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学舎編 一
濃い既視感
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五将戦が終わり、中堅戦、三将戦と続き、副将戦、大将戦と何事も無く進むはずであった勝負。号左が不穏な兆しを感じ取ったのは、中堅戦が始まる前、花札による順番決めを行う時であった。各陣営の中堅が列から前に出て簡単な挨拶をした後、厨房係が二枚の花札を二人の前に並べる。当然裏返しにされており、絵柄は誰にも見えていない。どちらの札を選ぼうか、二人は同じように悩む時間があった。
「こういう時、物が透けて見える術なんかがあればな…」
「はは、そのような便利な術が使えたならば丁半博打で負けは無くなるな!」
麒麟陣営の中堅は膝に手を置いて花札を眺め、雁尾陣営の中堅は花札の手前に手を置いて覗き込むような体勢で考えているようだった。最初はその様子を何となしに眺めていた号左であったが、三度目となるその光景に”濃い既視感”を覚える瞬間があった。順番決めは中堅戦の時点で、四回目。特に変わりの無い、同じような光景が繰り返されている。それ程間も置いていないのに既視感も何もないだろう、と号左は己の過敏な思考に呆れもした。しかし、自分の思考が、既視感という感覚の前に”濃い”と形容した”理由”が些か気になった。
(濃い……濃淡…通常よりも色濃く感じたという事だ。ただ同じ事の繰り返しに、濃い?夢で見た光景が、現実のものとなった時…とは違うような気がする。それ程曖昧ではないんだ、この感覚は。おぼろげな記憶を浚う…というよりも、しっかりと考えて”濃さ”の正体を推察しなければならないような……)
違和感を覚えたその時には答えが出せなかった。中堅戦の順番は、麒麟陣営が先攻を引き、雁尾陣営が後攻を引いた。結果として勝ち星を得たのは麒麟陣営であった。残り三戦、三将戦と副将戦と大将戦が残り、互いに勝ち星は二つ、黒星二つの接戦。遠くから勝負を見ていたナジュ達も、どちらかに偏った戦いにならなかった事で決着が気になり、興味が持続しているようだ。号左は”濃い既視感”の正体が気にかかり、中堅が茶をたてている時も己の疑問を解消する方に尽力していた。
(ずっと違和感は感じていたんだ。明確な言葉には出来ないけれど……こんなに気持ち悪い感覚が幾つも続くと、考えずにはいられない)
「では、三将…前へ」
悩む号左の目の前で、次の勝負が始まろうとしている。再び同じような状況が繰り返される事は明白だが、今度は景色を”面”で見るよりも、敢えて”点”で見る事にした。相手陣営の三将の所作一つひとつに注目すれば、何か発見があるのではないかと思ったのだ。二人の前に再び伏せられる二枚の花札。どちらが桜かも紅葉かはわからない。
「……」
「さて……ど~ち~ら~に~し~よ~~う~~…か~~~…」
雁尾陣営の三将が、幼い時分に流行った歌遊びを口に出しながら花札を選ぼうとしている。その歌遊びは人差し指を選ぶ対象の間を行き来させる事が常であり、何ら変わった様子はない。
「……!」
しかし、その歌と動きが号左に”濃い違和感”の理由を気付かせた。
「こういう時、物が透けて見える術なんかがあればな…」
「はは、そのような便利な術が使えたならば丁半博打で負けは無くなるな!」
麒麟陣営の中堅は膝に手を置いて花札を眺め、雁尾陣営の中堅は花札の手前に手を置いて覗き込むような体勢で考えているようだった。最初はその様子を何となしに眺めていた号左であったが、三度目となるその光景に”濃い既視感”を覚える瞬間があった。順番決めは中堅戦の時点で、四回目。特に変わりの無い、同じような光景が繰り返されている。それ程間も置いていないのに既視感も何もないだろう、と号左は己の過敏な思考に呆れもした。しかし、自分の思考が、既視感という感覚の前に”濃い”と形容した”理由”が些か気になった。
(濃い……濃淡…通常よりも色濃く感じたという事だ。ただ同じ事の繰り返しに、濃い?夢で見た光景が、現実のものとなった時…とは違うような気がする。それ程曖昧ではないんだ、この感覚は。おぼろげな記憶を浚う…というよりも、しっかりと考えて”濃さ”の正体を推察しなければならないような……)
違和感を覚えたその時には答えが出せなかった。中堅戦の順番は、麒麟陣営が先攻を引き、雁尾陣営が後攻を引いた。結果として勝ち星を得たのは麒麟陣営であった。残り三戦、三将戦と副将戦と大将戦が残り、互いに勝ち星は二つ、黒星二つの接戦。遠くから勝負を見ていたナジュ達も、どちらかに偏った戦いにならなかった事で決着が気になり、興味が持続しているようだ。号左は”濃い既視感”の正体が気にかかり、中堅が茶をたてている時も己の疑問を解消する方に尽力していた。
(ずっと違和感は感じていたんだ。明確な言葉には出来ないけれど……こんなに気持ち悪い感覚が幾つも続くと、考えずにはいられない)
「では、三将…前へ」
悩む号左の目の前で、次の勝負が始まろうとしている。再び同じような状況が繰り返される事は明白だが、今度は景色を”面”で見るよりも、敢えて”点”で見る事にした。相手陣営の三将の所作一つひとつに注目すれば、何か発見があるのではないかと思ったのだ。二人の前に再び伏せられる二枚の花札。どちらが桜かも紅葉かはわからない。
「……」
「さて……ど~ち~ら~に~し~よ~~う~~…か~~~…」
雁尾陣営の三将が、幼い時分に流行った歌遊びを口に出しながら花札を選ぼうとしている。その歌遊びは人差し指を選ぶ対象の間を行き来させる事が常であり、何ら変わった様子はない。
「……!」
しかし、その歌と動きが号左に”濃い違和感”の理由を気付かせた。
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