4 / 44
記念SS
セイルのレスかんさつ日記
しおりを挟む
暖かな日差しが差し込む昼下がりの午後。
ヘルゼンブール帝国の第七皇女レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツの加護精霊たるセイルルートは、少年の姿でレスティーゼの私室にいた。
従者風の格好をして、その手元には一冊の日記帳。セイルは鼻歌を歌いながら、何やらそこに文字を書き込んでいた。
「セイル、また何か書いてるの?」
「うん、日記帳だからね」
「最近よくその日記つけてるわよね。好きなの?」
「うん、割と楽しい!」
セイルは己の主人であるレスティーゼの問いかけにご機嫌な表情で答えた。
レスティーゼの指摘通り、最近のセイルの日課は日記をつけることだ。きっかけは何気ない出来事だった。
セイルの主であるレスティーゼも日々あったことを日記につけている。
さり気ないことを日記に書いて、ふとした時に読み直しているのだ。
セイルは人間ではなく、精霊だ。だから人間についてよく知る訳では無いが、何気ないことを日記にするレスティーゼはとても楽しそうで興味をひかれたのだ。
そこでレスティーゼに日記帳をもらい、セイルも日記をつけてみることにしたのだ。
「ふむ、どれどれ……『3の月19の日。今日もレスは悪巧みにほんそうしています。とても楽しそうにいじわるいことを考えるレスはまさに皇帝のよう。さすが親子。…… 3の月20の日。今日もやっぱりレスはほんそうしてます。毎日毎日大変そうだなぁ。少しはやすめばいいのに』……ってこれ、私のことばっかりじゃない!」
後ろからセイルの日記をのぞき込んだレスティーゼは、思わぬ内容に声を上げる。
セイルは人間ではないせいか、書いている日記も普通のものではなかった。
「うん、だってこれレスの観察日記だもん」
そう言って、日記帳を裏返すと表紙を見せる。
そこには、少し不細工なよれた文字で『レスかんさつ日記』と書かれてあった。
「なんで私の観察日記なのよ……」
「えー? だってレスを観察してると飽きないんだもん。せっかくだからレスを観察して日記につけようと思って」
「もっと普通にセイルの一日を書くとかあるでしょうに……なんで私なのよ……」
困ったように眉を寄せてため息をついたレスティーゼにセイルは首をかしげた。
何か悪かったのだろうか。レスティーゼの観察日記にしたのにはセイルなりに理由があった。
「大好きなレスのことを日記に書いてなにか悪いの?」
セイルは主人であるレスティーゼのことが大好きだ。だから契約し、そばにいる。レスティーゼのことはなんでも知りたいし、望みがあれば叶えたいと思っている。
そんな精霊特有の曇りない純粋な思いを込めてレスティーゼを見上げれば、セイルの主人は少し照れたように顔を赤くした。
「別に悪くはないけど……もっと自分のこととか書いたら?」
「自分のことー? 特に書くことないよ? 面白くないし、それならレスのこと書くよ」
「そう……」
面白いことが大好きな精霊に説得は無理だったようだ。
レスティーゼは早々に諦めて悟りを開いたような顔をすると、侍女のメルザに呼ばれて部屋を出ていった。
誕生日パーティで婚約者の浮気を知ってから、レスティーゼは仕返しの準備に奔走している。
『祝勝の祭典』に派手にやらかすのだと意気込み、メルランシアに何やら相談したりしていたので相当力を入れているのだろう。
セイルはおかげで構ってもらえずに暇を持て余すことになっているが、レスティーゼが元気なら何よりだ。ただ、あまり眠れていないようなのでそこが心配だった。
(僕が怪我してる所をレスに拾われた時も、寝ずに看病してくれたっけ……)
セイルは高位の精霊で魔力も高いので滅多に怪我などは負わない。
しかしとある要因で魔力を使い果たし、癒すために長き時をずっと地下で眠って過ごしていたその時のセイルは弱っていた。
懐かしい魔力に惹かれて目を覚まし、それに誘われるように銀の鳥の姿を取った。
そしてその懐かしき存在を求めて、自覚がないまま空へと飛び立った。寝起きで十分な魔力を補充できていないまま飛んだセイルは非常に危なげに飛行していた。
左右にゆらゆら揺れながら危なっかしく飛行し--そして落ちた。
木の幹がなんとか落下したセイルを受け止めてくれたが、羽を枝にぶつけて傷めてしまった。
その痛さにもがいた時、完全に下に落ちてしまったのだ。
魔力が足りず、治癒することも出来ない。そのまま木の根元で倒れていた時--セイルはレスティーゼに拾われたのだ。怪我した羽を治療し、魔力を寝ずに一晩中分け与えてくれた。
そのお影で、セイルは直ぐに回復することが出来たのだ。
その時に求めていた懐かしき存在の正体を知ることになる。それがレスティーゼだった。
また出逢えたことに感謝した。
そのまますぐ様契約してしまう程に。
曖昧だった記憶も全て取り戻し、この出会いが必然だったのだと確信してからも。
セイルはレスティーゼといると決めて、ずっと見守っている。
レスティーゼは覚えていないだろうが、遠い遠い昔セイルとレスティーゼは出会っている。
そして、セイルは一番大事な時にそばにいてあげることができなかった。
あの日「友達になって」と笑って告げた少女をセイルは守ることができなかったのだ。せめて彼女の最期の願いを叶えるために全力で魔力を使い、魔力切れを起こして眠っていた。
そして数奇な運命は、セイルに再びレスティーゼとの--かつての少女との出会いをもたらしてくれた。だから--。
「今度は何があってもずっと一緒に居るから。あの時みたいに1人にはしないからね--エレスメイラ」
かつて精霊と呼ばれるもの達の王といわれた存在は小さくそう呟くと、日記の続きを書くためにペンを手に取った。
ヘルゼンブール帝国の第七皇女レスティーゼ・エル・ヘルゼナイツの加護精霊たるセイルルートは、少年の姿でレスティーゼの私室にいた。
従者風の格好をして、その手元には一冊の日記帳。セイルは鼻歌を歌いながら、何やらそこに文字を書き込んでいた。
「セイル、また何か書いてるの?」
「うん、日記帳だからね」
「最近よくその日記つけてるわよね。好きなの?」
「うん、割と楽しい!」
セイルは己の主人であるレスティーゼの問いかけにご機嫌な表情で答えた。
レスティーゼの指摘通り、最近のセイルの日課は日記をつけることだ。きっかけは何気ない出来事だった。
セイルの主であるレスティーゼも日々あったことを日記につけている。
さり気ないことを日記に書いて、ふとした時に読み直しているのだ。
セイルは人間ではなく、精霊だ。だから人間についてよく知る訳では無いが、何気ないことを日記にするレスティーゼはとても楽しそうで興味をひかれたのだ。
そこでレスティーゼに日記帳をもらい、セイルも日記をつけてみることにしたのだ。
「ふむ、どれどれ……『3の月19の日。今日もレスは悪巧みにほんそうしています。とても楽しそうにいじわるいことを考えるレスはまさに皇帝のよう。さすが親子。…… 3の月20の日。今日もやっぱりレスはほんそうしてます。毎日毎日大変そうだなぁ。少しはやすめばいいのに』……ってこれ、私のことばっかりじゃない!」
後ろからセイルの日記をのぞき込んだレスティーゼは、思わぬ内容に声を上げる。
セイルは人間ではないせいか、書いている日記も普通のものではなかった。
「うん、だってこれレスの観察日記だもん」
そう言って、日記帳を裏返すと表紙を見せる。
そこには、少し不細工なよれた文字で『レスかんさつ日記』と書かれてあった。
「なんで私の観察日記なのよ……」
「えー? だってレスを観察してると飽きないんだもん。せっかくだからレスを観察して日記につけようと思って」
「もっと普通にセイルの一日を書くとかあるでしょうに……なんで私なのよ……」
困ったように眉を寄せてため息をついたレスティーゼにセイルは首をかしげた。
何か悪かったのだろうか。レスティーゼの観察日記にしたのにはセイルなりに理由があった。
「大好きなレスのことを日記に書いてなにか悪いの?」
セイルは主人であるレスティーゼのことが大好きだ。だから契約し、そばにいる。レスティーゼのことはなんでも知りたいし、望みがあれば叶えたいと思っている。
そんな精霊特有の曇りない純粋な思いを込めてレスティーゼを見上げれば、セイルの主人は少し照れたように顔を赤くした。
「別に悪くはないけど……もっと自分のこととか書いたら?」
「自分のことー? 特に書くことないよ? 面白くないし、それならレスのこと書くよ」
「そう……」
面白いことが大好きな精霊に説得は無理だったようだ。
レスティーゼは早々に諦めて悟りを開いたような顔をすると、侍女のメルザに呼ばれて部屋を出ていった。
誕生日パーティで婚約者の浮気を知ってから、レスティーゼは仕返しの準備に奔走している。
『祝勝の祭典』に派手にやらかすのだと意気込み、メルランシアに何やら相談したりしていたので相当力を入れているのだろう。
セイルはおかげで構ってもらえずに暇を持て余すことになっているが、レスティーゼが元気なら何よりだ。ただ、あまり眠れていないようなのでそこが心配だった。
(僕が怪我してる所をレスに拾われた時も、寝ずに看病してくれたっけ……)
セイルは高位の精霊で魔力も高いので滅多に怪我などは負わない。
しかしとある要因で魔力を使い果たし、癒すために長き時をずっと地下で眠って過ごしていたその時のセイルは弱っていた。
懐かしい魔力に惹かれて目を覚まし、それに誘われるように銀の鳥の姿を取った。
そしてその懐かしき存在を求めて、自覚がないまま空へと飛び立った。寝起きで十分な魔力を補充できていないまま飛んだセイルは非常に危なげに飛行していた。
左右にゆらゆら揺れながら危なっかしく飛行し--そして落ちた。
木の幹がなんとか落下したセイルを受け止めてくれたが、羽を枝にぶつけて傷めてしまった。
その痛さにもがいた時、完全に下に落ちてしまったのだ。
魔力が足りず、治癒することも出来ない。そのまま木の根元で倒れていた時--セイルはレスティーゼに拾われたのだ。怪我した羽を治療し、魔力を寝ずに一晩中分け与えてくれた。
そのお影で、セイルは直ぐに回復することが出来たのだ。
その時に求めていた懐かしき存在の正体を知ることになる。それがレスティーゼだった。
また出逢えたことに感謝した。
そのまますぐ様契約してしまう程に。
曖昧だった記憶も全て取り戻し、この出会いが必然だったのだと確信してからも。
セイルはレスティーゼといると決めて、ずっと見守っている。
レスティーゼは覚えていないだろうが、遠い遠い昔セイルとレスティーゼは出会っている。
そして、セイルは一番大事な時にそばにいてあげることができなかった。
あの日「友達になって」と笑って告げた少女をセイルは守ることができなかったのだ。せめて彼女の最期の願いを叶えるために全力で魔力を使い、魔力切れを起こして眠っていた。
そして数奇な運命は、セイルに再びレスティーゼとの--かつての少女との出会いをもたらしてくれた。だから--。
「今度は何があってもずっと一緒に居るから。あの時みたいに1人にはしないからね--エレスメイラ」
かつて精霊と呼ばれるもの達の王といわれた存在は小さくそう呟くと、日記の続きを書くためにペンを手に取った。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる