121 / 159
24・苦しいだけだ
1
しおりを挟む「もうすぐ冬季休暇だな、理央」
吉良に大人しく肩を抱かれている理央を眺めることにも、最近は慣れた。
昼食後、珈琲を飲みながらそう言った吉良に、理央が呆れたように笑う。
「だから何だというんですか、令明」
「クリスマスだろう」
「それが?」
「家に来い」
「そういうイベントは女子とどうぞ」
「父も喜ぶ」
「どうせ新年は一族で暁本家に顔を出すことになってるでしょう」
「たまには俺を優先しろよ」
「どうせ貴方と番うことになるんですから今貴方を優先する理由は無いと思うんですが」
「お前も来るか、大和」
理央の言い分を無視して俺に話しかける吉良に苦笑し、目を伏せた。
「俺は理央の望むようにします」
俺は理央の剱だ。
常に主人の側に。
主人の望むように。
主人の命令通りに。
だが優しい俺の主人は、俺に何も命令をしない。
それでも時々、どうしようもなく寂しそうにしていたり、ただ涙を落とす主人の役に立ちたかった。
「何でもない」と答える主人を前に、俺は何も出来ない。
愚鈍な俺は主人の意思を察することも出来ず、自分がただの役立たずであることを自覚する毎日だった。
※
冬季休暇初日、ここの所多忙だったらしい紫香楽の訪問があった。
「体調はどうですか、理央様」
「…変わりねーが」
初めてのヒートを迎えて以降、定期的に訪れる紫香楽に、理央はうんざりとした様子で答えた。
その様子に紫香楽が苦く笑う。
「…ではこれまで通りの処方で大丈夫そうですね」
「あぁ」
「近いうちに病院の方へ足を運んでいただけますか。ヒート周期も安定したようですし、バース性特化の検診をしたいので」
「…必要か、それ」
面倒臭いというように顔を顰めた理央に穏やかに「必要です」と言う紫香楽の横顔にはほんの僅かな不安が見てとれた。
理央が「分かった」と投げやりに頷いてシャツの釦を掛ける。
「紫香楽と俺に紅茶を淹れてくれ、剱。セイロンのシルバーチップ」
「はい」
こうして従うことのなんと容易なことか。
主人の心のうちの全て、それが分かれば全てを叶えてみせる。
厨房で葉をティーメジャーに取りながら、そんな下らないことを考えた。
ティーカップが温まるのを待ちながら親指の腹で口端を撫でる。
最近は打たれていない。
打たれていた頃の方が良かった。
打たれることで俺は理央の激情の捌け口になれる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる