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18.下等
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しおりを挟む「自室に戻ってかまわんよ」
「失礼します」番を探さなければならないと頭ではわかっている。
広間を出て自室へと足を向けながら、俺は自分勝手なことを考えていた。
(もしも、理央を番にできたら、…)
どんな心地がするのだろうか。
俺の――俺だけのオメガに、できたのなら。
今、吉良に向けているような笑顔も、俺に向けて下さるのだろうか。
あの身体に触れても、厭われないのだろうか。
「大和」
「……兄さん」
兄の仁に声をかけられて気付いた。
俺は自室のドアレバーに手をかけたまま、思考に耽っていたらしい。
「どうした、理央様のことでも考えていたのか」
全くの図星に苦笑する。
「…ええ。自分には勿体無い主人だと、…」
「羨ましいことだ。俺はまだお会いしたことすら無い」
自分は次男に生まれて幸運だった。
妹の鈴蘭はともかく、兄の仁や弟の周は暁の主人が居ない。
(主人がいる、それだけで満足しなければならない)
わかっている。
(…知らなければ良かった)
理央の肌の感触も、舌の味も、吐息の温かさも、吐息に混じる嬌声も、懇願を含んだような眼差しも、知りさえしなければ。
(もう一度と、望むこともなかったのだ)
「…そうですね、自分は……理央様にお仕え出来るだけで幸せです」
「理央様は可愛がってくださるのか?」
「…バース性が確定してから、…いえヒートを迎えられてからは、俺のようなアルファでも気にかかるようで、…以前はよく打たれたのですが、最近はその傷の代償にお身体に触れさせて下さいます」
「手ではなく?」
「はい、…」
共に眠ることもあるとは、口に出せなかった。
兄の悪い癖だと、父から聞いている。
主人を持つ一族の話を聞いては自分に置き換えて理央の剱である自身の想像をする。
陶酔を瞳にちらつかせながら嘆息する兄に不快感を覚えた。
「もっと聞かせてくれ」
無意識のうちにドアレバーを握る手に力がこもる。
金属が軋む音が響いてドアを開けた。
「本日は疲れました。…失礼します」
目礼すれば、兄は「そうだな。立ち話には勿体無い。…明日またゆっくり聞かせてくれ」と目を細めた。
「…はい」
自室に入り、施錠する。
舌打ちを耐え、髪をかきまぜた。
「…理央様は俺の主(あるじ)だ」
唐突に今朝の理央の馨りを思い出して喉が鳴る。
二条のような噎せかえる甘さではなく、透き通った、花の蜜のような。
唾液を飲み下して息を吐いた。
(理央は俺のオメガではない)
本来、剱は暁の手以外に触れてはならないと言い付けられている。
合点がいった。
(身体に触れることを許されてしまえばキリがなくなるからだ)
最近の自分の言動は許されるものではない。
それでも抑制し難くなっているという自覚もある。
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