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灼熱の祭典編ー後
第98話 決戦!リリナグカップ
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飲食店組合火炎バイキングスと漁業組合魚影ウェイブス。両者は快晴の空の下、リリナグカップの優勝の座を争う。試合開始の宣言がされると、互いのチームの監督はオーダー表を交換する。火炎バイキングスの監督は老舗レストランのリストランテリリナグ総料理長カズラ、対する魚影ウェイブスの監督は第8リリナグ丸船長ガナル。ニスの働いている船の船長ナガルの父である。握手をしてそれぞれの陣営に戻ると、さっそく相手のオーダーを確認して参謀役に渡した後、円陣を組む。
こちらは火炎バイキングス。監督の周りに選手が集まった。
「大方の予想通り魚影ウェイブスが順当に勝ち上がってきた。相手のレギュラーは投手含め全員がスラッガー…当たれば飛ぶというやつだ。しかし、大振りの影響でミート力は高くない。この決勝戦は投手が鍵だ。バックの皆も守備で支えてやってくれ」
「奴等は毎試合大量得点で勝っている!だが、上手く翻弄して打ち損じてくれれば、ウチの鉄壁の守備で抑えられる!練習を思い出せ!」
三塁コーチャーのウォーリーも選手達を鼓舞する。
「相手のピッチャーは豪速球を投げる。皆恐れずに球筋を見極めてくれ。ウォーリー、掛け声を頼む」
「それじゃあ……アイツらをフランベしてッ最高のメインディッシュにしてやろうぜ!!行くぞ!!」
おおー!と高らかに声が上がると、観客達はいよいよだと期待に包まれる。
「チャム…どうだ調子は?」
「絶好調です。試合前の練習をご覧になったでしょう?バットに球が吸い付くようです」
「最高の仕上がりのようだな。1週間足らずでウチの4番を勝ち取ったスラッガーだけある。この試合はお前の前に何人走者を出せるかが重要だ。いいか、お前が打つのは当たり前として考えている。頼むぞ」
「はい!」
チャムは剣呑な眼差しで守備につく相手チームのピッチャーを射抜く。
「豪速球……相手にとって不足なし!」
「ああ~チャム…怪我だけはしねえでくれ…」
三塁の側に立つウォーリーは、誰も怪我なく無事に試合が終わるようにと天に祈った。
こちらは魚影ウェイブス。監督ガナルの捩じり鉢巻きは既にぐっしょりと濡れている。
「流石の戦略家…総料理長の地位は伊達じゃない。試合中も常にデータを取られていると思った方がいい。だが!!それでも我々は勝つ!!この荒波に揉まれた肉体で!!」
各陣営熱のある発破をかけている所、漁業組合のレギュラーの1人がベンチで具合悪そうにしていた。父にサブメンバーとして連れてこられたナガルと手伝いとして駆り出されたニスは、その選手に水を渡したり扇いだりして様子を見ていた。
「ナガル…この人、とても具合が悪そうだけれど…」
「あちゃ~……まだ無理そうかい?」
選手は弱々しく頷き、腹を押さえて顔を青くしている。何でも酷い下痢で一晩中便所に引きこもっていたらしい。一番苦しい時は越えたようだが、まだ具合は回復していない。救護係を呼んでこようかと話していると、監督がテントに来て選手に体調の確認をする。
「すみません監督…カキに…当たっちまって…」
「そんな状態で良く来てくれた。大丈夫だ、お前はゆっくり家で休んでくれ。そこにお医者様達も居るから、診て貰ってから帰るか?」
「いや、安静にしていればその内治るよ……俺は回数こなしてるから解るんだ」
「そうか…家近くだったよな?一人で帰れるか?」
「ああ…窓から皆の事応援してるよ」
監督は早速1人選手が居なくなり、誰を試合に出すか思案する。
(どうする…奴は不動のレフト……他のポジションからコンバート出来れば良いが、ウチは守備がザル……そのポジションじゃないと出来ない奴ばかりだ。ナガルを出すか?いや、駄目だ…貴重な左腕を消耗する訳には…)
「おっ結構良いスイングするじゃん、ニス」
「チャムにバッドを借りて…最近素振りしていたの…」
ニスとナガルは予備のバットで素振りをしていた。ナガルとしてはレギュラーピッチャーで勝負は決まると思っているので、運動がてらバットを振っていることにした。ニスの、風を豪快に殴るようなスイングの音に、監督としての血が疼いた。
