【こんな恋なら男なんて絶滅すればいいのに】

秋庭海斗

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 取調室の小さな窓に赤色灯の赤が透けて綺麗だった。

「宮城好江さん、飲酒検査しますので」

 若い女の警官が器具を差し出して検査を始めた、抵抗をすることなく手順通りに検査に応じる。出て来た検査の数値を男性警官と2人で見ながら好江に指し示した。

「お酒はどれくらい前に呑みましたか?」

「呑み終わったのは昨夜3時くらいです」

「高くはないけれど酒気帯びの結果が出てます、だけど取り締まりの数値までは届いてないけれど調書には記載しておきますね」。男の警官が女同士の会話に割り込んで事務的に言う。

「そうなの。それが本当なら、アルコールがまだ残ってたのかもしれないわね、そういう飲食系の仕事なのかな?」

「そうです。でも酔いは覚めてました」

「脇見運転をしてた?それと、事故直前にどのくらいのスピードを出していたか覚えてますか?」

「スマホを見てた気がする、スピードは60キロかも。メーターなんか見てなかったからわからないわ。それより怪我した人はだいじょうぶ?謝りに行きたいんだけれど」

 好江の発言を受けて2人の警官の視線が交差する。アイコンタクトから男性警官が口を開いた。

「残念ながら被害者2人はお亡くなりになったよ」

「悪い冗談はやめて下さい、おまわりさん。そんなに簡単に人が死ぬわけないじゃないですか、救急車だってすぐに駆けつけてくれたし、血だって出てなかったわよ」

「いや、事実だ。亡くなったんだよ」

「うそよ…」

 死んじゃうなんて思ってなかったのよ。と言葉にしそうになった好江は喉の奥へ、続けて言おうとしたその言葉を押し込んだ。悲しくもなかったがハラハラと涙が溢れて来た。それでも取り調べは続いていく。

□□□ 賢一

「城東さん、奥さんと子どもさんが事故に遭われて救急搬送されました、収容病院は本町の武田救急病院です」

 警察関係者の身内が被害者ということで、事故情報は速やかに家族へと伝えられた。

 日頃から交通事故情報は耳慣れていたが、所詮は他人ごとで聞き流していたが自分の家族となればまた別である。ここの警察署からその病院までは車なら10分くらいである。賢一は慌てて飛び出していく、廊下ですれ違った好江に気がつく余裕もなく。

 その急ぎは悲しみの対面へと急ぎだと知る由もなく。

◾️◾️ 隠秘

「宮城好江」

 妻と子どもを殺した加害者の取り調べ調書の写しを見ながら、そこに書かれた名前を小さく呼んだ。周囲の同僚らは掛ける声もなく城東を遠巻きにして、平常心を装って業務に励んでいる。

「城東君、もしかしてその加害者、知り合いかい?」

 話題に事欠いて上司の安田課長が賢一に話しかける。

「いえ、まったく知りません」

 この女は愛人です、濃厚な不倫関係を2年近くしていました…などと言えるはずもない。そんな思いを安田課長は勘違いをして、苦悩する被害者関係者と見ていた。その勘違いの方がノーマルな思考回路であるのは間違いない。

「城東君、もう今日は帰りなさい」

 見かねた上司が賢一に帰宅を促す。彼のことを気遣う言葉であったが、同時に署内の重苦しい空気を入れ替えるためのひと言でもあった。城東がここにいる事が周囲の人たちの所在なさを作り出しているからであった。

「秋枝も翔太もいないウチに帰って何すればいいんですか?教えてくださいよ。課長」

 そんな風に返されては、続ける言葉も無くなって腫れ物に触らないように離れていく上司だった。

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