102 / 159
20.まだ、誰のものでもないのだと
3
しおりを挟む「それだけかね?」
「…自分には何を望むべくもありません。少しでもお役に立つべく、理央様にお仕えさせていただくだけです。それが自分の幸せです」
「…一応、お前には知らせておこうと思っただけだ。下がってかまわんよ」
「お気遣い、有り難う御座います」
頭を下げ、正座を解いて立ち上がった。
「大和」
「…はい」
「許されるなら、理央チャンと番になりたいかね?」
一瞬回答を見失い、愚鈍な自分に内心で舌打ちする。
「…理央様がお望みであればそのように。自分の意思は理央様と共に御座いますので」
俺の言葉に父が口角を上げた。
煙管の煙が天井へ昇る。
「…よろしい」
大広間を出て、一つ息を吐いた。
なれるものならと、一瞬考えた。
だがそれは正解ではない。
俺はアルファではなく、剱として理央に仕えている。
自室の前には兄の仁が立っていた。
「何の話だった」
「兄さんには関係の無い話です」
「少しくらい、共有してくれてもかまわんと思うのだが」
「貴方は剱の当主です。他に優先すべきことが御座いますでしょう」
剱の後継は必要に応じて一族のリカバリとイニシャライズを行う。
黒名の家と懇意にするのは一族の中でも当主だけだ。
「…父もお前も、自分勝手なものだ」
そう呟き、兄は俺の横を通り過ぎた。主人を持てた自分は幸運だったと思っている。
だが、このいつ全てが無に帰すのか、不要だと言われるのか、この喉を焼く身が竦むような焦燥を知らずに済むというのなら。
(知った後では遅い。焦がれ続けるだけで、常にこの喉元に切っ先がある恐怖。それを知らずに済むのなら、それも一つの幸せではないのか)
所詮、兄弟というだけの他人だ。
互いの全てを理解できるはずもない。自室に戻り、申請結果を確認した。
理聖様のお話が何なのかわからないうちは申請取消も躊躇われる。
理央に確認を取るべきか。
いや、話を聞くのなら吉良か神木だろう。
時刻を確認し、神木のIDに発信した。
『君から僕に連絡があるとは。…理聖様の件かな』
「神木の貴方にはお見通しというわけですね」
『剱は分かりやすいからね』
「……番が決定したのでしょうか」
『そんな話は神木もきいていない。恐らくは理央の様子見だろう。理央が本家に顔を出すわけにはいかないからね』
無意識に詰めていた息を吐く。
「…そうですか」
『君の方はどうだ』
「理央様がいらっしゃらないだけでこれ程虚しくなるとは思いませんでした。お側に置いていただけるだけで幸せなのだと、…身に沁みました」
『…そうか』
「二条の解除は三日程で済むとのことです。司の方は問題ありませんか」
『今のところ問題無い』
「有り難う御座います。お手間をかけました。それでは」
『ああ、近いうちに』
通話を切り、暗くなったディスプレイを眺めた。
七歳のとき、理央に忠誠を誓って以降、一日たりとも主人の元を離れたことは無い。
たった二日で既に精神が擦りきれてゆくようだ。
あの夜空のような、深淵を映しているような双眸が眼裏にちらつく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる