【こんな恋なら男なんて絶滅すればいいのに】

秋庭海斗

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◾️◾️ ひもに縛られ紐に縋る

「僕がおまえを守るから大丈夫だ」

 武井隆が好江の首筋を舐め上げた先の耳元で呟いた。好江はゾクゾク感を存分に味わいながら、そんなことはできないと知っている、この坊やはアタシの身体と稼ぎの為だけに生きている。甘やかして何でも受け入れた自分が悪いとうっすら感じている。

「ぁあ…タカシ、、」

 ヒモへと堕ちた若い恋人との肉の繋がりを、断ち切れないで好江は自分自身を騙している、心が癒されると。

「僕は好江さえいればいい、未唯ちゃんが居なくても大丈夫だよ、何なら親権なんか渡しちまえばいいじゃん」

「もう、やめて。もう止めてったらッ」

 激しく拒絶して、のし掛かる隆を押し退ける、ふたりが付き合い始めてから初めての行動かもしれない。武井隆は戸惑った。

「嫌がるなんて、へへへ…好江、焦らすのかよ」

「子供のいないアンタに何が分かるっていうのよッ」

「どうしたんだよ、マジに怒ってんの?」

「もう止めて、止めて、止めてぇ」

「ふざけんなぁ、コレこんなになったのを収められねえだろが、トリマやらせろよ。すぐ終わっからさ」

 隆の本音を聞いたような気がして好江は萎えた気持ちを戻す事はできそうになかった。それと同じように隆の盛り上がった性衝動も止められなかった。

「下のお口が濡れないのならしゃぶってくれよ」。

 反り返りイキる肉棒を無理やりに突っ込んで来た、好江の頭を掴んで荒々しく喉の奥まで差し込んで来た。

「さいて~」。言葉にできない呟きを繰り返した。

◾️◾️ 不倫の清算から凄惨へ

「もう終わりにしようか…限界だろ」

 その冷静な言葉と裏腹に城東賢一が冷め切ったコーヒーを不味そうに啜って、ソーサーに放り投げたかと思うほどに乱暴にカップを置いた。その音がファミレスの客の注目を集めさせた。

「ねぇねぇ、あそこの2人って別れ話してるんじゃない?絶対にそうよ、あの空気のピリピリ感は間違いない」

「フリンよね、隣に座れば良かった」

 好江にはそんなヒソヒソ話が聞こえてくるようだった。正直いえば、この男とは別れてもいいと思っていた。武井隆の存在が、好江の心と身体の淋しさを埋めていてくれたひと時は。妻帯者の賢一とは思うように逢えないし、連絡でさえも賢一の都合次第であった。

 だが拠り所になったはずの武井隆がヒモになって、状況は変わったのである。最近は好江が自分の思い通りにならないと、暴れてまるで駄々っ子のようである。そんな若さに辟易としてきた今では別れるならば、武井の方を切りたいと思っている好江だ。

「待ってよ賢一。どうしてなの?」

「おまえ、この俺に隠してることがあるんじゃないのか?本当のことを言ってみろよ、会えないっていう回数が多くなった理由をさ」

「それは…娘のことで揉めてて忙しくて、親権が元旦那に取られちゃいそうで大変なの。そういう賢一だって奥さんや子どもさんのことばっかりで、アタシのことなんか気にもしてくれてなかったじゃない」

「あぁ?逆ギレかよ、おまえ最低だな」

「そんなつもりじゃないわ。アタシのこと嫌いにならないで、お願い」。殊勝で従順を演じて涙を溜めて凝視めた。

「もう無理だろ、関係を継続するのは。じゃあな、釣りは要らないからな」。ドリンクバー代だと500円玉をパチンと机に音を立てて置いた。その音に店内の世間雀のさえずりが高まった。

「賢一、待ってよ」。虚しく語尾が消え入った。

 何も良いことがない、今までもこれからも何も良いことがない。好江の気持ちが深く黒いモノに包まれていく。

◾️◾️ 私はママよりお父さんと居たい

 未唯のこの言葉を聞いて、好江の心の中の全ての光が消え去った気がした。この瞬間は、城東賢一との別れよりも武井隆との関係のゴタゴタもどうでも良かった。店に出るのも止めようかと思ったが、ひとりでいたらどうにかなりそうで、見せかけの煌びやかさと嘘っぱちだらけの世界でもマシに思えた。

 それもやがて選択ミスになる。
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