虚口の犬。alternative

HACCA

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24・苦しいだけだ

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「もうすぐ冬季休暇だな、理央」

吉良に大人しく肩を抱かれている理央を眺めることにも、最近は慣れた。

昼食後、珈琲を飲みながらそう言った吉良に、理央が呆れたように笑う。

「だから何だというんですか、令明」

「クリスマスだろう」

「それが?」

「家に来い」

「そういうイベントは女子とどうぞ」

「父も喜ぶ」

「どうせ新年は一族で暁本家に顔を出すことになってるでしょう」

「たまには俺を優先しろよ」

「どうせ貴方と番うことになるんですから今貴方を優先する理由は無いと思うんですが」

「お前も来るか、大和」

理央の言い分を無視して俺に話しかける吉良に苦笑し、目を伏せた。

「俺は理央の望むようにします」



俺は理央の剱だ。

常に主人の側に。

主人の望むように。

主人の命令通りに。



だが優しい俺の主人は、俺に何も命令をしない。



それでも時々、どうしようもなく寂しそうにしていたり、ただ涙を落とす主人の役に立ちたかった。

「何でもない」と答える主人を前に、俺は何も出来ない。

愚鈍な俺は主人の意思を察することも出来ず、自分がただの役立たずであることを自覚する毎日だった。







冬季休暇初日、ここの所多忙だったらしい紫香楽の訪問があった。



「体調はどうですか、理央様」

「…変わりねーが」

初めてのヒートを迎えて以降、定期的に訪れる紫香楽に、理央はうんざりとした様子で答えた。

その様子に紫香楽が苦く笑う。

「…ではこれまで通りの処方で大丈夫そうですね」

「あぁ」

「近いうちに病院の方へ足を運んでいただけますか。ヒート周期も安定したようですし、バース性特化の検診をしたいので」

「…必要か、それ」

面倒臭いというように顔を顰めた理央に穏やかに「必要です」と言う紫香楽の横顔にはほんの僅かな不安が見てとれた。

理央が「分かった」と投げやりに頷いてシャツの釦を掛ける。

「紫香楽と俺に紅茶を淹れてくれ、剱。セイロンのシルバーチップ」

「はい」



こうして従うことのなんと容易なことか。



主人の心のうちの全て、それが分かれば全てを叶えてみせる。

厨房で葉をティーメジャーに取りながら、そんな下らないことを考えた。

ティーカップが温まるのを待ちながら親指の腹で口端を撫でる。

最近は打たれていない。

打たれていた頃の方が良かった。

打たれることで俺は理央の激情の捌け口になれる。

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