「ニスちゃん…レフト出来るか?」
「え…?」
監督としての方針は、「兎に角遠くに飛ばせば良い」。この際守備が出来なくても、豪快にスイングしている選手の姿が見られたならばそれでいい。というか好きに打てばいい。監督は審判に急病による選手の交代を申し出る。因みに、リリナグルールでは何度も選手の交代は可能で、少し休ませて再出場も出来る。アナウンス役がメガホンで観客、相手チームに選手交代を告げる。
「魚影ウェイブスのレフトの選手が急病の為、選手の交代をお知らせします。8番レフト、ニス」
始まるのを今か今かと待ち侘びていたユンは、ビールの売り子に手を挙げてビールを買いそうになっていたが、その言葉で正気に戻る。
「え、ニス?」
魚影ウェイブスの応援団は、鳴り物と拍手と掛け声で新たな選手を迎える。ニスは魚影ウェイブスのユニフォームを着てレフトに入る。スタンドからも束ねられた赤い髪がよく見えた。
「ニスー!頑張るんだよー!」
ベンチからナガルがニスを応援する。ニスはそれに帽子を取って応えた。
いざプレーが始まると、双方の予想通り魚影ウェイブスのピッチャーの豪速球に火炎バイキングスのメンバーは手が出ず、まぐれ当たりが守備正面に転がり早々に攻守が入れ替わった。チャムは自分まで出番が回らず、はやる気持ちを素振りに乗せて空を殴った。
「落ち着け、まだ皆目が慣れていないだけだ。あの力み具合では最終回まではまず保たん。誰が控えとして出てくるかわからんが、勝機は必ず来る」
「くっ……はい…!」
チャムは泣く泣くバットを置いて守備についた。チャムは三塁担当だ。ピッチャーの出来の良さに調子付いた魚影ウェイブスの1番が打席に立ちアナウンスされる。
「先ずはストライクを取りにくるだろう。思い切り振っていけ!」
そう指示された選手は、投げられたボール目掛けてフルスイングで迎え打つ。球はど真ん中にストレート、ガキン!といい音がして、選手はバットを投げて走り出す。
「!!…読まれたッ」
早めにカウントを取りたい、その気持ちを見透かされていた。チャムは空を見上げて球の行方を追う。天高く舞い上がった白球は、角度が高すぎて飛距離はそれ程伸びなかった。センターが僅か数メートル移動して、そのグラブに収まった。火炎バイキングス陣営はふうとため息を吐いた。角度が良ければ点数が入っていた。
「あ、危ねぇ~!!」
ウォーリーがドクドクと脈打つ自分の心臓を抑えて悲痛な声を上げる。スタンドに居る火炎バイキングスを応援している観客も同様である。監督カズラは、冷や汗をかいているウォーリーを見て、静かな声で言葉を発する。
「…ウォーリーよ。魚影ウェイブスとのこの試合、この様な場面が続くと覚悟しろ。我々は肝を冷やしながら弱気と闘い、肉体に宿る勇気を振り絞るのだ」
三塁コーチャーのウォーリーは、その言葉を聞いて丹田に力を入れて応援した。
「ナイスプレーーー!どんどん打たせて取ろうぜ!」
応援団も味方のプレーを盛り上げる。こちらも綺麗に3人の打者を仕留めて攻撃に移った。
「…あんまり、こちらに球が来ないわね」
火炎バイキングスの攻撃になり、最初の選手が何とかバットに球を当てると、丁度一塁の選手の前に転がり事なきを得る。バッターのチャムは悔しそうに一塁まで走って、「くそっ!!」と声を出す。どうやらチャムがチームで1番のバッターらしいという事がレフトのニスにもわかった。
「借りたバットがボコボコだったのは…練習していたからかしら…?」
「ニス!そっち行ったよぉ!!」
ナガルの声に地面と空を見た。白球は地面をバウンドしてニスの方に向かっていた。監督ガナルは取れたらラッキー位に思っていた。しかし。
「…!」
ニスはグラブに球を収めて素早く一塁に投げた。美しい軌道を描いて飛んでいく白球は、一塁の選手が構えるグラブの中にすぽっと収まった。その直後わー!と歓声が上がる。どうにか走者が一塁に辿り着くまでに投げ返せた。周りの仲間達にナイスプレーと称えられると、ニスはグラブを振ってありがとうと返す。
「良いじゃないか…!」
