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6 それはもう、物凄く綺麗なものでした
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ライナス様に伴われて、ずっと隔てられていた扉の向こうへと足を踏み入れる。
私とヴィクターの部屋は扉ひとつを隔てて続き間になっている。
夫婦としてはごく一般的な構造。
しかしこのふたつの部屋を隔てる扉はこの三年間、一度も開かれることは無かった。
そして私はそのまま離縁を申し入れようとしている。
だからこの扉がその役目を果たすのはこれで最初で最後になるだろう。
「旦那様、失礼致します」
ライナス様からヴィクターが中に居るのは既に確認済み。念の為ライナス様に頼んで、また夫が逃走しようとした時のために防止のための人も用意してある。
準備は万端整った。
あとは私が話を切り出すだけだ。
夫婦であるが故に遠慮はせず、返事を待たずして開かずの間であった扉を開く。
三年間閉ざされたままだった扉はギィ……と少し硬い音を立てて開く。ついに決戦の場へと私は足を踏み入れた。
初めて見た夫の部屋。全体的に白と青で統一された室内は実に簡素で、必要最低限のものだけが置かれた部屋、といった印象だ。
宮廷魔術師で家を空けがちな彼らしいかもしれない。
それらを一瞥し、執務机の椅子に腰掛けていたヴィクターを真正面に見据える。
突然の訪問に驚いたのか、彼は紫色の目を僅かに見開いている。
氷の魔術師と呼ばれる彼も驚いた表情をするのだな、と少し意外に思いながら私は単刀直入に話題を切り出す。
「旦那様、改めてお話があります」
――ズザザザッ!
カツカツとヒールの音を響かせて執務机の前まで来ると、ヴィクターが器用に椅子ごと少し後ずさった。
先刻までは僅かに見開かれていただけだった紫色の瞳は、今や零れんばかりに驚いている。
一体何をそんなに驚いているのか。
ヴィクターの反応に僅かに戸惑いながらも、先手必勝とばかりに私は話題を切り出した。
私の目的を果たすために。
「改めて申し上げます。旦那様、私と離縁してくださいませ」
――ガタンッ!
ヴィクターが椅子から転げ落ちた。それはもう、ずっこけた、としか言い表せないほど見事に転げ落ちた。
床に尻もちを着き、青ざめている夫、ヴィクター。
何がそんなにショックだったのか分からない。
「この前は有耶無耶にされましたが、今回はきっちりと認めて頂きます。さぁ、離縁を許可してくださいませ」
強気で行くと決めた私はずずい、と迫る迫る。
椅子から転げ落ちたヴィクターの目の前まで迫り、手を伸ばせば届く距離まで詰め寄る。
「ッ!」
そうすると何故かヴィクターが狼狽え始めた。何故か私を見て合掌しかけ、頭を振るとその手を頬へと持って自分の頬を叩いた。
「よしっ」
力一杯叩いたようで頬は手形が残るほど赤くなっているが、本人は気にしていない様子である。
何が「よしっ」なのかは分からないけれど、気持ちは持ち直したらしい。
改めて私の方へ向き直ると、何故か床の上で綺麗な正座になる。
そして私を真正面に見据え――。
「今まで申し訳なかった! 今一度、私との関係をやり直してもらえないだろうか!!」
勢いよくそう言って、頭を地面に下げた。
物凄く潔い、シンプルな土下座であった。
私とヴィクターの部屋は扉ひとつを隔てて続き間になっている。
夫婦としてはごく一般的な構造。
しかしこのふたつの部屋を隔てる扉はこの三年間、一度も開かれることは無かった。
そして私はそのまま離縁を申し入れようとしている。
だからこの扉がその役目を果たすのはこれで最初で最後になるだろう。
「旦那様、失礼致します」
ライナス様からヴィクターが中に居るのは既に確認済み。念の為ライナス様に頼んで、また夫が逃走しようとした時のために防止のための人も用意してある。
準備は万端整った。
あとは私が話を切り出すだけだ。
夫婦であるが故に遠慮はせず、返事を待たずして開かずの間であった扉を開く。
三年間閉ざされたままだった扉はギィ……と少し硬い音を立てて開く。ついに決戦の場へと私は足を踏み入れた。
初めて見た夫の部屋。全体的に白と青で統一された室内は実に簡素で、必要最低限のものだけが置かれた部屋、といった印象だ。
宮廷魔術師で家を空けがちな彼らしいかもしれない。
それらを一瞥し、執務机の椅子に腰掛けていたヴィクターを真正面に見据える。
突然の訪問に驚いたのか、彼は紫色の目を僅かに見開いている。
氷の魔術師と呼ばれる彼も驚いた表情をするのだな、と少し意外に思いながら私は単刀直入に話題を切り出す。
「旦那様、改めてお話があります」
――ズザザザッ!
カツカツとヒールの音を響かせて執務机の前まで来ると、ヴィクターが器用に椅子ごと少し後ずさった。
先刻までは僅かに見開かれていただけだった紫色の瞳は、今や零れんばかりに驚いている。
一体何をそんなに驚いているのか。
ヴィクターの反応に僅かに戸惑いながらも、先手必勝とばかりに私は話題を切り出した。
私の目的を果たすために。
「改めて申し上げます。旦那様、私と離縁してくださいませ」
――ガタンッ!
ヴィクターが椅子から転げ落ちた。それはもう、ずっこけた、としか言い表せないほど見事に転げ落ちた。
床に尻もちを着き、青ざめている夫、ヴィクター。
何がそんなにショックだったのか分からない。
「この前は有耶無耶にされましたが、今回はきっちりと認めて頂きます。さぁ、離縁を許可してくださいませ」
強気で行くと決めた私はずずい、と迫る迫る。
椅子から転げ落ちたヴィクターの目の前まで迫り、手を伸ばせば届く距離まで詰め寄る。
「ッ!」
そうすると何故かヴィクターが狼狽え始めた。何故か私を見て合掌しかけ、頭を振るとその手を頬へと持って自分の頬を叩いた。
「よしっ」
力一杯叩いたようで頬は手形が残るほど赤くなっているが、本人は気にしていない様子である。
何が「よしっ」なのかは分からないけれど、気持ちは持ち直したらしい。
改めて私の方へ向き直ると、何故か床の上で綺麗な正座になる。
そして私を真正面に見据え――。
「今まで申し訳なかった! 今一度、私との関係をやり直してもらえないだろうか!!」
勢いよくそう言って、頭を地面に下げた。
物凄く潔い、シンプルな土下座であった。
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