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5 妻の決意は固く、
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その日、ランゼローズ王国でも最も重き議会が開かれることになった。
後にある意味歴史に名を残すことになる議題。
それは国の筆頭魔術師、ヴィクター・アレグナーをどうやって引き止めるかというものである。
今までに前例のない議題に、ヴィクターの主張が波紋を呼び、議会は荒れに荒れた。妻を愛しすぎるが故の行動。ヴィクターを無責任だと言及する者もいた。
しかし誰もがヴィクターの言葉を完全に無視できないのも分かっていた。王国の一大戦力とされる彼が、それだけこの国において重要な存在であると、皆が分かっていたからである。
しかし――この議題は思わぬ形で収束を迎える。
契機となったのは、ヴィクター宛に届いた一通の文であった。
これにより、ヴィクターは辞めるという主張を自ら取り下げたからである。
これで国の命運は守られた。
結果、ヴィクターは筆頭魔術師を辞めることはなかった。
一時休職、という扱いで最終決定したのである。
***
「それで、旦那様は戻ってこられたのですね」
「はい。ヴィクター様は先ほど自室に戻られました」
「良かった……」
心から安堵して、ふわふわの毛皮が敷かれた座り心地の良いソファにズルズルと座り込む。
離縁を申し込んで三日後。私はようやく夫の暴走を止めることができたと安堵していた。
私はアレグナー侯爵邸にある自室で、家令からことの次第を報告されていた。
離縁を申し入れただけなのに夫はいきなり屋敷を飛び出すし、『宮廷魔術師を辞める』という文を送ってくるしで気が気ではなかった。
アレグナー侯爵邸からあまり外に出ない私ですら知っている。この国においてヴィクターがどれほど重要な存在であるか。
私の送った文は無事にヴィクターの元に届き、夫は辞めると言う主張を撤回したそうだ。
国王陛下に辞職を直談判したと聞いた時はあまりに恐れ多いことに顔面が蒼白になった。
夫と国王陛下は長年の付き合いがあることは知っていたが、まさかそこまでするなど思っていなかったのだ。
それも全て、私が「離縁したい」などと言ってしまったせいだ。まさかこんなに大事になるなど、誰が予想出来ただろうか。
「――以上が報告になります。ヴィクター様は自室にいらっしゃいますが……お会いになられますか?」
アレグナー邸を統括する家令、ライナス様が私に確認をしてくる。
アレグナー侯爵家に嫁いで三年、私は屋敷の使用人達とも親しくなった。家令のライナス様は気配りに長けた人物で何かとこうして私を気遣ってくれる。私にとっては非常に有難いことだった。
ヴィクターの辞職騒動などの勢いに呑まれて有耶無耶になってしまったが、私の意思は変わらない。
ヴィクターが出ていった後、急遽文をしたため、呆然としていた私に声をかけてくれたのもライナス様だ。
『リューン様のお言葉に返事もせず出ていってしまった主人に変わりお詫び申し上げます。ですがあの方も突然のことに慌てていたのだと思います。それを踏まえた上で、一度だけでいいので考え直しては貰えませんか?』
というライナス様の言葉に、この三日間考え直してみた。しかし今一度時間を置いて考えて見ても、離縁という結論は変えられなかった。
夫が浮気をしているのは事実で、私は所詮お飾りの妻。本命の女性がいるのであればそちらに妻の座を譲るべきだし、浮気されたまま名ばかりの妻でいるのは、自分が惨めな気持ちになるだけである。
ライナス様は私を引き留めようとしてくれていた。アレグナー侯爵邸の使用人達は皆穏やかで心優しく、こんな不甲斐ない私にもとても良くしてくれた。
そんな人たちに恩を仇で返すような行為をするは心苦しいけれど、私はいい加減、自分の気持ちに正直になりたい。
離縁したいと言って騒動を大きくしたことに責任を感じてもいるが、このまま私が妻の座に収まっていても何も解決は見られない。
――決めた。私の結論は変わらない。今度こそ旦那様に離縁を認めてもらうわ。
不安そうにこちらを見つめるライナス様に、私は決意を決めてソファから立ち上がると、告げた。
「はい、旦那様に会わせて下さい」
絶対に離縁を認めてもらうのだ。何があったとしても。
後にある意味歴史に名を残すことになる議題。
それは国の筆頭魔術師、ヴィクター・アレグナーをどうやって引き止めるかというものである。
今までに前例のない議題に、ヴィクターの主張が波紋を呼び、議会は荒れに荒れた。妻を愛しすぎるが故の行動。ヴィクターを無責任だと言及する者もいた。
しかし誰もがヴィクターの言葉を完全に無視できないのも分かっていた。王国の一大戦力とされる彼が、それだけこの国において重要な存在であると、皆が分かっていたからである。
しかし――この議題は思わぬ形で収束を迎える。
契機となったのは、ヴィクター宛に届いた一通の文であった。
これにより、ヴィクターは辞めるという主張を自ら取り下げたからである。
これで国の命運は守られた。
結果、ヴィクターは筆頭魔術師を辞めることはなかった。
一時休職、という扱いで最終決定したのである。
***
「それで、旦那様は戻ってこられたのですね」
「はい。ヴィクター様は先ほど自室に戻られました」
「良かった……」
心から安堵して、ふわふわの毛皮が敷かれた座り心地の良いソファにズルズルと座り込む。
離縁を申し込んで三日後。私はようやく夫の暴走を止めることができたと安堵していた。
私はアレグナー侯爵邸にある自室で、家令からことの次第を報告されていた。
離縁を申し入れただけなのに夫はいきなり屋敷を飛び出すし、『宮廷魔術師を辞める』という文を送ってくるしで気が気ではなかった。
アレグナー侯爵邸からあまり外に出ない私ですら知っている。この国においてヴィクターがどれほど重要な存在であるか。
私の送った文は無事にヴィクターの元に届き、夫は辞めると言う主張を撤回したそうだ。
国王陛下に辞職を直談判したと聞いた時はあまりに恐れ多いことに顔面が蒼白になった。
夫と国王陛下は長年の付き合いがあることは知っていたが、まさかそこまでするなど思っていなかったのだ。
それも全て、私が「離縁したい」などと言ってしまったせいだ。まさかこんなに大事になるなど、誰が予想出来ただろうか。
「――以上が報告になります。ヴィクター様は自室にいらっしゃいますが……お会いになられますか?」
アレグナー邸を統括する家令、ライナス様が私に確認をしてくる。
アレグナー侯爵家に嫁いで三年、私は屋敷の使用人達とも親しくなった。家令のライナス様は気配りに長けた人物で何かとこうして私を気遣ってくれる。私にとっては非常に有難いことだった。
ヴィクターの辞職騒動などの勢いに呑まれて有耶無耶になってしまったが、私の意思は変わらない。
ヴィクターが出ていった後、急遽文をしたため、呆然としていた私に声をかけてくれたのもライナス様だ。
『リューン様のお言葉に返事もせず出ていってしまった主人に変わりお詫び申し上げます。ですがあの方も突然のことに慌てていたのだと思います。それを踏まえた上で、一度だけでいいので考え直しては貰えませんか?』
というライナス様の言葉に、この三日間考え直してみた。しかし今一度時間を置いて考えて見ても、離縁という結論は変えられなかった。
夫が浮気をしているのは事実で、私は所詮お飾りの妻。本命の女性がいるのであればそちらに妻の座を譲るべきだし、浮気されたまま名ばかりの妻でいるのは、自分が惨めな気持ちになるだけである。
ライナス様は私を引き留めようとしてくれていた。アレグナー侯爵邸の使用人達は皆穏やかで心優しく、こんな不甲斐ない私にもとても良くしてくれた。
そんな人たちに恩を仇で返すような行為をするは心苦しいけれど、私はいい加減、自分の気持ちに正直になりたい。
離縁したいと言って騒動を大きくしたことに責任を感じてもいるが、このまま私が妻の座に収まっていても何も解決は見られない。
――決めた。私の結論は変わらない。今度こそ旦那様に離縁を認めてもらうわ。
不安そうにこちらを見つめるライナス様に、私は決意を決めてソファから立ち上がると、告げた。
「はい、旦那様に会わせて下さい」
絶対に離縁を認めてもらうのだ。何があったとしても。
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