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14.『大丈夫だ』
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しおりを挟む「…ならいいが」
主人の目につくまで、手を止めて思考に耽っていたことに気付かないとは。
己の愚行にうんざりとする。
そのとき、理央の首筋に浮く汗に気付いて声をかけようとした。
「理――」
「理央様」
「…何でしょう」
が、利也に先を越されてしまった。
「また、個人的に食事にお誘いしてもかまいませんか?その、もし…理央様がよろしければ、ですが、…」
利也の言葉に、理央は安堵したような吐息をこぼした。
「…自分のようなオメガでもよろしいのでしたら」
嗚呼。
俺の言葉は信じて下さらないのに、今日会ったばかりのアルファの言葉にはそれほど安堵するのか。
十年仕えてきた剱である俺の言葉よりも、今日会ったアルファの言葉のほうが。
…あなたを慰められるのか。
理央がティーカップをソーサーに置いた音で我に返った。
「利也様」
「はい」
「申し訳ございません、自分としたことが未熟で恥ずかしいのですが、アルファの方とこうしてお会いするのは実は初めてのことで。自分で思うよりも随分緊張していたようです。…少し疲れてしまいました。これ以上長居をしては利也様にご不快な思いをさせてしまうかもしれません。次回のお許しがいただけるのでしたら、本日は失礼させていただいてかまいませんか?このような場を設けていただいたのに、大変申し訳ないのですが…」
理央の言葉に、利也が慌てたように席を立つ。
「っ、申し訳ありません、俺の方こそ気付かずに一人舞い上がっておりました!どうぞ、ご無理されずに」
「有り難う御座います。もし本当に次があるのでしたらご連絡下さい」
「!、はい、絶対に!」
利也の様子に微かな笑みをうかべ、理央は席を立った。
車まで送ると言い出した利也を何とか宥め、エレベーター内から目礼する理央に利也と付人が頭を下げる。
エレベーターのドアが閉まった瞬間、理央はゆっくりと、吐息した。
密室で初めて気付く。
酷く、甘い匂いがした。
「…理央、どう――」
瞬間、震える手のひらが俺の口を塞いだ。
赤く潤んだ夜空の眸に目を奪われる。
「…頼むから、今は何も言うな。車までは耐える。迅速に頼む」
念のため運転手は神木を同行させていた。
幸いエレベーターは一階まで直通である。
直ぐに神木のIDに通話し、下で待つよう告げた。
「…」
「…っ、」
俺はただひたすら、唇を噛み、下を向く理央の横顔を無言で見つめるしかなかった。
パネルが一階を表示したのを確認し、理央が顔をあげて覚悟を決めるように一つ息を吐く。
明らかなヒートの様相に、俺は遮断剤を取り出して口に含んだ。
ドアが開くと同時に理央が歩き出す。
その姿はアルファのように美しい。
だが、漂う香りと纏う空気はオメガの危うさと艶やかさを孕んでいた。
振り返る人間を一切気にせず歩く理央の背を追う。
無事、神木がドアを開けて待つ車に辿り着いたとき、頭痛を耐えるように眉を寄せた理央の手を取った。
「どうぞ、理央様」
「…有り難う」
理央の姿と匂いにつられた人間が『暁理央』であると気付いた頃には車は発進していた。
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