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6.選ばれたようではないか
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しおりを挟む俺を見上げてくる夜色の双眸は初めて目を合わせた日と変わらず無垢で美しい。
一度瞬きして、理央は俺の首筋を咬んだ。
「…お前が他のメスの匂いをさせてると苛つく。…我慢できない、どうしても」
眉を寄せ、苦しそうにそう囁いて、理央は俺の口端の傷口に口付けた。
…そうか。
アルファの剱の俺では、オメガの暁である理央に安寧を与えられないのか。
「…俺は理央のものです。全て。あなたが望むなら、あなた以外には触れない。番も必要ない。あなたの剱でいられるなら、それだけでかまいません」
「…それは、できない、…アルファは番を持つべきだ、…剱は暁と違って結婚に向かないわけじゃない」
苦痛を飲み込むようにそう囁いた理央を抱き締める。
「好きです…理央」
「…、」
理央の柔らかな襟足を掻き分け、白い首筋に口付けた。
甘い匂いに目眩がする。
「…あなたの剱でいたい。もう、俺にこんな、…ことをさせてくれなくても、俺には理央しかいません。…あなたが他のアルファと番っても、いい。理央の剱でいられるなら他には何も望みません」
剱の役目すら吉良に奪われたら。
俺にはもう、何も無い。
「剱、」
「俺は剱です。…あなたが吉良と番になっても、あなたが俺の主人であることに変わりはありません」
俺にされるがまま、大人しく俺の腕の中で俺の胸に頬を押し付け、嘆息した理央の髪に指を通す。
「…いい匂いがする、お前」
「理央のほうが、ずっと甘い匂いがしてますよ。…あなたに番ができるまで、俺がお護りします。命に代えても」
理央の耳の後ろに口付けた。
「ん」
咬みたい衝動を抑えて膚を吸う。
鬱血の痕にもう一度口付け、理央の身体を離した。
シャツを着せ、釦をかける。
吉良が理央と番えば、おそらく俺は用済みになるだろう。
アルファとしても、…剱としても。
それでもいい。
理央が安寧を得られるなら。
俺の切れた口端に口付ける理央の唇を吸った。
「好きです、理央」
「…剱、」
「あなたが落ち着くのなら、俺に何をしてもかまいません。それが俺の存在意義です」
理央の前髪を払い、頬を指先で撫でる。
「…そんな、そんなことのために、」
戦慄く薄い唇にキスした。
「あなたにとって『そんなこと』でも、俺にとっては『それが全て』です」
美しい俺の主。
あなたの安寧のためだけに、俺は存在する。
それを果たせないのならば俺の存在に意味などない。
無防備に俺に白い項をさらしている理央は、今俺を剱として扱ってくれている。
アルファの俺にそんなことはできないだろう。
「…」
俺の手に擦り寄る理央の仕草に劣情を感じながら、俺は自分に言い聞かせるつもりで繰り返した。
「…大丈夫です。番ができれば、俺のことなど気にならなくなりますから」
フリーのオメガゆえに、アルファについた他の雌の匂いに過敏に反応する。
「お前が番うのを見たくない」
「理央がそう望むなら番いません。…番になれなくとも俺の番は理央です」
「番いたくない。…誰とも」
「…それはあまりよろしくありません。あなたの精神的負担が大きすぎる」
「…っ、男に、メス扱いされるなんて、…嫌だ、」
「理央、」
「…っいやだ、」
「落ち着いて、」
抱き締めて首筋に口付けた。
「…剱…」
「俺もアルファです。ヒート中のオメガは抑制剤を服用していても番がいなければ精神的には不安定なままですから。…アルファに触れているほうが落ち着くでしょう」
「ああ、」
俺の首筋に額を擦らせ、震える声でそう答えた理央の華奢な背を手のひらで撫でる。
「番うまでは…、俺がいますから」
シーツに落ちている銀のリングを理央の白い手が拾った。
それをぼんやりと眺める理央の髪に指を通す。
「サイズが合っていませんね。直させましょう」
外れてしまう鍵では意味が無い。
「…要らねぇ」
そう呟いて、理央は俺の手を取り、人差し指から順に指輪を通してゆく。
リングは、俺の右手の薬指におさまった。
嗚呼、これではまるで。
俺が番に選ばれたようではないか。
そのまま俺の腕の中で眠ってしまった理央の髪を撫でた。
いつも物憂げに世界を視ている夜色の眸は、今は瞼の下に隠されている。
投げ出された細い脚を、爪先まで視線で辿った。
堪えきれずに手のひらで腿に触れる。
腿の付け根に指を這わせればまだ湿っていて、俺は目を閉じて息を吐いた。
「…っん、」
声をあげた理央の頬にキスする。
今日は余程消耗したのだろう、起きる気配は無い。
絶対に俺の番にはならないオメガ。
シーツは理央の夕食中に替えようと決め、理央をゆっくりベッドに寝かせて時計で時間を確認した。
夕食の時間まではまだ十分ある。
シーツの上に落としたチョーカーを拾いあげた。
チョーカーを理央の首の下に通して首筋を覆い、喉の上で金具を掛け、ロックする前に一度金具を外す。
さらされた白い首筋を吸ってもう一度痕を残した。
「…、つるぎ、…?」
ぼんやりと呟いた理央の髪を撫で、喉の上で金具を掛けてロックする。
「夕食までまだあります。寝ていて大丈夫ですよ」
「ん」
目を閉じた理央を眺めながら眼帯を耳にかけた。
ベッドをおり、照明を落としてから寝室を後にする。
自室に戻って浴室に直行し、シャワーを浴びながら自慰をした。
「…っ、ッは、…理央、」
右手の薬指のリングに口付ける。
切れた口端に湯が酷く滲みた。
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