の顔を覗き込んできた。
続き。
僕の小説の続きか。僕の小説の続きが、望まれているのか。
「……続きは家に置いてきましたね」
予想外の嬉しさに、特に考えもせず答えてしまう僕。投稿小説は印刷すると軽く100ページを超えるので、半分程度しか持ってきていないのだ。全部持ってきたら重いし、どうせ読み切れないのだから。
「分かった」
何を分かったのか、少女が濡れ縁から立ち上がり、僕の前に立った。
どことなく猫を思わせる動き。
紺碧の瞳が瞬きすらせずに僕を見上げてくる。綺麗な、宝石を思わせるような、引き込まれかねない美しさ。
「じゃあ、行こう」
どこまでも平坦な声で、少女が踵を返して神社の石段を降りていく。
「い、行くって、どこへです?」
「悠の家」
「へ?」
家って、どういうこと?
そもそも僕は名乗っていないはず?
「小説。続きを読みたい」
「…………」
そこまで僕の小説の続きを望まれていることに喜びつつ、いやいや駄目でしょうと頭の中で冷静な僕がツッコミを入れる。いくら何でも見ず知らずの少女(とても怪しい)を家に連れて行くなんて。
「ちょっと、キミはこの近くの子ですか?」
「…………」
僕の質問に答えることなく少女は石段を降りていく。
「お母さんとか、家族の人は?」
「…………」
無視かい。
仕方なく僕も後を追って石段を降りていく。
「今から小説の続きを読んでいたら、帰りが夜になっちゃいますし」
「…………」
そもそも僕の話を聞いているのかどうか。
「バスも使わなきゃいけないんですよ?」
「…………」
僕の声など意にも介さず、まるで僕の家がどこにあるか知っているかのように歩を進める少女。
何とか止めようとするけれど、はたと気づく。そもそも少女の名前すら知らないやと。
「あなたの名前は?」
「…………」
その質問の何が違ったのか。今まで無視し続けた僕の発言が届いたのか、少女が不意に立ち止まり、僕を見上げながら答えた。
「聖」
「ひ、聖……というと……?」
先ほど謎のお爺さんが語ってくれた、この神社に祀られている神様。
天照大神の子孫で、暦と農業を司る神。
何をバカな、とは思う。
子供のいたずらに違いないと思う。
ただ、逢魔が時に、沈みゆく夕日を背負いながら僕を見上げる彼女の姿は――この世のものとは思えなくて。
まさか、ほんとうに――?
「――あ! 先輩! 遅いから心配しましたよ!」
聞き慣れた声が掛けられる。
逢魔が時を吹き飛ばす、太陽の明るさ。
何かと可愛い後輩、伶桜が手をブンブンと振りながらこちらに近づいてきた。どうやら先ほど別れたバス停からここまで迎えに来てくれたらしい。
さっきまでの青い顔はずいぶんと良くなり、まるで別人のよう。『悪魔』に対する恐怖心も和らいだようだ。
そんな伶桜の隣にいるのは、彼女を家まで送り届かせたはずの秀一。「ごめんね、伶桜ちゃんは止められなくて」という言い訳が聞こえてくるかのよう。そうやって女に甘いから勘違いされるんだぞー?
石段の下までたどり着いた秀一と伶桜。
まずは秀一が僕の方を見た。
「悠。カバンは見つかったかい?」
「あ、あぁ、うん。おかげさまで」
「そう、よかった。――聖ちゃんも、ありがとう。悠に付き合ってくれて」
え?
秀一、今、なんて言った?
「ししょーはどこか『ぽやぽや』していますからね! 聖ちゃんがいれば安心ですよ!」
伶桜も、それが当然のことであるかのようにお礼を言う。
「ん」
満足そうに頷いてみせてから、聖は僕に対して右手を差し出してきた。
「行こう、悠」
「…………」
冷や汗が止まらない。
心臓の鼓動が乱れている。
喉は奇妙なほど渇いているし、視界もなんだか揺らいでいる気がする。
聖なんていう少女は記憶にない。
そもそも、銀髪なんていう珍しい少女を、忘れるはずがない。
でも僕は覚えていなくて。
会ったことはないはずなのに。
初対面のはずなのに。
秀一も、伶桜も、ごくごく自然に『聖』という存在を受け入れている。
おかしい。
何かがおかしい。
おかしいと理解しているはずなのに……、僕は、まるで導かれるかのように聖という少女の手を取った。
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