19 / 25
19
しおりを挟む
「あ、僕だよ」
第一声がまるで小学生のようで進歩のないガキだなと引いたが、おくびにも出さないで会話を始める。賢一は居ないから気を遣うこともなく素で話は出来る。もちろん相手は武井隆である、やっと連絡を取ってきたなと思っている好江だった。
「ひさしぶりね、どうかしたの?」
「ぶっちゃけ、会いたいんだけど。好江ちゃんに」
そのチャン付けを聞いて、ゾワりと首筋から背中に掛けて何かが這いずった感じがした。
「いいわよ、明日の昼間はどう?」
「え、昼間?夜じゃなくて?夜が良かったなぁ」
その言葉の端から単にヤリたい気持ちが漏れ出ている。そんな気持ちを手玉に取り、このクソガキを上手く動かしていくのが計画の第一歩である。
「ごめんね、夜は仕事してるから時間が取れないの。それにタカシにしか相談出来ないこともあるし…」
「なになに?俺って頼りにされてるワケ?どんな事なの」
「会って説明したいから明日、ランチしながらでも」
謎に対する子どもの好奇心をくすぐりながら、頼りにするという自尊心も持ち上げる、そんなテクニックにホイホイと釣れてしまう単純な頭の構造の若造が気の毒でもあった、バカすぎて。
□□□ 特別な頼み事
「ね、頼み事ってなに?」
乗り気でないのがすぐに分かる、ヤリ目を潰され不貞腐れているのだろうか。そういうのを無視して好江は悲しげな表情で話を始めた。
「別れたダンナがどうしても娘に会わせてくれないから、手紙を渡して欲しいの。アタシが近づくのも警戒されちゃってダメなの。タダでとは言わないわ、ハイこれで」
渡された封筒の中身を見たタカシが、オッと目を見開いたのがわかった。
「それだけで3万も貰えんなら楽勝だね、人助けもできるなら絶対にやるよ」
「間違いなく渡してね、信じないワケじゃないけど、動画を撮って欲しいの。それから大事なことを言うわね、絶対に母親からだと言わないで欲しいの。それを伝えたならば捨てられてしまう可能性があるから」
悲壮感の好江の話に感化されて、ウンウンと頷きながらタカシは聞いている。
「アタシも遠くから見ているからちゃんとやって欲しいの。どう?やってもらえるかしら」
一も二もなく武井は引き受ける意思を示した。
「じゃ、報酬はあなたを信じるから先渡ししておくわね。今から行きましょう。コレが渡して欲しい手紙ね」
好江は大事そうにハンカチに包んだ手紙を渡した。
◾️◾️
「未唯ちゃんこの高校行ってんのか、頭いいんだね」
彼女が通学するのは、鶴ヶ城の南に位置する住宅街の高校である。人の行き来の多い街中にあるわけでもなく、待ち伏せしていたら不自然な畑の真ん中にあるわけでもない下校の帰り道に待ち伏せして手紙を渡すことは訳ないことである。
下調べをしてある好江の指示通りにタカシは動いた。未唯の写真も見せて覚えているから人違いもすることはないだろう。
「山ノ井未唯さんですよね、僕、怪しいものではありません、この手紙を読んでもらえますか。大切なことが書いてあります、必ず1人で読んでくださいね、お願いします」
誠実そうな感じを前面に出して確かに手紙を手渡した。動画を撮りながらの男の行動に不審な表情を浮かべながらも、未唯は手紙を手にした。
好江は思っていた。未唯が不審に思い捨てて中身を読まなければ、次を渡せばいいだけである。
そして1週間後に好江からタカシを呼び出して同じ金額と同じ手紙を渡すバイトを依頼した。手紙を渡すだけの簡単な美味しいバイトである、断る理由などない。
だが、未唯は明らかに受け取りを拒絶をした。受け取ってもらわないとバイト報酬は貰えない、無理やりに握らせて逃げるようにしてその場を後にする。下校時間の生徒たちが一部始終をみていた、中には動画を撮るものもいた。
そして、さらに1週間後に3度目の行動を起こした。近づくと未唯は恐怖の表情で校門へと逃げ帰っていく、武井隆は校門でしばらくの間、彼女が出てくるのを待った。母親の思いの詰まった手紙を渡すという美談の仲介役としては待たないわけにはいかないのである。
だが、数十分後には駆け付けたパトカーに押し込められることになる、未成年者略取未遂の現行犯容疑だ。武井隆には何が何だかわからなかった。
◾️◾️ 取り調べ室
「違う、何のことだよ?ただ僕は頼まれて…あの子の母親から頼まれた手紙を渡しただけだ」武井隆はやった事実だけを主張した。そんな武井を警察側は信じなかった。
「母親が娘にこんなひどい内容の手紙を読ませるはずがないだろう」。そこに書かれていたのは卑猥で侮辱的な文言であった。
「しかも2通目には陰毛が貼り付けてあった。任意なんですけどDNA検体提出をお願い出来ますか?」
後のDNA検査では陰毛は武井隆のものと断定され、証拠として押さえられた手紙の3通目は何も書いてない白紙だ。どの手紙からも宮城好江の指紋は出なかった。好江にも裏取りの捜査が来たが泣きながら事情を話した。
「何年か前に武井さんとお付き合いしたことがあったんですが、最近復縁を強要されていて…『いうこと聞かないと大切な人が傷つくぞ』と脅かされていました。アタシは今は警察関係の人とお付き合いしてますから、断っていたんです」
武井隆は追い詰められた。
第一声がまるで小学生のようで進歩のないガキだなと引いたが、おくびにも出さないで会話を始める。賢一は居ないから気を遣うこともなく素で話は出来る。もちろん相手は武井隆である、やっと連絡を取ってきたなと思っている好江だった。
「ひさしぶりね、どうかしたの?」
「ぶっちゃけ、会いたいんだけど。好江ちゃんに」
そのチャン付けを聞いて、ゾワりと首筋から背中に掛けて何かが這いずった感じがした。
「いいわよ、明日の昼間はどう?」
「え、昼間?夜じゃなくて?夜が良かったなぁ」
その言葉の端から単にヤリたい気持ちが漏れ出ている。そんな気持ちを手玉に取り、このクソガキを上手く動かしていくのが計画の第一歩である。
「ごめんね、夜は仕事してるから時間が取れないの。それにタカシにしか相談出来ないこともあるし…」
「なになに?俺って頼りにされてるワケ?どんな事なの」
「会って説明したいから明日、ランチしながらでも」
謎に対する子どもの好奇心をくすぐりながら、頼りにするという自尊心も持ち上げる、そんなテクニックにホイホイと釣れてしまう単純な頭の構造の若造が気の毒でもあった、バカすぎて。
□□□ 特別な頼み事
「ね、頼み事ってなに?」
乗り気でないのがすぐに分かる、ヤリ目を潰され不貞腐れているのだろうか。そういうのを無視して好江は悲しげな表情で話を始めた。
「別れたダンナがどうしても娘に会わせてくれないから、手紙を渡して欲しいの。アタシが近づくのも警戒されちゃってダメなの。タダでとは言わないわ、ハイこれで」
渡された封筒の中身を見たタカシが、オッと目を見開いたのがわかった。
「それだけで3万も貰えんなら楽勝だね、人助けもできるなら絶対にやるよ」
「間違いなく渡してね、信じないワケじゃないけど、動画を撮って欲しいの。それから大事なことを言うわね、絶対に母親からだと言わないで欲しいの。それを伝えたならば捨てられてしまう可能性があるから」
悲壮感の好江の話に感化されて、ウンウンと頷きながらタカシは聞いている。
「アタシも遠くから見ているからちゃんとやって欲しいの。どう?やってもらえるかしら」
一も二もなく武井は引き受ける意思を示した。
「じゃ、報酬はあなたを信じるから先渡ししておくわね。今から行きましょう。コレが渡して欲しい手紙ね」
好江は大事そうにハンカチに包んだ手紙を渡した。
◾️◾️
「未唯ちゃんこの高校行ってんのか、頭いいんだね」
彼女が通学するのは、鶴ヶ城の南に位置する住宅街の高校である。人の行き来の多い街中にあるわけでもなく、待ち伏せしていたら不自然な畑の真ん中にあるわけでもない下校の帰り道に待ち伏せして手紙を渡すことは訳ないことである。
下調べをしてある好江の指示通りにタカシは動いた。未唯の写真も見せて覚えているから人違いもすることはないだろう。
「山ノ井未唯さんですよね、僕、怪しいものではありません、この手紙を読んでもらえますか。大切なことが書いてあります、必ず1人で読んでくださいね、お願いします」
誠実そうな感じを前面に出して確かに手紙を手渡した。動画を撮りながらの男の行動に不審な表情を浮かべながらも、未唯は手紙を手にした。
好江は思っていた。未唯が不審に思い捨てて中身を読まなければ、次を渡せばいいだけである。
そして1週間後に好江からタカシを呼び出して同じ金額と同じ手紙を渡すバイトを依頼した。手紙を渡すだけの簡単な美味しいバイトである、断る理由などない。
だが、未唯は明らかに受け取りを拒絶をした。受け取ってもらわないとバイト報酬は貰えない、無理やりに握らせて逃げるようにしてその場を後にする。下校時間の生徒たちが一部始終をみていた、中には動画を撮るものもいた。
そして、さらに1週間後に3度目の行動を起こした。近づくと未唯は恐怖の表情で校門へと逃げ帰っていく、武井隆は校門でしばらくの間、彼女が出てくるのを待った。母親の思いの詰まった手紙を渡すという美談の仲介役としては待たないわけにはいかないのである。
だが、数十分後には駆け付けたパトカーに押し込められることになる、未成年者略取未遂の現行犯容疑だ。武井隆には何が何だかわからなかった。
◾️◾️ 取り調べ室
「違う、何のことだよ?ただ僕は頼まれて…あの子の母親から頼まれた手紙を渡しただけだ」武井隆はやった事実だけを主張した。そんな武井を警察側は信じなかった。
「母親が娘にこんなひどい内容の手紙を読ませるはずがないだろう」。そこに書かれていたのは卑猥で侮辱的な文言であった。
「しかも2通目には陰毛が貼り付けてあった。任意なんですけどDNA検体提出をお願い出来ますか?」
後のDNA検査では陰毛は武井隆のものと断定され、証拠として押さえられた手紙の3通目は何も書いてない白紙だ。どの手紙からも宮城好江の指紋は出なかった。好江にも裏取りの捜査が来たが泣きながら事情を話した。
「何年か前に武井さんとお付き合いしたことがあったんですが、最近復縁を強要されていて…『いうこと聞かないと大切な人が傷つくぞ』と脅かされていました。アタシは今は警察関係の人とお付き合いしてますから、断っていたんです」
武井隆は追い詰められた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる