127柱目の人柱

ど三一

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学舎編 一

麗らかな

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春の庭。学舎が開いていない時期でも専任の庭師が手入れを欠かさず行い、いつでも来訪者の目を楽しませられるように工夫がなされている。発色の良い紅色の梅の花、気品ある紫が連なる藤棚、庭師の知らぬ間に春の庭に辿り着き、根をおろした蒲公英。数種類の桜の花弁が風に吹かれてそよそよと舞い、庭に敷かれた赤布の柄となる。学舎の春の庭で行われる花見は野点茶会の形式であり、ナジュより先に到着していた師と神様候補達がずらりと並んで座り、麗らかな日差しの中、静かに花を愛でながら茶と菓子を楽しんでいる。ナジュと柳元もその集団の一員となるべくこの庭に訪れたのだが、長閑な景色とは馴染まない硬い表情をしていた。庭先に控えていた使用人に二人に履き物を脱ぐ場所を案内され素直に着いていったものの、二人の足取りは重い。その理由は共通していた。

「おいおい…な、なんだか、やけに静かだよな?それに、席に着いたら茶を運んできてくれるって話だったけど、座ってる奴らが茶を用意してるぞ…」
「あっしの経験してきた花見は、こう……もっと喧しくて、仲間内で馬鹿話に興じたり、意中の相手を口説いたり、見かけた好い人に声かけて引っ掛けようってェ腹積もりの野郎どもがうろついていたりとか……うゥん~…こりゃァちょっと真面目すぎる花見だねェ…」

二人のひそひそ話が耳に届いていた使用人は、花見が始まってからの事を丁寧に説明する。

「まず、時間よりお早くいらっしゃったのは茂籠茶老様と数名の師の方々、それと従者のような御関係の神様候補二人でございまして。茂籠茶老様達は、学舎の長が同席していると落ち着いて花見を楽しめないだろうと他の方々に気を遣われて、少しお話を楽しまれてからお帰りになりました。神様候補の二人は、暫し二人きりで景色を楽しまれた後、他の神様候補や師の方がいらっしゃると席をお立ちになりました。それからの庭は和気藹々といった様子で、茶椀を持ちながら近くで花を眺めたり、お仲間の所に自由に移動されたり。此度の花見は、”作法を気にせず肩の力を抜いて楽しんで欲しい”という趣旨でございますので…」
「綺麗な梅の簪着けた姉さん、あんたから見て…あちらの景色は和気藹々って感じるかィ?」

履物を脱いでいる途中の柳元が、赤布の上に座る人々を指差す。使用人は一瞬其方に視線を遣って、それから柳元の方に薄い笑みを向けた。

「いえ、強いて言えば…”殺伐”でしょうか」
「”さつばつ”…」
「あっしもそう思うよォ…」

風流な景色は絵巻物の一幕のようであったが、そこに登場する人々は麗らかな春の日差しの如き寛容を持ち合わせては居なかったようだ。遠目からでも分かる、この場には不似合いな冷たい空気が、雅な登場人物たちの間に漂っている。彼らに接近した為、庭に足を踏み入れた時点では聞こえてこなかった遣り取りが聞こえてくる。履物は脱いだが、この先に進みたくないという気持ちは二人とも一致していたようで、特に約束を交わした訳でも無く二人その場で棒立ちになって立ち止まった。
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