この契約結婚に、愛は必要ですか?

蓮実 アラタ

文字の大きさ
6 / 11

6 それはもう、物凄く綺麗なものでした

しおりを挟む
 ライナス様に伴われて、ずっと隔てられていた扉の向こうへと足を踏み入れる。
 私とヴィクターの部屋は扉ひとつを隔てて続き間になっている。
 夫婦としてはごく一般的な構造。

 しかしこのふたつの部屋を隔てる扉はこの三年間、一度も開かれることは無かった。
 そして私はそのまま離縁を申し入れようとしている。

 だからこの扉がその役目を果たすのはこれで最初で最後になるだろう。

「旦那様、失礼致します」

 ライナス様からヴィクターが中に居るのは既に確認済み。念の為ライナス様に頼んで、また夫が逃走しようとした時のために防止のための人も用意してある。

 準備は万端整った。
 あとは私が話を切り出すだけだ。

 夫婦であるが故に遠慮はせず、返事を待たずして開かずの間であった扉を開く。
 三年間閉ざされたままだった扉はギィ……と少し硬い音を立てて開く。ついに決戦の場へと私は足を踏み入れた。


 初めて見た夫の部屋。全体的に白と青で統一された室内は実に簡素で、必要最低限のものだけが置かれた部屋、といった印象だ。
 宮廷魔術師で家を空けがちな彼らしいかもしれない。

 それらを一瞥し、執務机の椅子に腰掛けていたヴィクターを真正面に見据える。
 突然の訪問に驚いたのか、彼は紫色の目を僅かに見開いている。

 氷の魔術師と呼ばれる彼も驚いた表情をするのだな、と少し意外に思いながら私は単刀直入に話題を切り出す。

「旦那様、改めてお話があります」

 ――ズザザザッ!

 カツカツとヒールの音を響かせて執務机の前まで来ると、ヴィクターが器用に椅子ごと少し後ずさった。
 先刻までは僅かに見開かれていただけだった紫色の瞳は、今や零れんばかりに驚いている。

 一体何をそんなに驚いているのか。

 ヴィクターの反応に僅かに戸惑いながらも、先手必勝とばかりに私は話題を切り出した。
 私の目的を果たすために。

「改めて申し上げます。旦那様、私と離縁してくださいませ」

 ――ガタンッ!

 ヴィクターが椅子から転げ落ちた。それはもう、ずっこけた、としか言い表せないほど見事に転げ落ちた。
 床に尻もちを着き、青ざめている夫、ヴィクター。
 何がそんなにショックだったのか分からない。

「この前は有耶無耶にされましたが、今回はきっちりと認めて頂きます。さぁ、離縁を許可してくださいませ」

 強気で行くと決めた私はずずい、と迫る迫る。
 椅子から転げ落ちたヴィクターの目の前まで迫り、手を伸ばせば届く距離まで詰め寄る。

「ッ!」

 そうすると何故かヴィクターが狼狽え始めた。何故か私を見て合掌しかけ、頭を振るとその手を頬へと持って自分の頬を叩いた。

「よしっ」

 力一杯叩いたようで頬は手形が残るほど赤くなっているが、本人は気にしていない様子である。
 何が「よしっ」なのかは分からないけれど、気持ちは持ち直したらしい。

 改めて私の方へ向き直ると、何故か床の上で綺麗な正座になる。
 そして私を真正面に見据え――。

「今まで申し訳なかった! 今一度、私との関係をやり直してもらえないだろうか!!」

 勢いよくそう言って、頭を地面に下げた。
 物凄く潔い、シンプルな土下座であった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...