「ふふん、だって船員の少ないウチの船の大切な従業員だからね!漁も手慣れたもんで、そこらの素人と比べて貰っちゃ困る訳さァ!」
船長であるナガルが、船員であるニスの功績に胸を張る。
「さあお前達!!苦手な守備でも気持ちで負けんじゃないよ!!点取られたって、取り返せば良いんだ!!」
ナガルは監督のメガホンを奪って選手達に発破を掛けた。選手達も気合の入った檄にテンションが上がる。普段以上の出来を見せて無失点で回を終えた。
炎天下での白熱の試合。選手もチアも観客も、好プレーの連続に大いに盛り上がる。己の限界以上に躍動する選手達の休憩時間に、応援団の演武が披露される。最初は飲食店組合火炎バイキングスの応援団から。
「頑張れー!」
「可愛い~!」
飲食店組合の応援団スプーンアンドフォークは、イトとその友人や有志たちが息の合ったダンスで、火炎バイキングスの選手を応援する。皆揃いの衣装を身に纏い、手作りのボンボンを手に持って、1か月の練習の成果を披露する。イトの父ボビンは、救護係と書かれたゼッケンを着て、同じ救護係の人達と一緒にダンスを鑑賞する。
「うちの娘がチアをしてるんですよ~…ほら、あの小さい子達の中に居る…あっイト~!見てるよ~!」
手を振る父の姿をチラッと見て、手を振り返したい気持ちをぐっと我慢してダンスに集中する。
「あら、近くで見てこなくていいんですか?」
「ええ~…パパは何時でも選手を診られるように、万全の準備をしてと言われましてね~…」
「立派な娘さんだこと。うちの旦那も選手として参加しているんですよ。ほら、漁業組合のベンチに居る…あれあれ!あの太い腕の!」
太い腕が多過ぎて、ボビンは正直誰だか分からなかった。
「おや~…なら、敵同士ですね~」
「ふふ、そうね」
素早く切れのある振り付けで魅了した後は、一斉に側転をして場を沸かせてピラミッドの組体操を披露する。予め決められた場所とメンバーで入念に練習をしていたのでイトは緊張せずに一番上に上ることが出来た。演武の最後にボンボンを天に向けて、全員で決め台詞を叫ぶ。
「GO!GO!火炎バイキングス!」
わー!と盛り上がる会場。イトを始めとした応援団のメンバーは、はあはあと荒く呼吸をしながら最後まで歓声に応える。スタンドの横の方で自分たちの演武の入念な打ち合わせをしていたマービンは、全力で演武をやりきったイト達を見て静かに頷いた。
「気合入っとるようだな」
漁業組合の応援団リリナグマーメイドは、ボンボンを手に持つ飲食店組合の応援団とは違い、人魚の優美さを髣髴とさせる。団員はサラサラとした糸の束を手首に巻きつけて、動きの一つ一つに優雅な鰭を靡かせる。衣装も魚の鱗をイメージした、キラキラと光る素材で表面を覆い、素早く一回転するとふわりとスカート部分が浮き上がり、シャランシャランと音が鳴る。
「次ィ!!魚群の塔行くぞぉ!!」
「ァジッ!!」
チアリーダーの漁師が号令を出すと、筋骨隆々マーメイド達が会場に響く程の元気な返事を返し、塔を形成し始める。一番下には力自慢達が礎を作り、何人もの人魚たちを支え踏ん張る。マービンも一番下を志願して、滝のような汗を流しながら、足腰に力を入れる。
「ふぐぅっ!!!」
マービンの足には衣装の重さと、人魚達の身体にみっちりと詰まった筋肉の重さが乗っている。日々不安定な船の上で仕事をして身に纏い作り上げた筋肉が悲鳴を上げようとするのを、マービンは心の中でァジッ!と叫んで乗り切ろうとしている。チアは応援の為に居る。選手達、仲間達の前で苦しそうな顔は見せていけない。マービンは下がりそうになった口角を無理矢理に引き上げた。
「マービンッ!耐えられるか!?」
マービンは目をかっぴらいてニッと笑い、当然だと言わんばかりの返事をする。
「ァジッ!!」
「行けるってよ!!俺達も気合入れて△×○%#~ッ!!」
マーメイド達はその弾ける様な肉体を躍動させ、見事な肉の塔を己の身体で築いた。会場は拍手喝采。その気迫溢れる演武に飲食店組合応援団のイトも一目を置いた。
「おじさん…やるじゃない」
試合のボルテージは上がり、灼熱の後半戦へと突入していく。ニスの前半はバント職人で終わった。
「データにない選手だな……絶妙な位置に転がしおって…」
魚影ウェイブス監督の指示は飛ばせば良い、だったが、基本的に選手の好きに打たせている。ニスは丁度走者が居たのでバントをしてみると、これが火炎バイキングスには意外だったのか後の走者生還に一役買った。
こちらは火炎バイキングス。監督の周りに選手が集まった。
「大方の予想通り魚影ウェイブスが順当に勝ち上がってきた。相手のレギュラーは投手含め全員がスラッガー…当たれば飛ぶというやつだ。しかし、大振りの影響でミート力は高くない。この決勝戦は投手が鍵だ。バックの皆も守備で支えてやってくれ」
「奴等は毎試合大量得点で勝っている!だが、上手く翻弄して打ち損じてくれれば、ウチの鉄壁の守備で抑えられる!練習を思い出せ!」
三塁コーチャーのウォーリーも選手達を鼓舞する。
「相手のピッチャーは豪速球を投げる。皆恐れずに球筋を見極めてくれ。ウォーリー、掛け声を頼む」
「それじゃあ……アイツらをフランベしてッ最高のメインディッシュにしてやろうぜ!!行くぞ!!」
おおー!と高らかに声が上がると、観客達はいよいよだと期待に包まれる。
「チャム…どうだ調子は?」
「絶好調です。試合前の練習をご覧になったでしょう?バットに球が吸い付くようです」
「最高の仕上がりのようだな。1週間足らずでウチの4番を勝ち取ったスラッガーだけある。この試合はお前の前に何人走者を出せるかが重要だ。いいか、お前が打つのは当たり前として考えている。頼むぞ」
「はい!」
チャムは剣呑な眼差しで守備につく相手チームのピッチャーを射抜く。
「豪速球……相手にとって不足なし!」
「ああ~チャム…怪我だけはしねえでくれ…」
三塁の側に立つウォーリーは、誰も怪我なく無事に試合が終わるようにと天に祈った。
こちらは魚影ウェイブス。監督ガナルの捩じり鉢巻きは既にぐっしょりと濡れている。
「流石の戦略家…総料理長の地位は伊達じゃない。試合中も常にデータを取られていると思った方がいい。だが!!それでも我々は勝つ!!この荒波に揉まれた肉体で!!」
各陣営熱のある発破をかけている所、漁業組合のレギュラーの1人がベンチで具合悪そうにしていた。父にサブメンバーとして連れてこられたナガルと手伝いとして駆り出されたニスは、その選手に水を渡したり扇いだりして様子を見ていた。
「ナガル…この人、とても具合が悪そうだけれど…」
「あちゃ~……まだ無理そうかい?」
選手は弱々しく頷き、腹を押さえて顔を青くしている。何でも酷い下痢で一晩中便所に引きこもっていたらしい。一番苦しい時は越えたようだが、まだ具合は回復していない。救護係を呼んでこようかと話していると、監督がテントに来て選手に体調の確認をする。
「すみません監督…カキに…当たっちまって…」
「そんな状態で良く来てくれた。大丈夫だ、お前はゆっくり家で休んでくれ。そこにお医者様達も居るから、診て貰ってから帰るか?」
「いや、安静にしていればその内治るよ……俺は回数こなしてるから解るんだ」
「そうか…家近くだったよな?一人で帰れるか?」
「ああ…窓から皆の事応援してるよ」
監督は早速1人選手が居なくなり、誰を試合に出すか思案する。
(どうする…奴は不動のレフト……他のポジションからコンバート出来れば良いが、ウチは守備がザル……そのポジションじゃないと出来ない奴ばかりだ。ナガルを出すか?いや、駄目だ…貴重な左腕を消耗する訳には…)
「おっ結構良いスイングするじゃん、ニス」
「チャムにバッドを借りて…最近素振りしていたの…」
ニスとナガルは予備のバットで素振りをしていた。ナガルとしてはレギュラーピッチャーで勝負は決まると思っているので、運動がてらバットを振っていることにした。ニスの、風を豪快に殴るようなスイングの音に、監督としての血が疼いた。
「ニスちゃん…レフト出来るか?」
「え…?」
監督としての方針は、「兎に角遠くに飛ばせば良い」。この際守備が出来なくても、豪快にスイングしている選手の姿が見られたならばそれでいい。というか好きに打てばいい。監督は審判に急病による選手の交代を申し出る。因みに、リリナグルールでは何度も選手の交代は可能で、少し休ませて再出場も出来る。アナウンス役がメガホンで観客、相手チームに選手交代を告げる。
「魚影ウェイブスのレフトの選手が急病の為、選手の交代をお知らせします。8番レフト、ニス」
