47 / 159
12.『何でもない』
3
しおりを挟む「理央様が…俺を、…?…それは無いでしょう、」
理央のバース性が確定する以前の、俺が理央に邪険にされていた頃を知らない神木の言に、俺は笑うしかなかった。
「なぜそう言い切れる」
眼帯の上から左目を撫でた。
「…自分は、…初めて理央様にお会いした時、この目で理央様の不興を買いました。今は物珍しいせいか、俺がアルファであるせいか、…綺麗だとまで、ほめてくださいます。…以前は、俺は邪険にされていたのですよ。吉良には触れさせても、俺は着替えを手伝うだけで打たれたりもしました。勿論、理央様の気が済むのなら俺はそれでよかった。ですが、…オメガと診断されてから…特にヒートを迎えてからは、俺にまで気を使われるようになりました。…俺がアルファであるせいで…理央様に安寧を提供することが、自分の役目であるというのに、…ますます、理央様に精神的負担を強いることに、…」
「…本当に、理央のことを想うのなら。…吉良の代わりに君が抱いてやれ」
「…どういう意味ですか」
「そのままの意味だよ」
「破綻しています」
眉を寄せた瞬間、車は邸のエントランスに緩やかに停止した。
「…僕はね、僕の役目を果たす為にここにいるが、人でなしではない。君が剱であるゆえに、僕の言葉を理解できないのは承知している。だから理解しなくていい。僕の言う通りにしたまえ。その新しい鍵指環は理央に渡してはいけない。ネックレスに通した方の指環を右手に戻して理央の部屋に行くんだ。そして君が、吉良の代わりに理央を抱く。そうすることが君の、そして理央の為だ」
「…言っている意味が…なぜ、そんなことになるのですか」
頭痛すら覚えるような愚考に頭を抱える。
「君にはわからないだろう。僕や、吉良にわかることが、君にはわからない。だから理央は君に命令出来ない。それを命令するのは自らを惨めにするだけだからだ」
「…なぜ、俺にはわからないのですか。俺は、理央様の為ならば、何でも――」
「だからだよ」
途中で遮られ、顔をあげた。
「君は主人の為に何でもする。できる。それが『剱』だ。たとえ主人が『出来る』か『出来ない』かを問うたとしても、剱は『する』。口に出したなら、君はそうするとわかっている。これほど簡単な答え合わせは無い。だから理央は言わないし、命令もしない。絶対にだ」
『それを命令することほど、虚しいことはねーんだ』
主の声を思い出し、その表情を思い浮かべる。
「…理央様の望みならば、命令ならば何でも、…何としても、俺は、…」
「大和」
「…はい」
「何度も言わせるな。理央はそれを喜びはしない」
「理央様は、何を望んでおられるのでしょうか。あなたは知ってらっしゃるのでしょう」
「理央が言わないことを、僕の口からきけるとでも?」
「…」
「いいから君は理央を抱けばいい。吉良と番になるだろうとはいえ、君も理央が欲しいのだろう?何も不都合はない」
「……」
喉が渇いて、声が出なかった。
「それに少し気掛かりなこともあるのでね。降りたまえ。そろそろ怪しまれる。…後程連絡する」
「…はい」
酷くかすれた自分の声に僅かな羞恥を感じて目を伏せる。
神木に目礼して車を降り、自室に向かった。
理央を抱けばいい、だと。
ふざけているのか。
だが目付け役の神木がいいと言うのなら。
…いいのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる