虚口の犬。alternative

HACCA

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14.『大丈夫だ』

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シートに凭れ、戦慄く唇で浅く息を継ぐ理央の首筋に手をあて、体温を確認する。

「…理央、」

「問題無い、」

何かを耐えるように震える手で口を覆う理央の背を手のひらで撫でた。

バックミラー越しに神木と目が合う。

「問題無い筈がないでしょう」

抑制剤は予め服用していた。

だがこれは明らかにヒートと同じ症状。

「っ、あの、ホテルはどこの持ち物だ」

「伊関傘下の坂内のものです」

「…っは、」

「理央、ワンタイムを、――」

差し出したカプセルを横目に、理央は熱い息を吐いた。

「多分効かない、」

「…理央、」

「…っ駄目だ、思考が散る、」

天井を仰ぎ、喘ぐように呼吸する理央の首筋を汗が伝う。

どうしたらいい。

どうしたら。

不意に目の前に差し出された白い手の甲に唇を落とした。

「俺に出来ることは…」

「無い、…っこのままでいい、紫香楽を呼べ、」

「かしこまりました」

理央の身体を抱き寄せ、自端末で紫香楽のIDにメッセージをいれる。

続く着信で直ちに邸に来るよう告げた。

理央の震える吐息が首筋を擽る。

夜色の髪に指を絡め、こめかみに口付けた。

理央が甘える子犬のように鼻先を俺の首筋に擦らせる。

かかる吐息は熱い。

「っは、…」

「理央、」

「っ、痛い、」

震える声で囁き、理央は制服の上着を掴んだ。

力任せに掴まれた生地が軋む。

「痛みが、?」

「腹の奥、…っ、っいた、ぁ、」

「っ理央、」

堪らなくなって抱き締めた。

「っすまない、」

「あなたが謝罪することなど何もないでしょう」

その声のように微かに震えている身体を温めようと腕の中に抱き込む。

首筋に口付け、甘い汗を舐めた。

生地を握り締めたまま白くなっている指をほどき、自分の指を絡ませる。

「…つるぎ、」

囁いて目を閉じ、強張った理央の身体を抱いたまま、神木に「どういうことだ」と問うた。

「わからない。…伊関と暁の間で何か密約があったのかもしれない」

「理聖様が?」

「…あるいは、…理央と、伊関の間かもしれないが…」

「…理央と、…」

吉良は理央が好いているアルファは伊関ではないと言ったが、違ったのか。

いや、理央と利也の面識は無かった。

ならば雅也の方だということか。

父親に会うために息子と会うことを了承したと、…?

だが――

「落ち着け、大和」

「…落ち着いていられるわけがないでしょう。明らかにヒートの症状です。抑制剤を服用していたのですよ。やはり外部のアルファなどに会わせるべきではなかった」

「だからこそ今はアルファでもある『剱』の君は怒りよりも理央のケアを優先しろと言っているんだ。抑制剤が効かないヒートなど理性が強いオメガにとっては拷問でしかないんだぞ」

神木の言葉に我に返った。

俺たちの会話など気にしている余裕などないのか、理央は目をかたく閉じて震える唇を噛み締めている。

「…理央」

「…大丈夫だ」

何を訊いても、何を言っても、理央は『大丈夫だ』と答えるだけだった。

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