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12.『何でもない』
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しおりを挟む所詮、俺は剱の人間だ。
暁の苦痛も、神木の畏怖も、量れはするが知り得ない。
俺はただ、理央と居たいだけだ。
出来ることならば番にしたい。
だが、それは叶わぬと決まっている。
だからせめて、これからも剱としてお仕えさせていただきたい。
それすら吉良に奪われるなら、せめて。
理央がフリーのオメガである間は、フリーのアルファとして、吉良の代わりに求められたい。
「恐れとは、未知に抱くものです。あなたが俺を恐れるならば。俺はあなたにとって全く理解の及ばない未知の生物なのでしょう。俺にとっては理央様がそうです。ですが俺は理央様を恐ろしいと思ったことはありません」
「言ってしまえば、それは君が『剱』だからだ。無知で、純粋であるゆえに、普通なら恐れるものを恐れず、慕うことが出来る。だが、そうだな。…ならば君は何を恐れる」
挑むような口調で問う神木に、愚問だとため息を吐く。
「…理央様に『不要』と判断されること。端的に言うなら棄てられることです」
「嫌われていても?」
「かまいません。…いえ、…出来ることならば好かれたいとは思いますが、…俺のような出来損ないの剱では、過ぎた望みだと理解しております。嫌われていようと、剱として必要としていただけるのなら、それでかまいません」
「ひとつ訊きたい」と、神木が疲れたというようにため息混じりに呟いた。
「…何でしょう」
「それは『剱』としての回答だと僕は認識しているが、合っているだろうか」
神木の言葉に息を飲む。
「…はい、」
「では、アルファとしてはどうだ?何を恐れる?」
「…ッ、」
言葉にすることを躊躇うような思いを抱いている俺は、沈黙を選んだ。
「…正直に言ってくれてかまわないよ」
「いえ、…」
「僕が個人的に知りたいだけだ。他言しない」
「……理央様が、他のアルファのものになってしまわれることが恐ろしい。自分の番に出来ないならば、せめて。誰とも番になることなく、お一人で、…あってほしい、…」
「…他のアルファと番っても、理央は理央だろう」
「頭ではわかっているのです。…ですが、どうしても、…あのアルファのようなオメガを誰にも奪われたくない。俺のものにならなくていい。他のアルファのものになりさえしなければ耐えられる。…ッ他のアルファに奪われさえしなければ――」
「大和」
神木に呼ばれた瞬間、自分が冷静さを欠いていることに気付く。
「…申し訳、ありません」
「気にするな。上等なオメガを欲するのはアルファの本能だ。理央ほどのオメガとなればな。それよりも、なぜ君が吉良と番わせる準備をしているんだ」
「…理央様は、吉良を好いていらっしゃるようですが。確かに、あなたの言うようにオメガらしさの無い自分を気にしていらっしゃるようです。いずれ番になるというのに、自分から誘うのは気が引ける様子。…俺でも吉良の代わりに理央様に触れさせていただけるのなら、願っても無いことでした。それで理央様が僅かでも安堵でき、自信を得られるなら。『吉良は喜ぶはずだ』と、…告げるべきだと思いましたが、それを口には出来ませんでした。…自分が理央様に触れたいがために、俺は沈黙を選びました。…申し訳ありませ――」
膝の上の拳を握り締めて懺悔する俺を、神木は「君は、」と遮った。
「…君は、君自身が理央に好かれているとは、欠片も思わないんだな」
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