虚口の犬。alternative

HACCA

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12.『何でもない』

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「理央様が…俺を、…?…それは無いでしょう、」

理央のバース性が確定する以前の、俺が理央に邪険にされていた頃を知らない神木の言に、俺は笑うしかなかった。

「なぜそう言い切れる」

眼帯の上から左目を撫でた。

「…自分は、…初めて理央様にお会いした時、この目で理央様の不興を買いました。今は物珍しいせいか、俺がアルファであるせいか、…綺麗だとまで、ほめてくださいます。…以前は、俺は邪険にされていたのですよ。吉良には触れさせても、俺は着替えを手伝うだけで打たれたりもしました。勿論、理央様の気が済むのなら俺はそれでよかった。ですが、…オメガと診断されてから…特にヒートを迎えてからは、俺にまで気を使われるようになりました。…俺がアルファであるせいで…理央様に安寧を提供することが、自分の役目であるというのに、…ますます、理央様に精神的負担を強いることに、…」

「…本当に、理央のことを想うのなら。…吉良の代わりに君が抱いてやれ」

「…どういう意味ですか」

「そのままの意味だよ」

「破綻しています」

眉を寄せた瞬間、車は邸のエントランスに緩やかに停止した。

「…僕はね、僕の役目を果たす為にここにいるが、人でなしではない。君が剱であるゆえに、僕の言葉を理解できないのは承知している。だから理解しなくていい。僕の言う通りにしたまえ。その新しい鍵指環は理央に渡してはいけない。ネックレスに通した方の指環を右手に戻して理央の部屋に行くんだ。そして君が、吉良の代わりに理央を抱く。そうすることが君の、そして理央の為だ」

「…言っている意味が…なぜ、そんなことになるのですか」

頭痛すら覚えるような愚考に頭を抱える。

「君にはわからないだろう。僕や、吉良にわかることが、君にはわからない。だから理央は君に命令出来ない。それを命令するのは自らを惨めにするだけだからだ」

「…なぜ、俺にはわからないのですか。俺は、理央様の為ならば、何でも――」

「だからだよ」

途中で遮られ、顔をあげた。

「君は主人の為に何でもする。できる。それが『剱』だ。たとえ主人が『出来る』か『出来ない』かを問うたとしても、剱は『する』。口に出したなら、君はそうするとわかっている。これほど簡単な答え合わせは無い。だから理央は言わないし、命令もしない。絶対にだ」



『それを命令することほど、虚しいことはねーんだ』



主の声を思い出し、その表情を思い浮かべる。

「…理央様の望みならば、命令ならば何でも、…何としても、俺は、…」

「大和」

「…はい」

「何度も言わせるな。理央はそれを喜びはしない」

「理央様は、何を望んでおられるのでしょうか。あなたは知ってらっしゃるのでしょう」

「理央が言わないことを、僕の口からきけるとでも?」

「…」

「いいから君は理央を抱けばいい。吉良と番になるだろうとはいえ、君も理央が欲しいのだろう?何も不都合はない」

「……」

喉が渇いて、声が出なかった。

「それに少し気掛かりなこともあるのでね。降りたまえ。そろそろ怪しまれる。…後程連絡する」

「…はい」

酷くかすれた自分の声に僅かな羞恥を感じて目を伏せる。

神木に目礼して車を降り、自室に向かった。



理央を抱けばいい、だと。

ふざけているのか。



だが目付け役の神木がいいと言うのなら。

…いいのだろうか。
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