【こんな恋なら男なんて絶滅すればいいのに】

秋庭海斗

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「あ、僕だよ」

 第一声がまるで小学生のようで進歩のないガキだなと引いたが、おくびにも出さないで会話を始める。賢一は居ないから気を遣うこともなく素で話は出来る。もちろん相手は武井隆である、やっと連絡を取ってきたなと思っている好江だった。

「ひさしぶりね、どうかしたの?」

「ぶっちゃけ、会いたいんだけど。好江ちゃんに」

 そのチャン付けを聞いて、ゾワりと首筋から背中に掛けて何かが這いずった感じがした。

「いいわよ、明日の昼間はどう?」

「え、昼間?夜じゃなくて?夜が良かったなぁ」

 その言葉の端から単にヤリたい気持ちが漏れ出ている。そんな気持ちを手玉に取り、このクソガキを上手く動かしていくのが計画の第一歩である。

「ごめんね、夜は仕事してるから時間が取れないの。それにタカシにしか相談出来ないこともあるし…」

「なになに?俺って頼りにされてるワケ?どんな事なの」

「会って説明したいから明日、ランチしながらでも」

 謎に対する子どもの好奇心をくすぐりながら、頼りにするという自尊心も持ち上げる、そんなテクニックにホイホイと釣れてしまう単純な頭の構造の若造が気の毒でもあった、バカすぎて。

□□□ 特別な頼み事

「ね、頼み事ってなに?」

 乗り気でないのがすぐに分かる、ヤリ目を潰され不貞腐れているのだろうか。そういうのを無視して好江は悲しげな表情で話を始めた。

「別れたダンナがどうしても娘に会わせてくれないから、手紙を渡して欲しいの。アタシが近づくのも警戒されちゃってダメなの。タダでとは言わないわ、ハイこれで」

 渡された封筒の中身を見たタカシが、オッと目を見開いたのがわかった。

 「それだけで3万も貰えんなら楽勝だね、人助けもできるなら絶対にやるよ」

「間違いなく渡してね、信じないワケじゃないけど、動画を撮って欲しいの。それから大事なことを言うわね、絶対に母親からだと言わないで欲しいの。それを伝えたならば捨てられてしまう可能性があるから」

 悲壮感の好江の話に感化されて、ウンウンと頷きながらタカシは聞いている。

「アタシも遠くから見ているからちゃんとやって欲しいの。どう?やってもらえるかしら」

 一も二もなく武井は引き受ける意思を示した。

「じゃ、報酬はあなたを信じるから先渡ししておくわね。今から行きましょう。コレが渡して欲しい手紙ね」

 好江は大事そうにハンカチに包んだ手紙を渡した。

◾️◾️ 

「未唯ちゃんこの高校行ってんのか、頭いいんだね」

 彼女が通学するのは、鶴ヶ城の南に位置する住宅街の高校である。人の行き来の多い街中にあるわけでもなく、待ち伏せしていたら不自然な畑の真ん中にあるわけでもない下校の帰り道に待ち伏せして手紙を渡すことは訳ないことである。

 下調べをしてある好江の指示通りにタカシは動いた。未唯の写真も見せて覚えているから人違いもすることはないだろう。

「山ノ井未唯さんですよね、僕、怪しいものではありません、この手紙を読んでもらえますか。大切なことが書いてあります、必ず1人で読んでくださいね、お願いします」

 誠実そうな感じを前面に出して確かに手紙を手渡した。動画を撮りながらの男の行動に不審な表情を浮かべながらも、未唯は手紙を手にした。

 好江は思っていた。未唯が不審に思い捨てて中身を読まなければ、次を渡せばいいだけである。

 そして1週間後に好江からタカシを呼び出して同じ金額と同じ手紙を渡すバイトを依頼した。手紙を渡すだけの簡単な美味しいバイトである、断る理由などない。

 だが、未唯は明らかに受け取りを拒絶をした。受け取ってもらわないとバイト報酬は貰えない、無理やりに握らせて逃げるようにしてその場を後にする。下校時間の生徒たちが一部始終をみていた、中には動画を撮るものもいた。

 そして、さらに1週間後に3度目の行動を起こした。近づくと未唯は恐怖の表情で校門へと逃げ帰っていく、武井隆は校門でしばらくの間、彼女が出てくるのを待った。母親の思いの詰まった手紙を渡すという美談の仲介役としては待たないわけにはいかないのである。

 だが、数十分後には駆け付けたパトカーに押し込められることになる、未成年者略取未遂の現行犯容疑だ。武井隆には何が何だかわからなかった。

◾️◾️ 取り調べ室

「違う、何のことだよ?ただ僕は頼まれて…あの子の母親から頼まれた手紙を渡しただけだ」武井隆はやった事実だけを主張した。そんな武井を警察側は信じなかった。

「母親が娘にこんなひどい内容の手紙を読ませるはずがないだろう」。そこに書かれていたのは卑猥で侮辱的な文言であった。

「しかも2通目には陰毛が貼り付けてあった。任意なんですけどDNA検体提出をお願い出来ますか?」

 後のDNA検査では陰毛は武井隆のものと断定され、証拠として押さえられた手紙の3通目は何も書いてない白紙だ。どの手紙からも宮城好江の指紋は出なかった。好江にも裏取りの捜査が来たが泣きながら事情を話した。

「何年か前に武井さんとお付き合いしたことがあったんですが、最近復縁を強要されていて…『いうこと聞かないと大切な人が傷つくぞ』と脅かされていました。アタシは今は警察関係の人とお付き合いしてますから、断っていたんです」

 武井隆は追い詰められた。










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