ベノムリップス

ど三一

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灼熱の祭典編ー前

第67話 リリナグ・サマー・クロス・バケイション

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この豊作祭では主に農場関係者が作る商品を販売している。しかし関係者以外にも一定条件を満たせば出店の許可が与えられる。前提条件の一つはリリナグ農場、牧場産を使用した商品を扱っている事。もう一つは商品に使用されている物の産地を明らかにする事。例えばヴェルヴィ農場で採れた作物の場合は、農場名、生産者名を表記する必要がある。他の諸々の条件をクリアした店ならば、大農場より手前のスペースや協力先の農場保有地にて出店することが出来る。

ニスが限定品を手に入れリュックに仕舞っていると、ギャリアーはスパイスの調合についてスミに聞いていた。

「うちでスパイスの原料を白さんの店に提供してるんですよ。調合はこっちでやってないです」
「そうか、ならこっちの店員さんに聞いた方がいいか…うーん」

少し考えた後、商品の整理をしている乾物屋の店員に相談する。店員はギャリアーが話す珍しい依頼に耳を傾けた。

「……」
「じゃあ、今週中には用意できるのか」
「……」
「ああ、フローラルと爽やかなのと、そうだな……このスパイス、これで香りを作れないか?」
「……」
「第2週の初めに取りに行くから数種類頼んだ」
「…」

ギャリアーは何とか意思疎通を図り、製作に使用する草花や種を混ぜ合わせて調合した物を依頼した。ニスの求めた限定スパイスの香りを確認した所、芸術祭に向けて製作している作品に利用出来そうだと思い、店員と話をつけた。

「随分聞いていたようだけど、気になる物でもあった?」
「ああ、このスパイス…スミと白装束の店員に頼んで特別な品を用意してもらう事になった。…面白いのが出来そうだ」

2人は店を後にすると、今度はギャリアーの目当てのヴェルヴィ農場に向かう。そこでは姉シドが店番をしている筈だと弟のスミが話していた。


「木の注文なんて、珍しい…」
「そうだな、普段はガラスとか金属、鉱石が多いから」
「芸術祭の為?」
「いや、それとは違うんだ。手紙で注文が入って…」

ギャリアーは数日前に届いた依頼状の話をニスにする。

それは祭典開催のセレモニーの翌日の事であった。店の開店と同時に、郵便屋がギャリアーの店を訪ねて来た。

「ギャリアーさん、特別郵便だよ」
「特別…?誰から?」

郵便屋はショルダーバッグから一枚の封筒を出してギャリアーに渡す。表にはギャリアーと宝飾店の名前、裏には蝋で封をされている以外に誰とは特定できる情報は無かった。

「コチラも受け取って欲しいって」

次にバッグから出して来たのは厚みのある封筒。振るとがさがさと音がした。

「依頼内容は中に書いてあるから、その封筒の中身で足りなかったら、その依頼状を持って後払い特別郵便で必要な額を指定してくれれば送る、らしいよ」
「こっちの封筒…金か?」
「そう、特別郵便現金送付。それと、そっちが特別郵便差出人秘匿。本人が郵便局で手紙を書いて、そっちの現金封筒の中に金を入れたのも確認済み。身元と中身の安全は郵便局が保証します」

ギャリアーは初めて聞く郵便の種類と、それを利用して依頼された事は初めてだったので、少し恐怖を感じていた。

「…もし、依頼を断る場合は?」
「同じ。その封筒を持って後払い特別郵便を指定して、窓口に来てくれればいいよ。現金の事については、断る場合は出資だと思って受け取って欲しいって。中に書いてあるよ」
「……何だか、不思議な依頼人だな」
「じゃあ、ここに受け取りましたってサインしてね。特別郵便だから、本名全部書いてね」

ギャリアーは言われた通りにサインをすると、郵便屋はまたどうぞと言って店から去っていった。1人になったギャリアーは、工房に戻り、工具箱から鋏を取って封筒の端を切った。

封筒の中には一枚の紙が入っており、もう一方の現金封筒には、大物を製作した時の料金より少し多目の金額が入っていた。

「どうするか……」

ギャリアーは不気味に思いながら、手紙を読んでみる事にした。

親愛なる技師     殿へ、始まりはそう綴られていた。

「彫刻を製作して貰いたいって依頼でさ。素材はこっちに任せる、料金は足りなかったら郵便で知らせてくれ、テーマは問わないが、モチーフは人間にして欲しい、と指定があった」
「不思議……でも、この話…他の人に話して良いの?誰からの依頼か隠しているのに…」
「ああ、それは大丈夫だ。中の紙に郵便屋も知ってるし、素材を仕入れる時に事情を説明する必要もあるだろうから、依頼主が誰かの追求をしないでくれればいいってさ」

