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プロローグ

第3話

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僕も記憶力には多少自信があったが、権造には適わないと思った。
権造の話を元に、僕なりに推理をしてみた。最初に浮かんだ事はこれだった。
「潜水艇に乗り込む前に、男に何かを飲ませて毒殺したんじゃない」

「いや、これはレティーシャが読んでいる本と同じ、刺殺じゃよ。男は、Tシャツの上から鋭利な刃物のようなもので、死んでいたんじゃ」
と、権造の声が楽しそうだ。

「刺殺、………じゃあ、男が、自らを刺したのでは?」

「背中は無理じゃろ」
ヘッドフォン越しに、権造の笑い声が微かに聞こえたが、『ガッハハハ』では無かった。

「小説の中でも、暴露系動画のビジネスが二年くらい前から徐々に下火になっていて、今までのような生活レベルの維持が危うくなって来た男の保険金目当ての自殺説とか、殺害予告を利用しての炎上説とかも視野に入れて、最初は捜査を進めていた。じゃが、自分で背中を刺すのが不可能な事や、何よりも刺したと思われる凶器の類が、潜水艇の中は勿論、スタッフの持ち物や、周辺の海底なども捜索をしたが、一切見つからなかったんじゃ」

「自分の足で、一人で乗り込んだ男が、密閉された潜水艇の中で殺されていて、凶器も見つからない」

「ガッハハハ、レティーシャが読んでいる密室殺人と近いじゃろ。海中で動いている潜水艇(エレベーター)の中に、外から乗り込んで殺害し、また脱出をしなければ、海の中で殺す事は出来んな」

「乗り込もうとすれば、潜水艇の中に海水が流れ込んでしまうし……」

「手錠をしたマジシャンが箱に入れられて、水中に沈められている時に脱出するトリックを使ったとしても、水中で乗り込む事は無理じゃな」

「ん~、そうですね。……殺すのが絶対に無理そうに思える」
僕はどう考えても不可能に思えた。密室自体が動いていて、凶器が見つからない。
ここには、僕が知りたいシチュエーションの全てが揃っていた。

「じゃあ、どうやって?」



少し間をおいて、権造が低い声で話し始めた。
「この小説には、事件の翌日にクルーザーが停めてある船着き場へ、探偵役の二人組が駆け付けるシーンのプロローグがある。……ああ、探偵役は、在タイ日本国大使館領事長の子で、快活な性格の大学生の姉と、ボケ役で高校生の弟の姉弟きょうだいコンビじゃ。タイ警察幹部に知人がいる父親の関係から、現地で起きた日本人の事件に大使館関係者として、このバディは、これまでにも幾つかの難事件を解決していて、……まぁ、実際にはあり得んけどな」

「それで、どうやって……」
「ちょっと待て。物事には順序があるんじゃよ」
権造のミステリー熱は凄まじく、話を途中でやめてくれたためしが無かった。
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