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灼熱の祭典編ー後
第99話 忙しい一日の終わりにBBQを
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決勝に相応しい激闘の末、決着がついたリリナグカップ。泣いて笑って喜んで。最後に双方の応援団が互いの健闘を称えてリリナグカップは幕を下ろした。ニスはバットを肩に掛け、きらりと光るメダルを首から下げて帰宅した。部屋に入りメダルを何処に置こうかと考えて、取り敢えず自分の荷物の中に入れた。その後グンカが帰宅し、ギャリアーも本日の営業を終えた。現在ギャリアー宅では、3人テーブルを囲んでニスの話を聞いていた。議題は夕食である。
「今日の夕飯は、バーベキューにしようと思うの」
「おお、良いんじゃないか?初めてだよな、うちの庭でするの」
「ちょっと待て、バーベキューをする道具はあるのか?この家にそのような物は見当たらなかったぞ」
「ええ、だから食べに行くの。すぐ近くだから」
ニスに連れられた2人は、家から5分程歩いた先にある砂浜に降りた。
「何だこの人々は?」
「警備隊への申請にはなかったはずだが…まだイベントがあったのか?」
砂浜には大勢の人がいて、それぞれの場所でバーベキューを楽しんでいる。場所と言っても間隔が狭く、グループが混ざり合っているような状況だ。ニスは目的の場所を探して人の間を歩き、2人はその後ろを着いて行く。
「おーい!ニス、こっちだよー!」
「ナガル」
ニスは手を振るナガルを見つけると、2人にあっちと言って指差した。そこには筋骨隆々の人魚たちが、酒で火照った肉体を惜しげもなく晒し、景気よく酒を煽っていた。グリルの上では大きな魚がじっくりと焼かれ、各種貝類も豊富に取り揃えている。テーブルの上には刺身の盛り合わせや大きな切り身の焼き魚がてんこ盛りで、小さな子どもたちは手が届かないので、近くに居る大人によそって貰っている。
「何の集まりだ?」
「漁業組合のベイスボウルチーム魚影ウェイブスと応援団のリリナグマーメイド。今日リリナグカップの決勝戦だったから、その慰労会」
「そういえば新聞に載っていたな……しかし何故お前が?」
「試合にも出たうちの選手だからね!」
ナガルが3人にビールのジョッキを手渡した。彼女は既にほろ酔いで、「乾杯!」と言って3人のジョッキと自分のジョッキをかち合わせた。特に酒を飲む予定は無かった3人だが、明日は早起きする予定はないので有り難く頂くことにした。日が沈んでも暑いリリナグの気温に最高相性の冷たいビールが喉を潤す。一口飲んでほうと息を吐くと、砂浜の奥の方で盛り上がる声が聞こえた。
「あそこでは何を?」
「おい、今2人砂浜に倒れ込んだぞ。周りの者達は囃し立てて止める気配がないが…」
「ハハ、酔っぱらった漁師達が、くんずほぐれずしてるだけだよ」
「くん…?」
ナガルが3人に皿を渡し、テーブルの上に盛り付けられているご馳走をテキパキと皿に乗せていく。
「後は好きに食べてよ!選手の家族は飲み食い無料だから!ニスが持ってる家族章をどっか見える所に付けたら大丈夫。あたしはあっちの美味そうなご飯頂いて来るからさ!」
最後にカチン、とジョッキ同士をぶつけてナガルは横に居るグループに合流した。ニスはポケットから魚影ウェイブスと記された名札を取り出して2人に配った。よく見ると近くに居る人達は、皆同じ家族章を付けている。
「選手か応援団で参加した人は、家族3人まで無料で参加できるの」
「手伝いと言っていたが、選手での参加だったのか」
「いえ、最初はドリンクを配ったりタオルを配ったりしてたんだけど、急病で1人出場できなくなって急遽レフトに入ったの」
「本当に急だな。打席にも立ったのか?」
「ええ、チャムにバットを借りて毎日素振りをしていて良かった」
3人がビールとご馳走を楽しんでいると、隣のグループから知人が近付いて来た。
「3人とも来たねー!お疲れ様ー!」
「チャムにウォーリー、お前達はどうしたんだ?」
チャムは片手にジュース、もう片方に山盛りのチャーハンを持ち、ウォーリーはスライスした肉と付け合せを綺麗に並べた皿を持ってやってきた。
「お姉さんと一緒だよ。あたし達は飲食店組合の火炎バイキングス所属の選手と、叔父さんは3塁コーチャー!」
「ニスも中々上手かったぜ!スローイングも丁寧だったしよ!」
「ウォーリーは選手じゃないのか?」
「いやぁ俺は…」
何やらウォーリーはバツの悪そうな顔をして頭をかく。3人が首を傾げていると、チャムがその理由を代わりに説明した。
「叔父さん、投げるのが下手なの」
「ええ?」
「投げる時、腕と同じ足出しちゃうから力が入らないの。それに手投げだし、肘も身体の内側に寄っちゃったりして、球を地面に投げちゃうの!」
「ハハ…俺に投球の才能はなかったみてえだ」
「練習すればいいピッチャーに成れると思うんだけどね。監督も期待してたよ?」
「総料理長は俺の運動神経を過大評価してんだよ…」
グンカは確か警備隊もリリナグカップに参加していた筈だと思い出す。警備隊員で構成されたチーム、リリナグ警備クラブ。各部門から精鋭を集めたと広報担当から話を聞いたような記憶がある。今月は色々と仕事が立て込み、その後の結果については知らなかった。
「警備達のチームはどうだったんだ?」
「警備クラブか?1回戦敗退だよ。そこに居る魚影ウェイブスに滅多打ちに打ち込まれて」
ウォーリーは砂浜で揉みあっている魚影ウェイブスのメンバーを指差した。汗を纏った上半身を砂に預け、笑い声をあげながら何度も転がっている。「俺達はマーメイドだ!」という酔っぱらいの声が聞こえた。
「…そうか」
「あれはただ相性が悪かったんだと思うよ?監督が警備クラブのピッチャーをスカウトしたいって言ってたから」
ベイスボウル談義に花を咲かせる叔父と姪だったが、大きな魚が焼きあがったという漁業組合の者の言葉に目的を思い出した。
「そうそう!あたし達、貿易に来たんだよね」
「貿易?」
「俺達飲食店関係だから、味に自信ありだろ?そっちの美味そうな魚介類と交換しねえかっていう使いよ。試合が終わったら仲良く美味い飯を食って、互いの健闘を称え合うのがスポーツマンシップだろ?」
「一理ある!」
「あ…監督…」
魚影ウェイブスの監督ガナルがチャムの前に立つ。首に掛かっているのは銀色のメダル。バーベキューの光を受けてキランと瞬く様に光る。
「素晴らしいプレーだった。君も君のチームメンバーも、ガッツある素晴らしい選手達だった。また来年決勝で戦おう」
チャムは差し出された武骨な手を握り、しっかりと頷いた。後ろに居るウォーリーは号泣している。ギャリアーはその肩を叩き、「優勝おめでとう2人とも」と言葉を掛けた。優勝を争ったチーム同士の友好、それは他方でも起きていた。
「…おじさん、頑張ってたじゃない」
「!…小娘」
イトはチームの料理人達が一切妥協せず調理した素晴らしい料理が乗った皿をマービンに差し出す。マービンは先程まで筋肉マーメイド達と砂浜でくんずほぐれずしていた為、上半身が砂だらけになっている。小さな手が差し出す皿を見下ろすと、イトとは反対方向を向いて軽く身体の砂を払う。そして「ありがとう」と言ってその皿を受け取った。イトは決勝戦での演武について話し始める。
「あんなに重そうな人達を支えるのは苦しいでしょう?」
「なんて事は無い。ワシは力自慢のキュートなマーメイドであり漁師だ。若い衆の三、四人支える位朝飯前よ。それに、ワシらの中では1番下の土台になる事こそ花形の証。信頼できるものにしか務まらん大役だ。小娘も他の者を信頼して身を任せただろう?」