ニスは首を傾げた。聞けば聞くほど秘密にする意味がわからない。

「受け渡しは?」
「出来たら郵便局に知らせて、後日運送屋を送るってさ。破格の依頼だが、ちょっと怖いよな…」

ギャリアーは一体誰が?と考える。このリリナグに来てから、中央に居た時、記憶を浚ってみてもその正体の端すらわからない。

「多分…かなり前の顧客なのかな……?いつの間にか身分を明かせない職業になってたのか…?」
「それで木を?」
「ああ、素材は任せるって事だからな。一応木の作品にするつもりだけど、他にデザインに適した素材があれば別の素材に変えるかもな」

ギャリアーはヴェルヴィ農場にて、木材の依頼をしに行った。姉シドは顔が広く、以前商品用の木材が必要だったら声をかけてくれと、言っていたと運送屋から言伝を聞いた。農場は中々盛況で、乾物屋店員と弟スミが販売していた作物も商品として種類ごとに並べられていた。無事に話を終えた2人は次の目的に向かう。

「次はあいつの花探しだな」
「花を販売している農場は色々あるみたいね」
「時間はあるから、道中覗いて行こう」

2人は視界に花の姿を見つけると、ふらっとその農場に立ち寄り扱っている花を眺めて、どれが良いかと相談した。



「おい、俺は待機所で休憩するつもりだが」
「ちょっとくらい付き合えよ、別に酒でも飲まそうってんじゃないんだから。それに、退勤の時間になったら、余りモンしかなくなっちまうぞ?今の内だって」
「…まあ、確かにそうだが」
「お前、制服で直行直帰って言ってたよな?汚れたら面倒だし……お、アレとかいいんじゃねえか?」

ハナミが指差したのは、リリナグ農場の作物を使用した商品だった。グンカはその商品とハナミと自分を見て、不服そうな表情をした。

「俺はああいうのは好かん、お前の好みだろう?」
「絶対違和感ないって!ちょっと弄ればそれっぽくなるよ」

ハナミは商品を手に取り、乗り気ではないグンカの背を押して店に入っていく。店中には違うテイストの商品も展示されていたが、「せめてこちらにしよう」と言うグンカの言葉は無視してハナミは店員に話をして、それから会計を終えると、商品に付いたタグを切ってくれるように頼んだ。その店での用事を済ませると、2人は連れ立って炎天下に足を踏み出す。

「俺もサングラスも買えばよかったかなぁ……なあグンカ」
「……お前の言うとおりの格好をしたが……どう見てもチンピラだろう、全く」

グンカは脇に制服一式と制帽を持ってシャツの胸元を扇いで、汗をかいた肌に風を呼び込む。ハナミがグンカにと選んだ服は、自身と似たようなスタイルの柄シャツと細身のズボン。後ろに撫でつけ制帽で抑えられていた髪を自然に戻して更衣室を出てくると、店員は素敵と言って人形に飾ってあったサングラスをグンカに勧めた。必要無いと断ったが、一式買ってくれたおまけだとグンカの着たシャツの胸元につるを入れて、「ありがとうございました」と礼をされた。

「制服邪魔だろ?置いてこいよ」
「こんな格好で戻れるか…!」
「それは似たような格好で待機所に顔出した俺に失礼だぞ」

グンカは店で貰った袋に制服一式を詰めて持った。人混みに紛れてはいるが、近くには警備隊員達が来場客の誘導をしている。あまり姿を見られたく無いと、胸に下がったサングラスを装着した。そして念の為に髪をさらに崩して前髪を下ろす。それを見たハナミは、「別人だな…」と呟いた。

「……」
「どうした、キョロキョロとして」
「ユンだけには見つからんようにせんとな…見つかったら今週一杯はそれをネタに揶揄われる」

グンカはまるで疚しい事がある容疑者のように、ユンの明るい桃色の髪が視界に居ないか探している。実はもう一色の髪色も探していたが、今は桃色が危険色である。

「そういえば、ユンちゃんって双子なんだろ?危険は2倍じゃねえのか?」
「ランはそんな巫山戯るような事はしない。常に冷静に、真面目に職務にあたっている。私生活は知らないが、品行方正、節制…であろうな」
「真面目な良い子って事ね」
「優秀な部下だ」

グンカは人混みの中を器用に避けて先に進んで行く。

「ふーん…ランちゃんとは仲良いんだ」
「仲?まあ、特にトラブルなどはない。世間話位はする」
「…可愛い?」
「ユンと同じ顔だが、凛としているというイメージだな。2人とも性別を問わず慕われている」

ハナミは、先ほど質問した時と違い随分流暢に話すものだと思った。

「ユンやランと同じ勤務になるように、依頼された事もあるが、俺は特に干渉せん。お前がもし、ユンやランに興味があるならば、自分で…」
「恋愛不干渉か?」
「当人同士の問題だからな。だが、トラブルになるような行動は慎めよ」

グンカはハナミの指定した店に向かって早歩きで歩いていく。その足取りは軽快で、部下についての良い情報を伝え淡々と警告する。部下と上司、それ以上の関係ではないようだとハナミは判断した。すると余計に怪しまれるのが、情報を出し渋っている相手の事。案外、正直で実直なこの男は、こういった方面では素直になれないらしい、というのがハナミの見立てだ。

(これからする質問は、意地悪とかじゃなくて…俺自身の好奇心。それと詳細な情報を得る為のきっかけにもなる。あの家の住人の報告書には、どうも気になる部分が多い)

ハナミは前を歩くグンカと距離を詰める。そして開けた場所に出た時、肩を組んでその歩みを止めた。

「個人の恋愛には干渉しない。じゃあ…お嬢さん口説いてもいいよな…?」
「……」

グンカはハナミの方に顔を向けた。どんな表情をしているだろうかと期待したが、奇しくもサングラスに太陽の光が反射してその瞳の彩りも感情も読み取れなかった。ただ、答えは言える筈だ。

「俺、小麦色の肌…結構好み」
「……」

食卓で日焼けの跡を見せる姿。数日掛けて、赤くなった肌が徐々に色濃くなってゆく。

「赤い髪も綺麗だしなぁ…」
「……」

風呂上がりに、頭の上で縛られた髪が揺れていた。首の後ろが暑いからと言っていた。

「……白いシーツに映えそうだ」
「……」

いつだったか、グンカの腕に額を付けて眠る姿。牢獄で一日中壁を見ていた、黒い縁取りのあった暗い目は、今や隣で夢を見ている。

ハナミの一言一言が、グンカの中の記憶を呼び起こし、再生する。そして最後に脳が引っ張り出してきたのは、今日の記憶。手を繋いで寄り添う2人の姿。それの再生を終え、グンカは釈放した後の自分の姿を思い出した。

(手錠で繋いでいた時、同じような事があったな…。ああ、買い物に出かけた時も…)

グンカの考えの終結を待たず、ハナミは答えを急かす。

「いいよな…?リリナグ警備隊隊長殿…?」

棘のある言葉だった。直接的に釘を刺そうという訳ではなく、荊でその内面に潜む物を縛り付け、抑制しようという目的が見え透いている。

グンカは答えとも言えぬ答えを口にした。

「お前では、あいつの目に叶うまい」
「む……」

ハナミは不敵に笑う口元に、揶揄っているのか?と思ったが、初めて本心らしい答えが返ってきたのを逃すまいと、畳み掛ける。

「じゃあ、お前ならお嬢さんといい仲になれるって事か?」

グンカは静かに首を振る。口元の笑みは薄くなっていた。

「あいつは……ああいう相手を選ぶのだろう」

グンカの目線がハナミからその背後へと移動する。ハナミはすぐさま後ろを振り返り、雑踏の中からグンカが示した相手というのを探す。簡単だ、赤い髪を探せば良い。鋭い視線を180度行き来させるが、その姿は見つからない。必死に探しているハナミの様子が背中を見ていても手に取るようにわかった。グンカはもう少しハナミにヒントを与える事にした。

「居るだろう?麦わら帽子が2つ並んで、先頭の男の明るい髪色が」
「………あ…!」

ニスとギャリアー、2人が前後になって歩いていた。離れないように腕を組んで。

「…いつの間にか、事になっていたのかもな」

雑踏の中、グンカの声は掻き消されていった。




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