始まるのを今か今かと待ち侘びていたユンは、ビールの売り子に手を挙げてビールを買いそうになっていたが、その言葉で正気に戻る。
「え、ニス?」
魚影ウェイブスの応援団は、鳴り物と拍手と掛け声で新たな選手を迎える。ニスは魚影ウェイブスのユニフォームを着てレフトに入る。スタンドからも束ねられた赤い髪がよく見えた。
「ニスー!頑張るんだよー!」
ベンチからナガルがニスを応援する。ニスはそれに帽子を取って応えた。
いざプレーが始まると、双方の予想通り魚影ウェイブスのピッチャーの豪速球に火炎バイキングスのメンバーは手が出ず、まぐれ当たりが守備正面に転がり早々に攻守が入れ替わった。チャムは自分まで出番が回らず、はやる気持ちを素振りに乗せて空を殴った。
「落ち着け、まだ皆目が慣れていないだけだ。あの力み具合では最終回まではまず保たん。誰が控えとして出てくるかわからんが、勝機は必ず来る」
「くっ……はい…!」
チャムは泣く泣くバットを置いて守備についた。チャムは三塁担当だ。ピッチャーの出来の良さに調子付いた魚影ウェイブスの1番が打席に立ちアナウンスされる。
「先ずはストライクを取りにくるだろう。思い切り振っていけ!」
そう指示された選手は、投げられたボール目掛けてフルスイングで迎え打つ。球はど真ん中にストレート、ガキン!といい音がして、選手はバットを投げて走り出す。
「!!…読まれたッ」
早めにカウントを取りたい、その気持ちを見透かされていた。チャムは空を見上げて球の行方を追う。天高く舞い上がった白球は、角度が高すぎて飛距離はそれ程伸びなかった。センターが僅か数メートル移動して、そのグラブに収まった。火炎バイキングス陣営はふうとため息を吐いた。角度が良ければ点数が入っていた。
「あ、危ねぇ~!!」
ウォーリーがドクドクと脈打つ自分の心臓を抑えて悲痛な声を上げる。スタンドに居る火炎バイキングスを応援している観客も同様である。監督カズラは、冷や汗をかいているウォーリーを見て、静かな声で言葉を発する。
「…ウォーリーよ。魚影ウェイブスとのこの試合、この様な場面が続くと覚悟しろ。我々は肝を冷やしながら弱気と闘い、肉体に宿る勇気を振り絞るのだ」
三塁コーチャーのウォーリーは、その言葉を聞いて丹田に力を入れて応援した。
「ナイスプレーーー!どんどん打たせて取ろうぜ!」
応援団も味方のプレーを盛り上げる。こちらも綺麗に3人の打者を仕留めて攻撃に移った。
「…あんまり、こちらに球が来ないわね」
火炎バイキングスの攻撃になり、最初の選手が何とかバットに球を当てると、丁度一塁の選手の前に転がり事なきを得る。バッターのチャムは悔しそうに一塁まで走って、「くそっ!!」と声を出す。どうやらチャムがチームで1番のバッターらしいという事がレフトのニスにもわかった。
「借りたバットがボコボコだったのは…練習していたからかしら…?」
「ニス!そっち行ったよぉ!!」
ナガルの声に地面と空を見た。白球は地面をバウンドしてニスの方に向かっていた。監督ガナルは取れたらラッキー位に思っていた。しかし。
「…!」
ニスはグラブに球を収めて素早く一塁に投げた。美しい軌道を描いて飛んでいく白球は、一塁の選手が構えるグラブの中にすぽっと収まった。その直後わー!と歓声が上がる。どうにか走者が一塁に辿り着くまでに投げ返せた。周りの仲間達にナイスプレーと称えられると、ニスはグラブを振ってありがとうと返す。
「良いじゃないか…!」
「ふふん、だって船員の少ないウチの船の大切な従業員だからね!漁も手慣れたもんで、そこらの素人と比べて貰っちゃ困る訳さァ!」
船長であるナガルが、船員であるニスの功績に胸を張る。
「さあお前達!!苦手な守備でも気持ちで負けんじゃないよ!!点取られたって、取り返せば良いんだ!!」
ナガルは監督のメガホンを奪って選手達に発破を掛けた。選手達も気合の入った檄にテンションが上がる。普段以上の出来を見せて無失点で回を終えた。
炎天下での白熱の試合。選手もチアも観客も、好プレーの連続に大いに盛り上がる。己の限界以上に躍動する選手達の休憩時間に、応援団の演武が披露される。最初は飲食店組合火炎バイキングスの応援団から。
「頑張れー!」
「可愛い~!」
飲食店組合の応援団スプーンアンドフォークは、イトとその友人や有志たちが息の合ったダンスで、火炎バイキングスの選手を応援する。皆揃いの衣装を身に纏い、手作りのボンボンを手に持って、1か月の練習の成果を披露する。イトの父ボビンは、救護係と書かれたゼッケンを着て、同じ救護係の人達と一緒にダンスを鑑賞する。
「うちの娘がチアをしてるんですよ~…ほら、あの小さい子達の中に居る…あっイト~!見てるよ~!」
手を振る父の姿をチラッと見て、手を振り返したい気持ちをぐっと我慢してダンスに集中する。
「あら、近くで見てこなくていいんですか?」
「ええ~…パパは何時でも選手を診られるように、万全の準備をしてと言われましてね~…」
「立派な娘さんだこと。うちの旦那も選手として参加しているんですよ。ほら、漁業組合のベンチに居る…あれあれ!あの太い腕の!」
太い腕が多過ぎて、ボビンは正直誰だか分からなかった。
「おや~…なら、敵同士ですね~」
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素早く切れのある振り付けで魅了した後は、一斉に側転をして場を沸かせてピラミッドの組体操を披露する。予め決められた場所とメンバーで入念に練習をしていたのでイトは緊張せずに一番上に上ることが出来た。演武の最後にボンボンを天に向けて、全員で決め台詞を叫ぶ。
「GO!GO!火炎バイキングス!」
わー!と盛り上がる会場。イトを始めとした応援団のメンバーは、はあはあと荒く呼吸をしながら最後まで歓声に応える。スタンドの横の方で自分たちの演武の入念な打ち合わせをしていたマービンは、全力で演武をやりきったイト達を見て静かに頷いた。
「気合入っとるようだな」
漁業組合の応援団リリナグマーメイドは、ボンボンを手に持つ飲食店組合の応援団とは違い、人魚の優美さを髣髴とさせる。団員はサラサラとした糸の束を手首に巻きつけて、動きの一つ一つに優雅な鰭を靡かせる。衣装も魚の鱗をイメージした、キラキラと光る素材で表面を覆い、素早く一回転するとふわりとスカート部分が浮き上がり、シャランシャランと音が鳴る。
「次ィ!!魚群の塔行くぞぉ!!」
「ァジッ!!」
チアリーダーの漁師が号令を出すと、筋骨隆々マーメイド達が会場に響く程の元気な返事を返し、塔を形成し始める。一番下には力自慢達が礎を作り、何人もの人魚たちを支え踏ん張る。マービンも一番下を志願して、滝のような汗を流しながら、足腰に力を入れる。
「ふぐぅっ!!!」
マービンの足には衣装の重さと、人魚達の身体にみっちりと詰まった筋肉の重さが乗っている。日々不安定な船の上で仕事をして身に纏い作り上げた筋肉が悲鳴を上げようとするのを、マービンは心の中でァジッ!と叫んで乗り切ろうとしている。チアは応援の為に居る。選手達、仲間達の前で苦しそうな顔は見せていけない。マービンは下がりそうになった口角を無理矢理に引き上げた。
「マービンッ!耐えられるか!?」
マービンは目をかっぴらいてニッと笑い、当然だと言わんばかりの返事をする。
「ァジッ!!」
「行けるってよ!!俺達も気合入れて△×○%#~ッ!!」
マーメイド達はその弾ける様な肉体を躍動させ、見事な肉の塔を己の身体で築いた。会場は拍手喝采。その気迫溢れる演武に飲食店組合応援団のイトも一目を置いた。
「おじさん…やるじゃない」
試合のボルテージは上がり、灼熱の後半戦へと突入していく。ニスの前半はバント職人で終わった。
「データにない選手だな……絶妙な位置に転がしおって…」
魚影ウェイブス監督の指示は飛ばせば良い、だったが、基本的に選手の好きに打たせている。ニスは丁度走者が居たのでバントをしてみると、これが火炎バイキングスには意外だったのか後の走者生還に一役買った。
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公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
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