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9.あれは、俺のオメガだ
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しおりを挟む愚鈍な俺は、理央の葛藤も、その優しさにも気付かなかった。
俺の横から口を出す二条から目を逸らす理央の横顔に見とれながらその名を呼んだが、理央が振り返ったのは吉良だった。
他のメスの相手をしていいと言った理央の興味は、もう自分から完全に離れてしまったのだろう。
俺は、そう思っていた。
振り返ることなく吉良と教室を出た理央の背を茫然と見送った。
次の瞬間、席を立った生徒の肩を掴む。
「?、何だよ、」
綾瀬空巳。
バース性ベータ。
理央のクラスメイトで、後ろの席。
「…理央様と会話はされますか」
理央が会話を拒まないということは、ある程度信用に足る人間のはず。
「…」
眉を寄せた綾瀬に、肩を離し、頭を下げる。
「不躾でした、申し訳ございません」
「…いや、…会話、というか。無駄話とか、どうでもいい話くらいしか、」
「…理央様は自分に不要と判断された人間とは会話しません。理央様が会話されるということは、貴方は信用出来る人間であるといえます」
頭をあげ、目を丸くしている綾瀬に続けた。
「もうご存知だとは思いますが…理央様のバース性は、」
「…ああ。周知の事実だろ、もう」
「俺は理央様とクラスが別ですので。いざというとき、対応出来ないことがあるかもしれません」
先日紫香楽に渡された抑制剤のシートの一部と個人端末のIDを書いた用紙を、綾瀬に差し出す。
「…」
無言でそれを見つめる綾瀬に小声で告げた。
「…強めの抑制剤、…ワンタイムの代用も可能です。それと、俺のIDです。俺がいない間にこちらでもし何かあった場合、俺に連絡を下さいませんか。理央様はあまりご自身のことには頓着しません。その、…心配なのです、」
「…わかった、」
受け取った綾瀬に、胸を撫で下ろす。
「有り難うございます」
もう一度頭を下げた時、腕を引かれ、二条が居たことを思い出した。
「…剱、」
「ああ、ごめん。送っていくよ」
「!、うん」
自分の腕に絡み付く二条の手や指をほどくのも面倒でそのまま教室を出る。
「二条、そんなに引っ張らないで」
「家に来るんでしょ、剱。暁がいいって言ったんだもん、いいよね」
「いや、…それならそれでやらなければならないことがあるからね。送るだけだよ」
「えー…」
また予期しないヒートにあてられる可能性もある。
それはあまりよろしくない。
遮断剤の手持ちを確認する。
理央のヒート時に使用を余儀なくされたせいで、十分とはいえない量しか残っていなかった。
出来れば補充しておきたい。
家の車に乗れと愚図る二条に仕方なく従い、運転手に連絡を入れる。
「二条家で待機を」
『かしこまりました』
「泊まっていきなよ、剱」
「無理言わないで、」
好意を寄せてもらえるのは喜ばしいことだが、二条家の者と関わることは剱の人間としては極力避けたい。
触れてくる二条の身体は小さく柔らかかった。
一切興味が湧かない自分に驚いたが、それも道理だろうと思い直す。
理央の唇や膚の感触、声を知ってしまった。
普段とは違う、ヒート中の甘い匂いも。
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