127柱目の人柱

ど三一

文字の大きさ
35 / 640
御殿編

最期の願い

しおりを挟む
主様がナジュの部屋を訪れると、ナジュは股右衛門に取り敢えず身なりを整えられ、主様を迎える為、下座に座らされていた。手には変わらず鏡を持ち、俯いている。

「……」
「息災であったか…?」
「……」
「お、おい…返事…!」

ナジュの後ろに控えていた股右衛門が、心ここに在らずなナジュの肩を揺らし返事を促した。股右衛門の手がナジュに触れると、主様はそれが少し気になったようで、神通力を使って御蔭に股右衛門のことを聞いた。

ー股右衛門は、ナジュの側近となってから…どの様に接している…?
「……友とはいきませぬが…軽口を叩く程、かと」
ーむぅ…

主様は股右衛門が羨ましくなった。股右衛門が時折ナジュの名前を呼ぶのを聞き、気分は良くない。

「………変わりない」

ようやくナジュが返事を返すと、股右衛門はふうと息を吐いてまた平伏した。

「……」
「ずっと鏡を手放さぬと聞いたが、後悔しているのか?呪殺した事を…」

主様は、そのせいでナジュが意気消沈しているのかもしれないと思っていた。

「……後悔はしていない、胸がすく思いだった」
「……」
「ならば、何故ずっと鏡を見ている?」

ナジュは漸く顔を上げた。ここ、天界では腹も減らず、眠りも必要としない。連日連夜眠りを遠ざけても死に至る事はない。しかし、呪殺する前のナジュと、その顔つきは違っていた。

「……まだ恨みは尽きない。1人2人では足らない」
「……」
「…駄目だ、それだけは。お前が壊れてしまう」

主様は座布団から腰を上げると、ナジュの側に近寄り、鏡を持つその手を自らの手で包んだ。

「……!」
ー私と共に暮らそう…!下界で抱いた恨み辛みは下界に置いて…私と、心安らかに時を過ごしてくれ…!お前の傷付いた魂は、これから私が癒すよう大事にする…。縛られてはだめだ…!
「共に暮らそう。下界での想いは捨て、私と心穏やかに悠久の時を過ごそう。恨みなど持っていても、それに縛られるだけだ」

主様の暖かな手は、ナジュの手を温める。しかしナジュはその手を握り返さない。白布を見て、主様の想いとは反する望みを口にした。

「……もう、俺に望みを叶える力が無いなら、もう…終わらせてくれ」
「……?」
「終わりとは」
「……俺の命は既に尽きた。後は地に潜り眠るだけ…他の屍と同じように」

主様は強く手を握りしめた。

「……!」
ー元の亡骸に戻ると言うのか…!?それは、嫌だ…!私はお前と、愛を育みたくて…!
「だめだ、それだけは」

主様の言葉の途中で、御蔭が言葉を伝える。その先を伝えたくなかったからだ。

「…なあ、元に戻してくれ。悲願を成就できないなら、これが最後の望みだ」

ナジュの手が初めて主様の手を握り返す。瞳は悲しく濡れ、主様を激しく動揺させる。悠久を仲睦まじく過ごす伴侶になって欲しいと、眠るナジュに溢した望みは、今途絶えようとしていた。

「…!」
ー嫌だ!
「許可できない」

御蔭は主様の嘆きを、勤めて冷静に形式張ってナジュに伝える。もし、主様が自らの言葉の熱でナジュに伝えられていたならば、この先は安らかな未来に繋がっていただろう。

「…頼む」

頭を下げるナジュに狼狽える主様。御蔭は頃合いを見て、ある提案を伝える用意があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...