127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

菊花錠の間

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色別組分けにおける黄色の集合場所である“菊花錠の間”を目指して宿舎を出たナジュは、学舎案内に記された地図を頭の中に思い浮かべながら歩いていた。地図上では学舎に入って一度曲がったら後は直線に進めばいいだけであったが、菊花錠に接する廊下の途中で“改修中”と記された看板が通せんぼしていた。看板の後ろには幕が張ってあり、その先がどうなっているのかはわからない。仕方なく道を戻り迂回する事になった。

「改修してるのは、確か…“梅花錠の間”の辺りか。幕がどこまで続いているのか知らないが、元の道に戻ればいいだけだから迷いようがないな」

昨夜地図で集合場所への道や途中の部屋の名前などを確認した為、およそどの位置に曲がり角が出てくるか、どの程度の距離感か把握済だ。色分けによって指定された集合場所同士はかなり距離があるので、人数の少ない色は他の講義での移動と違い、静かな学舎の中を一人歩く事になるだろう。それを考えると、ナジュは少しだけ寂しさを感じていた。道を確認するための独り言も、静かな空気の中を反響する事無く消えていく。本来通る予定だった廊下から一本隣の廊下を歩き、梅花の間が横にある辺りまで来ると、隣り合う部屋の壁の向こうから何やらコンコンと叩く音がした。

「今の時間に直してるのか。迂回しても大した距離じゃないが、早く改修が終わればいいな」

先程看板の前に立った時には作業の音が聞こえなかったが、ナジュが反対側に来る頃合いから開始したらしい。元の梅花錠の間を見た事が無いので、直す前に内装を見ておきたいと思ったが、勝手に侵入したら作業の邪魔をしてしまう可能性がある。音が消えた時にでも幕の中を覗きに行ってみようかなど考えながら曲がり角を経て暫し歩くと、元の廊下に出た。梅花錠の間の方を振り向いて見ると、来た道と同じく看板と幕が掛けられていた。どうやら梅花錠の間の少し手前から一つ奥の部屋の真ん中頃までが幕で覆われていたようだ。かなり広い範囲の改修だな、と思いながら菊花錠の間へと向かう。目的地の近くまで来ても他の神様候補の姿は見えない。

「おっここだな…“菊花錠の間”」

その一室は、その名の通り菊を主題として様々な装飾がなされていた。部屋の中へ通じる中央の扉には、菊花紋様があしらわれた錠前が掛けられている。扉の左右は下が薄緑色の壁、その上が障子。風流な菊の木枠が目を惹く。扉の左右前には実物の菊が生けられており、全て黄色だ。色別組分け講義に合わせて用意したのだろうか。

「随分立派な……こんな高そうな部屋で術の練習していいのか?傷ついたり燃えたりしたら勿体無いと思うが…」

錠前は扉の取手に取り付けられており、しっかりと施錠されている。ナジュは菊花錠を手に持ち、どうやって中に入ったらよいか考え始める。

「叩いても開くわけないし……引っ張っても……うん、とれねえな。師が来るのを待つか、もしかすると鍵を探さなきゃいけないって事……か?」
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