59 / 159
14.『大丈夫だ』
6
しおりを挟むシートに凭れ、戦慄く唇で浅く息を継ぐ理央の首筋に手をあて、体温を確認する。
「…理央、」
「問題無い、」
何かを耐えるように震える手で口を覆う理央の背を手のひらで撫でた。
バックミラー越しに神木と目が合う。
「問題無い筈がないでしょう」
抑制剤は予め服用していた。
だがこれは明らかにヒートと同じ症状。
「っ、あの、ホテルはどこの持ち物だ」
「伊関傘下の坂内のものです」
「…っは、」
「理央、ワンタイムを、――」
差し出したカプセルを横目に、理央は熱い息を吐いた。
「多分効かない、」
「…理央、」
「…っ駄目だ、思考が散る、」
天井を仰ぎ、喘ぐように呼吸する理央の首筋を汗が伝う。
どうしたらいい。
どうしたら。
不意に目の前に差し出された白い手の甲に唇を落とした。
「俺に出来ることは…」
「無い、…っこのままでいい、紫香楽を呼べ、」
「かしこまりました」
理央の身体を抱き寄せ、自端末で紫香楽のIDにメッセージをいれる。
続く着信で直ちに邸に来るよう告げた。
理央の震える吐息が首筋を擽る。
夜色の髪に指を絡め、こめかみに口付けた。
理央が甘える子犬のように鼻先を俺の首筋に擦らせる。
かかる吐息は熱い。
「っは、…」
「理央、」
「っ、痛い、」
震える声で囁き、理央は制服の上着を掴んだ。
力任せに掴まれた生地が軋む。
「痛みが、?」
「腹の奥、…っ、っいた、ぁ、」
「っ理央、」
堪らなくなって抱き締めた。
「っすまない、」
「あなたが謝罪することなど何もないでしょう」
その声のように微かに震えている身体を温めようと腕の中に抱き込む。
首筋に口付け、甘い汗を舐めた。
生地を握り締めたまま白くなっている指をほどき、自分の指を絡ませる。
「…つるぎ、」
囁いて目を閉じ、強張った理央の身体を抱いたまま、神木に「どういうことだ」と問うた。
「わからない。…伊関と暁の間で何か密約があったのかもしれない」
「理聖様が?」
「…あるいは、…理央と、伊関の間かもしれないが…」
「…理央と、…」
吉良は理央が好いているアルファは伊関ではないと言ったが、違ったのか。
いや、理央と利也の面識は無かった。
ならば雅也の方だということか。
父親に会うために息子と会うことを了承したと、…?
だが――
「落ち着け、大和」
「…落ち着いていられるわけがないでしょう。明らかにヒートの症状です。抑制剤を服用していたのですよ。やはり外部のアルファなどに会わせるべきではなかった」
「だからこそ今はアルファでもある『剱』の君は怒りよりも理央のケアを優先しろと言っているんだ。抑制剤が効かないヒートなど理性が強いオメガにとっては拷問でしかないんだぞ」
神木の言葉に我に返った。
俺たちの会話など気にしている余裕などないのか、理央は目をかたく閉じて震える唇を噛み締めている。
「…理央」
「…大丈夫だ」
何を訊いても、何を言っても、理央は『大丈夫だ』と答えるだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる