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14.『大丈夫だ』
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しおりを挟む「利也…、頼むから、くれぐれも失礼のないように」
「はい」
「理央様、愚息ですので何かありましたら遠慮なく殴るなり蹴るなりお願いします」
「滅相もない。後輩としてご教示願いたいのは自分のほうですから」
目を伏せた理央に頭を下げ、雅也は「後は頼む」と利也の(おそらくは)付人の肩を叩いた。
「私がいては理央様も落ち着かぬでしょう。これで失礼致します。何か御座いましたら遠慮なくご連絡下さい」
理央に頭を下げてエントランスを出て車に乗り込む雅也を見送り、付人が「それではこちらへ」とエレベーターに案内する。
小さく息を吐いた理央の横顔は少し疲れているように見えた。
指定階への昇降中、利也が俺と、俺の眼帯に目を止め、「…そちらは?」と問うのに頭を下げる。
「初めまして、伊関利也様。剱大和と申します。自分のことは理央様の付人のようなものとお考え下さい」
「…あぁ」
眉を寄せた利也に、理央が頭を下げた。
「申し訳ありません、利也様。暁である自分は何かと制約が多く…お許し下さい」
「いえ、こちらにも付人はおります。お気になさらず」
父子ともに俺が心配していたような人物では無いように思える。
一室に案内され、同時に届いたルームサービスの給仕についた。
理央は全ての皿に手を付けはしたが、殆ど口にしなかった。
食事中も終始、利也は理央の一挙手一投足を目で追う。
食事を終え、水のグラスを手に取った理央の唇を見つめる目には、微かな欲が混じっていた。
「理央様はその、オメガ、…とうかがいましたが、信じられませんね…」
その言葉に理央はグラスを置き、曖昧に笑った。
「…そう、ですね。自分はその、…他のオメガ性の男性のように小さくも愛らしくもなく、…どう見ても男性なもので。これでは身内のアルファくらいしか貰い手も無く。恥ずかしい限りです」
「っそんな、理央様はとてもお綺麗です。理央様が俺でかまわないのなら俺が貰います…!」
利也の言葉に、理央が目を丸くする。
その後に見せた微笑みは、その場にいる全員の目を奪った。
「…利也様はこんなオメガである自分にまでお優しいのですね」
「…ッ、」
「大丈夫ですよ。この容姿のことはもう諦めました。変えようもありませんから」
「っいえ、俺は本当に――」
「無理をされずに。…お気遣い、有り難う御座います」
控え目な笑みを浮かべ、目を伏せた理央の長い睫毛がその白い頬に影を落とす。
俺の主人はなぜ気付かないのだろう。
その仕草や表情、吐息、目にかかる癖のない黒髪の揺れる様、全てがバース性等関係無く他人の目を奪うことを。
暴力的なまでに惹き付けられる。
視界で色付いているのはその人だけだと錯覚させられる。
予め抑制剤を服用させてもこうだとは。
利也が唾液を飲み下す音が俺にも聞こえた。
「理――」
「理央様」
利也を現実に戻させるため、遮って声をかける。
「なんだ」
「アールグレイでよろしいでしょうか」
「ああ」
「伊関様は」
「…あぁ、…俺は珈琲を」
「畏まりました」
俺の声で我に返った伊関の付人の慌てる様子を眺め、焦燥を吐き出そうと吐息した。
現時点でオメガとして未成熟だというのならば、この先もっと、理央を『そういう』目で見る者は増えてゆくのだろう。
酷く、不快だった。
「剱」
「はい」
「…どうした」
「いえ、何も。失礼致しました」
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