「うん。皆ならしっかり支えてくれると思って1番上に登って、片足でポーズ出来た」
「不安定な足場に立つ事は、怪我や死の恐怖と隣り合わせの勇気がいる仕事だ。見事にやり遂げたじゃないか小娘」
「ええ、おじさんもよく皆を安全に降ろせたわ」
マービンはここで少し待っているように言い、漁業組合のバーベキューから二皿分の山盛りの海の幸を盛り付けて帰って来た。
「ほれ、そこに居る父ちゃんと一緒に食べなさい。調理ではお前のチームのシェフ達に敵わないが、目利きと豪快な漁師飯じゃ負けとらん!」
「ありがとう。あたしもパパも海鮮大好物なの!」
2人の様子を見守っていたボビンとマービンの妻は、ライバルとして緊張関係にあった2人がお互いの健闘を認め合う姿を見て良かったと微笑み合う。そこに飲食店組合火炎バイキングスの監督カズラと漁業組合魚影ウェイブスの監督ガナルが一緒に立ち、それぞれのチームメイトに宣言する。
「決勝を戦った好敵手同士、今夜垣根を越えて互いの健闘を讃えようではないか」
「チーム関係なく好きに飲んで食ってくれ!」
互いの陣営から歓声が上がり、宴は更に盛り上がる。
「あ、あたしキュート選手権のバーベキューにも顔を出さないと!」
「ワシも!」
「直ぐそこでやってたよ~。皆で行こうか~」
マービン、ボビン、イトが連れ立って隣のバーベキューに向かう。すると1ヶ月を共に戦った参加者達は既に打ち解けていたようで、3人に向かって手を振った。
「早く食べないと、ご馳走全部食べちゃいますよー!」
「こら、ベンガル」
ちゅぽんっと音を立ててベンガルは骨付き肉の骨を取り出した。姉のライアはベンガルがこっそり独り占めできないかと狙っていた肉料理の盛り合わせを遅れて合流した3人の前に出した。
「ちぇーです。どれも美味しかったのに」
「おや~それは食べてみないとね~…」
「ベンガルちゃん、まだセールやってる?ユンちゃんが着ていた服、あたしのサイズもある?」
「セールはぁ…ふふふーです!イトちゃんのサイズも勿論用意してますとも!パパさんやマービンさん向けのも!」
「ワシもかい?キュートなやつあるかね?」
「ふふ…キュートからクール、モノトーン、シック等色々な種類がありますからご安心を。明日の納涼祭にぴったりの服を選ぶのもいいけれど、普段使いしてもいいデザインも用意していますから」
盛り上がる選手権参加者達。その同時刻、キュート選手権サポート委員会は各地に配置した投票箱の回収が終了し、学校にて開票作業が始まっていた。投票結果は後日新聞に掲載される他、ポスターにて周知される。さらに明日の納涼祭開始前に最多得票者を発表し、花火の点火合図をしてもらう予定だ。
「最初に比べて随分と特典が増えましたね~」
「ね~。それに、こんなにいっぱい票が集まるとは思いませんでした。宣伝の力ってすごいですね」
「でも…意外な人が票数を伸ばしているわね…」
「ですね。契機となった2人がやっぱり強いですけど、リリナグリリィの子も追いつけ追い越せですし、面白いですね、こういうの」
「あ、白票……ん?薄いだけかしら……でも、参加者以外の名前が書いてある…これは廃棄ね」
「どれどれ~?」
審査委員長として開票作業に同席していたユンがその白票を覗き込む。すると驚いた顔をした後、にんまりと笑んで白票を自分の懐に入れた。
「審査委員長?」
「これは私から渡しておくわ~念の為廃棄等にして良かった~!」
ユンはルンルンで開票作業を進める。サポート委員会の集計作業が終わったのは夜10時も回った頃であった。
ニスとギャリアーとグンカは、それぞれの組合の人達との交流を楽しんだ後、早目に帰宅することにした。
「残ってた人達、朝まで飲むって…」
「近所からクレームが無ければ良いが」
「大丈夫だろ、残ってるのはその近所の人達みたいだし。それよりニス、その顔の赤い跡どうしたんだ?」
