虚口の犬。alternative

HACCA

文字の大きさ
25 / 159
8.神木隼斗

2

しおりを挟む

だが番うことなど許されない。



「…高嶺の華だ。俺の手に無いからこそ美しい、」

触れて手折れば後は枯れゆくだけの。



「森林限界を越えて咲くのは、種がそこに落ちたからで、花の意思ではありませんよ」

一人言に唐突に返ってきた運転手の言葉に面喰らう。

暁本家からの帰路の車内である現実に引き戻され、苦笑した。

「…そうですね。お名前を訊いてもよろしいですか」

「失礼。神木隼斗と申します」

神木の姓に合点がいく。

「…成る程。目付け役というわけですね」

「察しのいい人間は好きだよ。手順を省略できる。時間は有限なのでね」

「時間は無限ですよ。有限だと感じるのはあなたが生きているからだ」

俺の言葉に神木は笑った。

「いいね、大和。気に入ったよ」

「有り難うございます」

「理央のヒート中、校内のアルファの様子はどうだった」

「…特に何も」

「そうか」

「理央様のバース性は、」

「疾うに知られてはいるよ。むしろ隠しておくほうが危険だ。『知らなかった』で済まされることではないのでね。外部の人間は互いに牽制しあって本家と話をしてる頃だろう。暁を欲しがる家は腐るほどある」

「…そうですか」

知らず、指が白くなるほど拳を握りしめていた。

俺の様子をバックミラー越しに眺めていた神木が一つ息を吐く。

「僕は運転手として理央の邸に入る手筈だが、理央はあまり神木の家については詳しくないのでね。知らぬふりをしてくれたまえ」

「俺は剱です」

「…ああ、そうだったね。では何かあっても沈黙を通すように」

「かしこまりました」

「…そんなに主人に惹かれるものなのか。僕は剱でもアルファでもないのでね。精神や運命で惹かれるという君たちのことはさっぱり理解できない」

「…説明できる感覚でもありません。無理に言葉にするならば、剱として主人がいないということは魂が存在しないことに近く、主人を得て初めて剱は人になります。アルファとしてオメガに惹かれるのは必然です。本能で惹かれる。理性も愛も存在せず、どんなオメガでもいい。ただの種族維持本能ですよ。それがそこにいるだけで理性がとぶ」

二条のヒートにすら、遮断剤がなければ耐えられなかっただろう。

「…成る程。結局理解できなかったが、つまり論理ではないということがよくわかった」

気付けは理央の邸のエントランスに到着し、神木は車を降りて後部座席のドアを開けた。

「…俺をこのように扱う必要は特にありません。使用人の一人とお考えください」

「…了解した」

「部屋は適当に選んでいただいてかまいませんが、怪しまれたくないのなら使用人の並びを」

「わかった」

「訊いておきたいことはありますか」

「君のIDはきいている。後程連絡をいれる。登録しておいてくれ」

「…かしこまりました」




自室に戻り、シャワーを浴びた。

理央に会う前の儀式のようになってしまったが、これ以上主人に嫌われたくもない。

不安要素は出来る限り減らすべきだ。

髪をタオルで拭きながら浴室を出てクローゼットに向かう。

ベッドに投げた個人端末のライトが明滅していることに気付き、履歴を確認しながらクローゼットを開けた。

適当に服を選んでベッドに放る。

神木のIDを登録し、着替えてから理央の部屋を訪った。

ノックの後、「入れ」と返事があってドアを開ける。

リビングに顔を出せば、理央はいつものようにデスクについてタブレットで暁の基礎データベースに目を通していた。

「今日はどうした」

「暁本家に顔を出しておりました」

「そうか。父の様子は」

「疲弊しているご様子でしたが」

「…後継がオメガではな。仕方がない」

自嘲気味に笑んで差し出された手に、膝を折って口付けた。

白い指が眼帯を絡めとる。

「…好きです、理央」

「可哀想にな。次男に生まれたせいで俺の玩具か」

「俺は幸せです」

「…剱」

「はい」

「…一度だけ、…」

「?、何でしょう」

「…、何でもない」

「理央、…?」

俺の髪に指を通し、理央は俺の左の瞼にキスした。

「何でもない、」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...