虚口の犬。alternative

HACCA

文字の大きさ
46 / 159
12.『何でもない』

2

しおりを挟む


所詮、俺は剱の人間だ。



暁の苦痛も、神木の畏怖も、量れはするが知り得ない。



俺はただ、理央と居たいだけだ。

出来ることならば番にしたい。

だが、それは叶わぬと決まっている。

だからせめて、これからも剱としてお仕えさせていただきたい。

それすら吉良に奪われるなら、せめて。

理央がフリーのオメガである間は、フリーのアルファとして、吉良の代わりに求められたい。



「恐れとは、未知に抱くものです。あなたが俺を恐れるならば。俺はあなたにとって全く理解の及ばない未知の生物なのでしょう。俺にとっては理央様がそうです。ですが俺は理央様を恐ろしいと思ったことはありません」

「言ってしまえば、それは君が『剱』だからだ。無知で、純粋であるゆえに、普通なら恐れるものを恐れず、慕うことが出来る。だが、そうだな。…ならば君は何を恐れる」

挑むような口調で問う神木に、愚問だとため息を吐く。

「…理央様に『不要』と判断されること。端的に言うなら棄てられることです」

「嫌われていても?」

「かまいません。…いえ、…出来ることならば好かれたいとは思いますが、…俺のような出来損ないの剱では、過ぎた望みだと理解しております。嫌われていようと、剱として必要としていただけるのなら、それでかまいません」

「ひとつ訊きたい」と、神木が疲れたというようにため息混じりに呟いた。

「…何でしょう」

「それは『剱』としての回答だと僕は認識しているが、合っているだろうか」



神木の言葉に息を飲む。



「…はい、」

「では、アルファとしてはどうだ?何を恐れる?」

「…ッ、」



言葉にすることを躊躇うような思いを抱いている俺は、沈黙を選んだ。



「…正直に言ってくれてかまわないよ」

「いえ、…」

「僕が個人的に知りたいだけだ。他言しない」

「……理央様が、他のアルファのものになってしまわれることが恐ろしい。自分の番に出来ないならば、せめて。誰とも番になることなく、お一人で、…あってほしい、…」

「…他のアルファと番っても、理央は理央だろう」

「頭ではわかっているのです。…ですが、どうしても、…あのアルファのようなオメガを誰にも奪われたくない。俺のものにならなくていい。他のアルファのものになりさえしなければ耐えられる。…ッ他のアルファに奪われさえしなければ――」

「大和」

神木に呼ばれた瞬間、自分が冷静さを欠いていることに気付く。

「…申し訳、ありません」

「気にするな。上等なオメガを欲するのはアルファの本能だ。理央ほどのオメガとなればな。それよりも、なぜ君が吉良と番わせる準備をしているんだ」

「…理央様は、吉良を好いていらっしゃるようですが。確かに、あなたの言うようにオメガらしさの無い自分を気にしていらっしゃるようです。いずれ番になるというのに、自分から誘うのは気が引ける様子。…俺でも吉良の代わりに理央様に触れさせていただけるのなら、願っても無いことでした。それで理央様が僅かでも安堵でき、自信を得られるなら。『吉良は喜ぶはずだ』と、…告げるべきだと思いましたが、それを口には出来ませんでした。…自分が理央様に触れたいがために、俺は沈黙を選びました。…申し訳ありませ――」

膝の上の拳を握り締めて懺悔する俺を、神木は「君は、」と遮った。

「…君は、君自身が理央に好かれているとは、欠片も思わないんだな」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...