ニスの顔面には所々赤くなっている場所があった。ギャリアーの指摘に動揺するのは、問われたニスではなく隣に居るグンカであった。
「それは…」
「釣ったタコが外れて、顔に落ちて来たの…そしてへばり付いて…」
「えええ!?大丈夫なのかよニス!?顔の皮膚剥がれてないか!?」
心配するギャリアーに「赤くなっただけ」と言いニスはじっとグンカの方を見た。グンカはバツが悪そうに「俺がやった…」と白状する。
「悪気はなかったが、タコを横に飛ばしてしまったのは事実。俺はもうタコがトラウマだ…」
「でも明日のご飯はタコ三昧だから…」
「うう……見る度に心臓が痛くなる……」
それを聞いたギャリアーは可笑しそうに笑い、翌日新聞の記事にイラスト付きで載せられた、顔面にタコが張り付いた町民の記事を読んで、またさらに笑ったのだった。イラストは現場の混乱の様子と、タコと人の頭がすげ替えられた人物が暴れるような図であった。
「今日の夕飯は、バーベキューにしようと思うの」
「おお、良いんじゃないか?初めてだよな、うちの庭でするの」
「ちょっと待て、バーベキューをする道具はあるのか?この家にそのような物は見当たらなかったぞ」
「ええ、だから食べに行くの。すぐ近くだから」
ニスに連れられた2人は、家から5分程歩いた先にある砂浜に降りた。
「何だこの人々は?」
「警備隊への申請にはなかったはずだが…まだイベントがあったのか?」
砂浜には大勢の人がいて、それぞれの場所でバーベキューを楽しんでいる。場所と言っても間隔が狭く、グループが混ざり合っているような状況だ。ニスは目的の場所を探して人の間を歩き、2人はその後ろを着いて行く。
「おーい!ニス、こっちだよー!」
「ナガル」
ニスは手を振るナガルを見つけると、2人にあっちと言って指差した。そこには筋骨隆々の人魚たちが、酒で火照った肉体を惜しげもなく晒し、景気よく酒を煽っていた。グリルの上では大きな魚がじっくりと焼かれ、各種貝類も豊富に取り揃えている。テーブルの上には刺身の盛り合わせや大きな切り身の焼き魚がてんこ盛りで、小さな子どもたちは手が届かないので、近くに居る大人によそって貰っている。
「何の集まりだ?」
「漁業組合のベイスボウルチーム魚影ウェイブスと応援団のリリナグマーメイド。今日リリナグカップの決勝戦だったから、その慰労会」
「そういえば新聞に載っていたな……しかし何故お前が?」
「試合にも出たうちの選手だからね!」
ナガルが3人にビールのジョッキを手渡した。彼女は既にほろ酔いで、「乾杯!」と言って3人のジョッキと自分のジョッキをかち合わせた。特に酒を飲む予定は無かった3人だが、明日は早起きする予定はないので有り難く頂くことにした。日が沈んでも暑いリリナグの気温に最高相性の冷たいビールが喉を潤す。一口飲んでほうと息を吐くと、砂浜の奥の方で盛り上がる声が聞こえた。
「あそこでは何を?」
「おい、今2人砂浜に倒れ込んだぞ。周りの者達は囃し立てて止める気配がないが…」
「ハハ、酔っぱらった漁師達が、くんずほぐれずしてるだけだよ」
「くん…?」
ナガルが3人に皿を渡し、テーブルの上に盛り付けられているご馳走をテキパキと皿に乗せていく。
「後は好きに食べてよ!選手の家族は飲み食い無料だから!ニスが持ってる家族章をどっか見える所に付けたら大丈夫。あたしはあっちの美味そうなご飯頂いて来るからさ!」
最後にカチン、とジョッキ同士をぶつけてナガルは横に居るグループに合流した。ニスはポケットから魚影ウェイブスと記された名札を取り出して2人に配った。よく見ると近くに居る人達は、皆同じ家族章を付けている。
「選手か応援団で参加した人は、家族3人まで無料で参加できるの」
「手伝いと言っていたが、選手での参加だったのか」
「いえ、最初はドリンクを配ったりタオルを配ったりしてたんだけど、急病で1人出場できなくなって急遽レフトに入ったの」
「本当に急だな。打席にも立ったのか?」
「ええ、チャムにバットを借りて毎日素振りをしていて良かった」
3人がビールとご馳走を楽しんでいると、隣のグループから知人が近付いて来た。
「3人とも来たねー!お疲れ様ー!」
「チャムにウォーリー、お前達はどうしたんだ?」
チャムは片手にジュース、もう片方に山盛りのチャーハンを持ち、ウォーリーはスライスした肉と付け合せを綺麗に並べた皿を持ってやってきた。
「お姉さんと一緒だよ。あたし達は飲食店組合の火炎バイキングス所属の選手と、叔父さんは3塁コーチャー!」
「ニスも中々上手かったぜ!スローイングも丁寧だったしよ!」
「ウォーリーは選手じゃないのか?」
「いやぁ俺は…」
何やらウォーリーはバツの悪そうな顔をして頭をかく。3人が首を傾げていると、チャムがその理由を代わりに説明した。
「叔父さん、投げるのが下手なの」
「ええ?」
「投げる時、腕と同じ足出しちゃうから力が入らないの。それに手投げだし、肘も身体の内側に寄っちゃったりして、球を地面に投げちゃうの!」
「ハハ…俺に投球の才能はなかったみてえだ」
「練習すればいいピッチャーに成れると思うんだけどね。監督も期待してたよ?」
「総料理長は俺の運動神経を過大評価してんだよ…」
グンカは確か警備隊もリリナグカップに参加していた筈だと思い出す。警備隊員で構成されたチーム、リリナグ警備クラブ。各部門から精鋭を集めたと広報担当から話を聞いたような記憶がある。今月は色々と仕事が立て込み、その後の結果については知らなかった。
「警備達のチームはどうだったんだ?」
「警備クラブか?1回戦敗退だよ。そこに居る魚影ウェイブスに滅多打ちに打ち込まれて」
ウォーリーは砂浜で揉みあっている魚影ウェイブスのメンバーを指差した。汗を纏った上半身を砂に預け、笑い声をあげながら何度も転がっている。「俺達はマーメイドだ!」という酔っぱらいの声が聞こえた。
「…そうか」
「あれはただ相性が悪かったんだと思うよ?監督が警備クラブのピッチャーをスカウトしたいって言ってたから」
ベイスボウル談義に花を咲かせる叔父と姪だったが、大きな魚が焼きあがったという漁業組合の者の言葉に目的を思い出した。
「そうそう!あたし達、貿易に来たんだよね」
「貿易?」
「俺達飲食店関係だから、味に自信ありだろ?そっちの美味そうな魚介類と交換しねえかっていう使いよ。試合が終わったら仲良く美味い飯を食って、互いの健闘を称え合うのがスポーツマンシップだろ?」
「一理ある!」
「あ…監督…」
魚影ウェイブスの監督ガナルがチャムの前に立つ。首に掛かっているのは銀色のメダル。バーベキューの光を受けてキランと瞬く様に光る。
「素晴らしいプレーだった。君も君のチームメンバーも、ガッツある素晴らしい選手達だった。また来年決勝で戦おう」
チャムは差し出された武骨な手を握り、しっかりと頷いた。後ろに居るウォーリーは号泣している。ギャリアーはその肩を叩き、「優勝おめでとう2人とも」と言葉を掛けた。優勝を争ったチーム同士の友好、それは他方でも起きていた。
「…おじさん、頑張ってたじゃない」
「!…小娘」
イトはチームの料理人達が一切妥協せず調理した素晴らしい料理が乗った皿をマービンに差し出す。マービンは先程まで筋肉マーメイド達と砂浜でくんずほぐれずしていた為、上半身が砂だらけになっている。小さな手が差し出す皿を見下ろすと、イトとは反対方向を向いて軽く身体の砂を払う。そして「ありがとう」と言ってその皿を受け取った。イトは決勝戦での演武について話し始める。
「あんなに重そうな人達を支えるのは苦しいでしょう?」
「なんて事は無い。ワシは力自慢のキュートなマーメイドであり漁師だ。若い衆の三、四人支える位朝飯前よ。それに、ワシらの中では1番下の土台になる事こそ花形の証。信頼できるものにしか務まらん大役だ。小娘も他の者を信頼して身を任せただろう?」
「うん。皆ならしっかり支えてくれると思って1番上に登って、片足でポーズ出来た」
「不安定な足場に立つ事は、怪我や死の恐怖と隣り合わせの勇気がいる仕事だ。見事にやり遂げたじゃないか小娘」
「ええ、おじさんもよく皆を安全に降ろせたわ」
マービンはここで少し待っているように言い、漁業組合のバーベキューから二皿分の山盛りの海の幸を盛り付けて帰って来た。
「ほれ、そこに居る父ちゃんと一緒に食べなさい。調理ではお前のチームのシェフ達に敵わないが、目利きと豪快な漁師飯じゃ負けとらん!」
「ありがとう。あたしもパパも海鮮大好物なの!」
2人の様子を見守っていたボビンとマービンの妻は、ライバルとして緊張関係にあった2人がお互いの健闘を認め合う姿を見て良かったと微笑み合う。そこに飲食店組合火炎バイキングスの監督カズラと漁業組合魚影ウェイブスの監督ガナルが一緒に立ち、それぞれのチームメイトに宣言する。
「決勝を戦った好敵手同士、今夜垣根を越えて互いの健闘を讃えようではないか」
「チーム関係なく好きに飲んで食ってくれ!」
互いの陣営から歓声が上がり、宴は更に盛り上がる。
「あ、あたしキュート選手権のバーベキューにも顔を出さないと!」
「ワシも!」
「直ぐそこでやってたよ~。皆で行こうか~」
マービン、ボビン、イトが連れ立って隣のバーベキューに向かう。すると1ヶ月を共に戦った参加者達は既に打ち解けていたようで、3人に向かって手を振った。
「早く食べないと、ご馳走全部食べちゃいますよー!」
「こら、ベンガル」
ちゅぽんっと音を立ててベンガルは骨付き肉の骨を取り出した。姉のライアはベンガルがこっそり独り占めできないかと狙っていた肉料理の盛り合わせを遅れて合流した3人の前に出した。
「ちぇーです。どれも美味しかったのに」
「おや~それは食べてみないとね~…」
「ベンガルちゃん、まだセールやってる?ユンちゃんが着ていた服、あたしのサイズもある?」
「セールはぁ…ふふふーです!イトちゃんのサイズも勿論用意してますとも!パパさんやマービンさん向けのも!」
「ワシもかい?キュートなやつあるかね?」
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盛り上がる選手権参加者達。その同時刻、キュート選手権サポート委員会は各地に配置した投票箱の回収が終了し、学校にて開票作業が始まっていた。投票結果は後日新聞に掲載される他、ポスターにて周知される。さらに明日の納涼祭開始前に最多得票者を発表し、花火の点火合図をしてもらう予定だ。
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ニスとギャリアーとグンカは、それぞれの組合の人達との交流を楽しんだ後、早目に帰宅することにした。
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「それは…」
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「悪気はなかったが、タコを横に飛ばしてしまったのは事実。俺はもうタコがトラウマだ…」
「でも明日のご飯はタコ三昧だから…」
「うう……見る度に心臓が痛くなる……」
それを聞いたギャリアーは可笑しそうに笑い、翌日新聞の記事にイラスト付きで載せられた、顔面にタコが張り付いた町民の記事を読んで、またさらに笑ったのだった。イラストは現場の混乱の様子と、タコと人の頭がすげ替えられた人物が暴れるような図であった。
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